第71話 おそらくはシェル構造というやつ
≪すごい、スゴイネ。あんなデカくて重そうなエメトがスイスイ飛んでるヨ≫
≪早くソコを替わるネ。フィーデスばかりズルイヨ、アも前の席に座りたいネ≫
≪うるさいヨ。大人しくするネ、居眠り女≫
≪調子乗るでナイヨ、お漏ラシ女≫
≪それはライン超えたネ! 覚悟スルヨ!≫
≪望むトコロヨ!
(……おも、らし…………おもらし!? おもッ!? エッ!!? おも!!!)
――――音声通信切っとくね。
(ああ! そんな!!)
――――ぬすみぎきは趣味わるいよ?
(ぐぬゥー!!)
……そんなわけで、あっという間に翌日。
朝それなりに早い時間にシュト基地を出発した私達は、3機なかよく足並み揃えてヨーベヤ大森林へと向かっていた。
シュトのまわりは地形的にも構造物的にも、勢いよく直進できないつくりなので、こうして空を飛べることのアドバンテージはなかなかにデカイ。
……というかそもそもシュトそのものがデカイし、けれども中世の城郭都市みたいに壁で囲われてるわけじゃないので、どこまでがシュトなのかさえよくわからないが……とにかく、お家やら何やら建物がいっぱいなのだ。
そんな家々を見下ろしつつ大森林方向へと飛ぶにつれて、次第に家々もまばらになり、農地や牧草地のような広々とした風景に切り替わっていく。
更にぐねぐねと流れる大きな川を越え、いきなり立ちはだかる連山を越え、裾野の航空基地を越え、一気に殺風景になった平野を越え……その先に見えてくるのがアホみたいにバカデカい木々の大海と、その手前にポツンと佇むエマーテ砦だ。
エルマお姉さまたち輜重課の皆さんは、引き続き遠征行軍を継続中であるらしい。つまりは『木こり』や素材回収のお仕事も続いているわけで……ほんと、長丁場おつかれさまです。
「…………んんっ。……あー、えー……あのっ、フィーデスさん、トゥリオさん」
≪ふ、ファオ? どうしたネ?≫
≪な、何か用カ?≫
「えっと、えっと…………もうすぐ、エマーテ砦……おります、か?」
≪ファオらは大丈夫ネ? 疲れるは無いカ?≫
「えっ? あっ、えっと……大丈夫、ですっ」
≪……なら、悪イが『キャストラム』へ急いでホシイネ。ファオらにはすまないが、見せたいものアルヨ。着いたらちゃんと労うカラ、もうチョト頼みたいネ≫
「りょ、かい……ですっ」
私は……というかシスもアウラも、特務制御体としての強化処置が施されている。そもそも過酷な現場へと投入されることが常であり、継戦能力に関しても一般兵士とは比較にならない。
お客様が「問題ナイネ」とおっしゃるのなら……私達も当然問題なんて無いわけで、直接ゴール目指して突き進むことが出来るのだ。
そうして首都を出立してから、ほぼノンストップで一直線に突き進むこと、およそ半日。
私達『とてもあやしい機甲鎧小隊』3機は、ヨーベヤ大森林の深部……前回と同じ林間の『駐機場』へと、お昼をいくらか回ったくらいには到着することができた。
うーん、やはり空路は速いな。ましてや軍用機の高出力機ともなれば、尚のことだろう。
特に今回は、行く手を阻む害虫もとい【
「ヤーヤーヤー……ホントに早いネ、もーホントに驚きヨ。コレは『リョサンガラ』の完成が待ち遠しいネ」
「…………やぱり、コレは有用きわまりないネ。……ウム。確かに『リョサンガラ』があれば、充分に勝算はアルヨ」
「う、うー? ……えっと、えーっと……長旅、お疲れ様、でしたっ」
「……でしたっ」「……したっ」
「ウム、とても快適だたヨ。感謝するネ」
「さて……メシはまだネ? 今度は
「……ツイデに、ファオらに会わせたい者も居るヨ。
「んー、うー? ……じ、じゃあ……せっかくなの、でっ」
前回のときと同様、巨大な木の
……よくよく考えれば、私達が『初めてここへ足を踏み入れたヨツヤーエ連邦国民』ということになるわけか。なかなかに光栄なことであると思うし、私個人としても嬉しい限りである。
シャウヤの方々……とくにフィーデスさんやトゥリオさんとは、今後もよろしくさせて頂きたいものだ。
階段を降りきったところのホールを抜けて、廊下の先の応接室を横目に、更に階段を
