第68話 装備の新調はいつだってワクワク




 これまで何度か述べているように、私は今世における『自分』であるを、とても魅力的に感じている。


 常日頃から『えっちなことしてしまいたい』と考えるのは……まあ当然のことなので、今回は一旦置いておくとして。

 本日先ほど、長らく欠けていた左腕がついに補われたことで――つまりこの魅力的な少女が『完璧』に近づいたことで――この子を『着飾りたい』という欲求が生じてきているのだ。


 つまりファオにとって、テアの身体とは、自分のものであるのと同時に『鑑賞』の対象……要するに『好きな子』でもあるわけでして。

 うーん……我が身のことながら、なかなかにこじらせてる自覚はあるぞ。ナルシストかな。




――――はい、ファオ語ペナルティひとつね。


(あー、ナルシスト? んー……自分の顔とか、身体とか、すっごい好きで見惚れちゃってどうしようもない人のこと。大抵こじらせててちょっとキモチワルイに片足突っ込んでる)


――――なんだ、ファオのことじゃん。


(んゴーーーッ!!)



 突然咳き込んだ私に店員のおばちゃんが『ぎょっ』とした顔を見せたが、可愛い私の申し訳なさそうムーブのおかげもあってか、すぐさま調子を取り戻してくれたようだ。

 安心したような笑顔に戻って、私の希望に沿った――それでいて幸運にもサイズが合致する――衣類を、次々とピックアップしていってくれる。


 軍人さんらしいキッチリとしたカッコよさを残しながら、日常生活を送る際の普段着として使えて、それでいてこの身体に似合う『かわいい』を含んだ衣服。

 カットソー、ワンピーススカート、ショートパンツ、フレアスカート……幸いというかに発展している服飾文化に感謝しながら、私は『好みの女の子を着飾る』アイテムを見繕っていく。


 さすがプロなだけあって、おばちゃんのピックアップはやはりセンスがいい。可愛らしく、それでいて『女の子』過ぎず、絶妙なバランスのものを選んでくれている。

 うーん、やっぱりプロおばちゃんに頼ってよかった。もっというと、このお店を教えてくれたあのお母様と出会えてよかった。

 それはつまり突き詰めると、トラム車内であの三人姉弟に声を掛けてもらったからなわけで……要するに『私が可愛いから』に行き着くわけだな。やはり『可愛い』は正義なのだ。




 ……そして、もうひとつ。女の子を彩るうえで、絶対に欠かせないもの。

 ときとして勝負に臨む女の子に、絶大な戦闘力と勇気を与えるもの。


 それすなわち……最終防衛線、『下着』。



(……女の子の下着なんて、当たり前だけどなるまで見つめること無かったからなぁ)


――――わたしも、えっと、まじまじしたこと無いよ。支給してもらったやつしか知らない。……から――


(びっくりだよねぇ……すごい、こんなの……ぇえ、こんなのもあるんだ……もう隠せてないじゃん……)


――――さすがにファオみたいな『こども』がはくやつじゃないと思うよ。おしりの大きさぜんぜん違う。


(そりゃそうでしょ、テアみたいな小柄で儚げな美少女がのはいてたら…………いや、普通にえっちだよな。逆に『あり』か?)


――――えー、やめようよ、おしりカゼ引いちゃうよ? おふろのお姉さんたちに心配されちゃうよ? ……いろんな意味で。


(まあ『ない』よな。……ちょっと、あだるてぃーすぎる)




 選んだ衣類を店員のおばちゃんに預け、袋詰めとお金の計算をしてもらっている間、私達はドキドキしながらも下着売り場を物色している。

 お年頃の私達であるからして、さすがにそろそろ下着のほうも色気づきたくなるお年頃なのであって……つまり、そろそろ『真っ白ぱんつ』から脱却したいと考えているためだ。


 ……それに、たとえば一緒にお洗濯してしまうと、同様に真っ白なシスやアウラの下着と混ざってしまう。

 同居人とはいえ他の子の下着を間違ってはいてしまうのは……なんというか、一線を越えてしまうような気がして、とてもいけない気持ちになってしまうのだ。



 私達に支給された下着からなんとなく解っていたことだが……この世界は衣類もさることながら、下着に至るまで近代的なものが揃っているらしい。

 例のファンタジー動力機関を用いた紡績機や織り機など、工業分野でも産業機械が割と発展・普及しており、また『特定の【魔物モンステロ】の筋繊維』がゴムひもの代替品として活用されているらしく……あー、うん、深く考えないようにしよう。製造工程とかもできれば見たくない。


 そんな経緯もあって、この異世界における服飾関連技術のレベルとしては……前世と並ぶ――かは正直わからないが、少なくとも普段使いの部分で不自由しない――程度には、研鑽されているようで。

 手触りも、身に付けてみた感じも、大事なところを委ねるに足る品質であると判断したわけで。




(……いきなり鮮やかすぎる色はなぁ)


――――ちょっと飾りついたやつとか、いいんじゃない? ほら、リボンついてるのとか。


(ワンポイントとか、ふちのゴムにカラー入ってるやつとか、そういうのが良さそうかなって)


――――わたしもそう思う。……やっぱ『こどもっぽさ』のこってたほうが似合うんだよ、ファオはちっちゃいから。


(将来に期待だから! いつかは黒のスケスケレースが似合う女になるんだから!)


