第69話 あったか世帯寮がまっている
「ふわ……すごい…………本当に、ホンモノの腕みたいに、ちゃんと動くんですね」
「はいっ。えっと、えっと……とても、高級品? 高性能、品? ……コストを、度外視、みたい……ですっ」
「ほわぁぁぁ…………あっ、すべすべ、ふにふに。……不思議な感触ですね? ……これ、触ってるの、わかるんですか?」
「……んー、やっぱり……感覚? 触覚? は、無い、ので……へんなかんじ、練習必要、ですっ」
「…………私も、精いっぱいフォローしますから……
「っ!? っ、っっ! ……はいっ!」
――――はいはい、よく出来ました。よくがまんしたね、ファオ。
(だって! ジーナちゃんには嫌われたくない! 変態って思われたくないから!)
――――じゃあ尚のことがんばらなきゃね、変態なことしないようにね。がんばろうね。
(うおおお!!)
病院にてステキな義手を着けてもらって、衣料品店ではステキな衣類と下着を用意してもらって……今日の『代休』は慌ただしくも、私にとってはとても有意義な一日だった。
調達した大量の衣類が詰まった、大きな買い物袋……以前だったらひとりで運ぶのに難儀していただろう
他の人にとっては、そして前世では『当たり前』にできていたことだけど……やっと私も、その『当たり前』まで手が届いたのだ。
まあ……帰りのトラムの中でちょっとバランス崩して、
どうやら、手を引っ張る方向に力が加わると、けっこう簡単に『ぽろり』してしまうようだ。そして公衆の面前で『ぽろり』してしまうと……なんだか大変なことになってしまうらしい。
とにかく、なるべく『ぽろり』しないように気をつけて、日頃から気をつけて生活しなければなるまいよ。
……まあ、そんなわけで。
私はこの新装備の具合を確かめつつ、託児所もとい特務開発課へと立ち寄って、いい子でお留守番していたふたりを回収。
保父さんもとい技術主任から『とても良い子でしたよ』とのお言葉もいただき、3人仲良く帰路についたというわけで。
なお、例によって『いい子』のふたりは、私の抱えていた大荷物を率先して持ってくれた。……とても偉い……泣きそう。
動作義肢のおかげで大きな荷物を持てるようになったとはいえ……やはり『ぽろり』を防ごうとなれば、そこそこ以上に疲れる力の入れ方をしなきゃいけないのだ。
ふたりが荷物を運んでくれるのは……はっきり言って、とてもたすかる。もう、すき。
「……それでは、お風呂はどうしますか? 両手が使えるようになったことですし……ひとりで入りますか?」
「んうー…………嫌、じゃ、なかったら……いっしょが、いい、ですっ」
「ふふっ。……ぜんぜん、嫌じゃないですよ。みんな一緒に入っちゃいましょう」
「はいっ!」「……は、ぃ」「……んっ」
そしてやっぱり、ジーナちゃんだいすき。とてもやさしい。あとかわいい。かわいいし、やさしい。いつもとっても迷惑を掛けてしまっているけど、嫌な顔ひとつしないで手伝ってくれる。天使か。
彼女だって、カーヘウ・クーコ士官学校に通う学生さんである。日中は予科や本科の講義に実習にと忙しい身でありながら、お家では私達3人のごはんを用意してくれたり、こうしてお風呂で身体を洗ったりしてくれるのだ。
いちおう、私の『特課少尉』としての稼ぎから、謝礼の方も振り込まれているはずなのだが……この子はそれを、おいしい食材やら上質な液体石鹸やらで、私達に還元しようとしてしまうのだ。
はー、なんなのよ。まったく。ゼファー隊長さんてば子育てもお上手すぎませんか。いい子すぎやしませんか。
そんないい子にお風呂に誘われたので、ちょっと行ってきますね。いや今の私ってばマジで勝ち組だと思うわ。
……ここに来るまでが酷すぎたからな。これくらい幸せでも、罰は当たるまいよ。
「はいっ。じゃあ、洗っていきますね」
「はぅぃ〜〜」
私達の住処であるファミリー向け賃貸物件だが……はっきり言って築年数そのものは、それなりに行っている建物である。
設計というか間取りのほうも、そこかしこに『古いつくり』が見え隠れしており……それはなんと、この『お風呂場』にも言えたりする。
今でこそ洗濯機のような魔具が普及しているが、少し前の一般家庭では……まあ、桶にぬるま湯を張ってバッシャバッシャゴシゴシするのが、一般的な『洗濯』というものだったらしい。
そしてその作業をやりやすくするため、また大量の衣類を一気に浸け置きするため、洗濯を行う水回りというか『お風呂場』は、広さに余裕をもたせた造りであることが多かったらしい。
だからこそ……こうして女の子4人が、一度にお風呂に入れるわけで。
お湯に浸かって気持ちよさそうな顔をしている小さいふたりを眺めながら、身体をごしごしと洗ってもらえる広さがあるわけで。
(はー…………たまらん、ほんっとたまらん)
――――えっちはダメだよ? 3人ともたいせつな『かぞく』でしょ?
(そうだけどお! ……テアはよく平然としていられるね、えっちな気分なったりしないの?)
――――今わたしの
(そうだった!! つまり『音声のみでお楽しみ下さい』ってやつ!?)
――――よくわかんないけど、どうせえっち関係の表現でしょ?
(ひ、否定しきれないのが悲しい!)
うーむ……そういえば今さらだけど、テアの『本体』はあくまでも【グリフュス】の制御中枢に囚われているわけで。普段はこうして、私専用の拡張知覚デバイスであるゴーグル越しに、周囲を覗き見ることしか出来ないのだ。
私がお風呂している間は、いつも脱衣場で
彼女自身は「それでいいよ」「問題ないよ」と言ってるけど……そりゃ本音を言うと、一緒にお風呂に入りたい。
とはいえそれは『拡張知覚デバイスをお風呂場に持ち込む』とかそういうんじゃなくて……まあ、高望みが過ぎるというか、叶わぬ願いというやつだろう。
――――まったく……わたしの相棒ときたら、ホントに『ほしがりさん』なんだから。
(んうー……ごめんね、テア。……いつも、私ばっかり楽しんでて――)
――――わたしは、ファオといっしょが楽しいから。ファオといっしょが、すきだから。……だから、大丈夫なの。
(…………うん)
――――それでも、気になるなら……また
(………………うん。……デート、しようね。こんど)
――――んへへー!
それを自覚しているだろうに……しかし前向きな彼女は、決して悲観しない。どころか、いつもこうして私を勇気づけてくれる。
凄惨な過去を持ちながら、こうして前向きに生きようとする、明るくて健気な彼女に……やっぱり、私も報いたい。
彼女が私のことを大切に想ってくれているように……私も
少しの躊躇も無くそう思えるくらいには、この子のことが大好きなのだ。
――――――――――――――――――――
「…………それ、本当ネ?」
「カカカッ! なんとなんと……冗談にシテは、さすがにタチが悪イネ。……センスもナイヨ」
「ぁ、あぁ……無論、冗談などでは無い。……疑うのなら、あの子の処置を行った者へコンタクトを取ろう。其処で存分に、直接話を聞いて貰って構わぬ。……我々とて……ソレが只の勘違いであったのなら、どんなに良かったことか」
「フィーデス……どうするネ?
「………………
「……フィーデス、落ち着くヨ」
「…………失礼シタ。……すまない、チョト『頼み』アルヨ、トゥリオ……いや、【
「カカカッ!
「感謝スルヨ。…………サテ、長官殿。……少ぉし『だいじ』な相談アルネ、耳貸すヨ」
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