前回はさっきの応接室までだったので、ここからは完全に『はじめて』の場所である。……私はとてもたのしみだし、シスとアウラも心なしかワクワクしているみたいだ。
やがてフィーデスさんに率いられた私達は
頭上を仰いでも、青空など見えるはずもない地下集落……太陽なんかも当然存在しないのだが、不思議と薄暗さは感じない。何かしらの魔法的な光源が仕込まれているのだろうか。
それに加えて、この地下集落の規模もさることながら、ヨツヤーエ連邦国とは町並みも全く異なるものだから……歩いてると不思議な感覚というか、さながら異世界に迷い込んだようにも感じられる。
……まー、私にとっては既に、まぎれもなく異世界なわけですが。
「フフフ、気にナルカ? キャストラムの建築、外壁沿いは岩盤を削り出し用いルガ……このへん、大体は『コングレトゥス』を用いて
「こ、こん? こん……はん、ぐれ?」
「『コングレトゥス』ネ。大地の
「ほえー………………あっ、えっ? ……あっ、あぁ……コンクリート? です、か? なるほど……すごい」
「…………今ので理解シタカ。ファオはトテモ賢いネ」
「んぅ、えへっ。えへへ……ありがと、ざいますっ」
なるほど
地下を掘ることで材料が手に入るのなら、面倒くさがりのシャウヤにとってももってこいだろう。
……しかしながら、なんというか……私の抱いている『コンクリート造』の建造物よりも、全体的に『こぢんまり』しているイメージがある。
コンクリ造ともなるともっと大きな、それこそ大開口部をズバーンとスパンを飛ばしている建物なんかも造れそうなものだが……こういう例えは失礼なのかもしれないが、複層式の『かまくら』が寄り集まったような意匠の建物ばかりなのだ。
まあ、これはこれで『異世界らしさ』もしくは『異文化っぽさ』が感じられて、なかなかにワクワクするのだが……建物の形といい壁の分厚さといい、もしかすると『コンクリ』はあっても『鉄筋』を入れる概念は無いのかもしれない。
ふふふ……かしこいファオちゃんの知識チート無双の気配がするぞ。あとで確認しておかなければなるまい。
「…………サテ、ついたヨ。長旅ごくろうさまネ」
「ココの中、メシも用意の手配はアルが……ファオに『見せたいモノ』アルヨ。喜んでくれるとウレシイが……」
「う? …………えー、っと?」
やがて私達が案内されたのは、地下大空間の隅っこのほう、やや大きめの『かまくら』の前である。
それはよくよく見てみると、地下空間の外壁にめり込むように築かれていることから、もしかすると扉の中には外壁内部をくり抜いた空間へと続いているのかもしれない。
そんな予想を立てながら、また隠しきれない『わくわく』を感じながら、フィーデスさんたちが扉をくぐり……私達もそれに続き。
果たして、私の立てていた予想だが……どうやら半分くらいは当たっていたらしい。
(ちょ、ちょっと!? ねえちょっとテア! あの、
――――うん、びっくり。……こんなとこに、
やはりというか、建物の中は外壁の内部へと続いていたようで、外から見た以上の広さの空間が広がっており。
そしてその『広い空間』とは、これまた想像以上の広さであり……その中央に据わっているのは、薄っすらと砂埃を被った黒色装甲の巨体。
――――イードクア帝国陸軍製、汎用普及型機甲鎧【グラウコス】。なんていうか、とても標準的で、一般的で、前時代的な……まあ、
(ちょ、っ……言い方よ。……ま、まあ年式もあるだろうし……テアとか特務型の最新型だもんね)
――――ふっふーん。もっとほめていいよ。
(テアすごい。つよい。かっこいい。すき)
――――えっ、あっ、ぅやっ、……えへへ。
私達の眼前に広がる空間は、直立した機甲鎧がどうにか収まる程度。それでもこの地下集落『キャストラム』内では、広い方なのであろう。
天井に鉄鋼と思しき梁が渡されたこの空間は、格納庫というにはやや狭い気がするが……しかし用途としては
フィーデスさんに連れてこられたこの空間、彼女が私達に『見せたい』モノというのは……どうやら
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