――――かいしゃくちがい、なので……小さくてかわいいファオのままでいてね。


(………………むごー!)




 まあ……実際のところ、この身体が『ぼんきゅっぼん』で『ばいんばいん』になる日は、果たして訪れるのだろうか。……ぶっちゃけ望み薄な気はする。


 くそ帝国の実験施設が、実験体に充分な食事を与えている保証は無い。勿論死なれちゃ面倒だろうし、それなりには世話をするだろうけど……健全に発育するために必要な栄養素は、恐らく足りていないのだろう。シスもアウラも小っちゃいわけだ。

 それに加えて、意図したことなのか副産物なのかは不明だが、私達はどうやら老化(=肉体の成長)が遅いらしい。中等部程度の身体つきなのも、そのせいだろう。


 この身体が生まれ生産されてからの正確な年数はわからないが、実年歴でいえばイーダミフくんやエーヤ先輩と同年齢タメでもおかしくない。

 いやむしろ……テアが『ぼんやり』と記憶している断片情報を継ぎ合わせた限りでは、その可能性も充分にあり得るのだと、前に聞いたような気がする。


 ……ただまあ、確実な証拠となる情報が無いため、せいぜい『可能性』止まりなのが悲しいところだ。イーダミフくんに歳上マウント取りたかった。




――――もういうことにしちゃえば? カンダイナーさんとかにおねがいして、『ファオの生まれ年をこういうことにしてください』って。


(なるほど、そういえばまだ私の生年月日とか、宙ぶらりんのままだったか)


――――ちゅー、ぶ……ぶら……? ちんの、たま?


(チューブブラはまた別のものね。別のものに危ないものがくっついちゃったね)


――――はいはい! ファオ語ペナルティね!


(おうち帰ったら話すね!! あと後半のはわざとでしょ!?)


――――えへへー。ち✕のたま!


(お下品! おやめなさい!!)



 とりあえず……直感的に『いいな』と感じた下着を数点、着回しも考慮して追加購入していく。

 白もしくは淡いパステルカラーをベースにしながら、ワンポイントやビビットカラーの縁取りラインなんかで飾られている、控えめながらかわいいやつだ。


 緻密な紡織技術の結晶たる『下着』は、決して安いものではないようだが……今の私はきちんとおつとめを果たして、正当なおちんぎんを頂いている立場である。

 下着やら普段着やらの日用品くらいであれば、そんなに不自由することなく調達することが可能なくらいには、私はおシゴトをがんばっているのだ。




(お洋服と、下着と……これでヨシ。とりあえずは不自由しないでしょ。テアも満足した?)


――――うーん……まあ、いいでしょう。今後とも『かわいい』をがんばるように。


(うーん? うーーん……まぁ、そりゃふつうに意識はしますけども)


――――うんうん。がんばろうね。ファオ『なんでもするから』っていったもんね。


(うーーーん…………? そっかぁ……そうだよね、じゃあ仕方ないよね)


――――ウフフフフ。



 支給された会計用カードを渡し、衣類一式の会計手続きをパパっと済ませる。私自身、なかなか大量買いした自覚はあるのだが、店員のおばちゃんの反応から察するになのだろう。

 私が超絶人気属性軍人見習い美少女という点を差し置いても、ものすごく嬉しそうなニコニコ笑顔で袋詰めをしてくれて……恐らくは来客用ルーチンではない、本心からの『また来てね!』のお言葉を頂戴するに至った。



 ……ま、まぁ、実際ほしい衣類もちゃんと揃ってたし、お値段も良心的だ(と思う)し、店員さんのセンスも良かった(と思う)ので……通うのは、別にやぶさかじゃないですとも。




――――ぱんつ、ぱんつ。よかったね、ファオ。


(うん。よかった。…………んふふ、帰ってお風呂入って……さっそくはいちゃおう)


――――ちゃんと、ふたりお迎えにいくの、忘れちゃだめだよ。


(わ、わかってるよお!)




 大事なオシゴトの合間の、ちょっと慌ただしい『代休』だったけど。

 いろんな人たちとのご縁があって、また多くの手助けや力添えもあって、とても有意義な一日を過ごすことが出来た。


 …………とてもうれしい、よい一日でした。



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