第72話 行ったり来たりの要人護衛輸送




「さて……初めまシテ、ヨシャーエの交渉人殿。ようこそワタシの工房へ。ワタシは『マノシア』、先程ご覧頂いた【グラウコス】の管理責任者であり、シャウヤにて唯一の『機甲鎧技師インゲニアトール』デス」


「あっ、あっ、かわっ、アッ、えっと……はい。ヨツヤーエ連邦国、特課少尉、の……ファオ・フィアテーア、ですっ」




 篤学者集団シャウヤの本拠点、大森林深部の地下に広がる集落『キャストラム』、その壁面区画に築かれたここは、こちらの『マノシア』さんの工房であるらしい。


 種族的な特徴なのだろう、側頭部のツノと尻尾、ならびに物々しい前腕なんかはフィーデスさんらと同様だが……ただ一点、どこがとは言わないが控えめなのがチャームポイントだ。正直とても可愛らしい。

 また……その喋り方もなんというか、フィーデスさんらとは印象が異なる。『シャウヤなまり』とでもいうべきクセが少なく、私達の用いる文法に似ているように感じられる。


 私の感じたその疑問を『読んだ』わけじゃ無いのだろうが……その謎は、続く自己紹介によって晴らされることとなった。




「……ワタシは、昔は『イロウア』に留学してマシタので。ソコで『機甲鎧エメト』を学んだデスが……まぁ、シャウヤの言葉遣いが可笑おかしいと、周りの人間ヒュモルらに散々嘲笑わらわれましテ。……必死に矯正したつもりなのデスが、お聞き苦しかったら申し訳ないデス」


「あっ、えっと、その、ぜんぜん大丈夫、ですっ! 私も、そんな上手、じゃない、ので……はい」


「お心遣い、感謝するデス。ファオ様」




 連れてこられた建物……マノシアさんの工房内部の生活空間にて、現在私達はひとつの机を囲んでいる。そこに並んでいるのは異国情緒あふれるごはんと、人数分のカップとひえひえのお茶。

 ドアタマにお披露目された【グラウコス】、ならびに格納庫エリアの方は一旦置いておいて、私達は現在『とりあえず腹ごしらえを』と、おもてなしのお食事を振る舞ってもらっているところである。


 異文化圏の、地下集落の食事と聞いて、正直なところ期待半分不安半分だったのたが……主食であるらしいイモ的な野菜、地上の大森林でれたのだろう獣肉や鳥肉、樹の実や葉もの等を用いた食事は、ふつうに美味しく頂けました。

 このあたり(の地上)では、コショウとかハーブとか、そういうものに使える植物が生えているのだろうか。また『塩っけ』が感じられるということは、地下では岩塩が採れるのだろうか。……ということは、このへんも太古の昔には海中だったりするのだろうか。

 うむうむ、お食事の席ひとつとってみても、その土地の文化やら背景やらを窺い知ることができるのだ。やはりおいしいごはんを食べることは大切なことなのだ。



「安心スルヨ。見た目は地味で味気ないカモしれないが、貧相なりにちゃーんと外来品の『シオ』用いてるネ。味もバッチリ思うヨ」


「地味とか味気ないとか胸が小さいとか、嫌味ですカ? お客人を迎える料理作ったの、ワタシなのですガ?」


「胸は何も言テナイネ、被害妄想も甚だしいガ……大丈夫ネ、ちゃーんと感謝してるヨ。……フィーデスの無神経さは、今に始まったことじゃナイネ」


「ナント。失礼なヤツヨ」



 あっ、輸入品なんですね、お塩。……はい、たいへん結構なことだと思います。……はい。

 ということは……もしかしなくても、塩って結構貴重なのだろうか。だとすると彼女らにとっては、ずばり『塩味』なのが高級というか、とっておきのお料理なのだろうか。

 ……うん、また落ち着いたときにでも聞いてみよう。服装や装飾品なんかも可愛いし、シャウヤの文化はまだまだ知らないことだらけだ。


 ともあれ、どうやら好みの味覚にそこまでの乖離が無いようで、安心した。我々のお料理もシャウヤの方々に楽しんで貰えそうだし、私達もシャウヤ料理をおいしく戴けそうである。


 それに……帝国との交易も、昨日今日の話では無さそうだ。数年か、下手すると数十年レベルで先んじている可能性もある。なにせ諸々の対価として【グラウコス】を差し出した時期ってことだものな。

 定期的な交易に関しても、どうやら食料だけでなく、細かな調味料やら何やら随分と手広くやっているようで、遺憾ながらかなりの遅れを取ってしまっているみたいだ。ここからの巻き返しは、少しばかり難しいかもしれないな。



 ……まあとはいえ、そんなのは諦める理由にならない。逆転は『難しい』が、決して『不可能』ではない。帝国の用いている交易手段では大量輸送ができないという点は、既に露見しているウィークポイントなのだ。

 私達はここから、どうやったら帝国のやつらからシェアを奪えるか、また帝国のやつら以上に私達を好いてもらうためにはどうすべきか。そっちを考えたほうが建設的だろう。



 そんなことを考えながら、おもてなしのお料理をおいしく頂いた私達。シスもアウラも満足そうである。

 お食事後のお茶をすすって『ほっこり』しているところに……フィーデスさんは改まった様子で、お話をし始める。



「マノシアは、ワタシに同じ……シャウヤの中でも『外界に興味アル派』の者ネ。さき見たとおり、イロウアの『エメト』に惚れ込み、詳しいネ。……今回のを重く見て、全面的に協力をくれるにナタヨ」


「ん? う?? 事態……じたい?」


「…………気にしないでイイネ。……あー、マノシア、いいカ?」


「問題ないデス。……大急ぎで書き上げた『間に合わせ』デスが、ひと通りのコトは纏めてありまス。……どうぞ」


「…………う? ……ど、どうも?」



 そういってマノシアさんから手渡されたのは、何やらスケッチが添えられている紙の束。

 こんなところで『紙』が作れるのか、とも思ったが……フィーデスさんたちも普通に使ってたわ。帝国から輸入しててもおかしくないな。


 そして……手渡された紙の束をと流し見ていた私は、フィーデスさんが何故ここに連れて来たがっていたのかを察するに至った。



(…………ねえ、テア……これって、まさか)


――――うん……設計図、とか……回路図とか、そういうやつだと思う。


(動力装置が、ここ。……これは……増幅器? 動力源がここに入って……ここで制御まわりがあって……出力部分が、ここ? ……え、すごい)


――――シャウヤがひと晩でやってくれました?



 マノシアさんが見せてくれたが何なのか、なぜわざわざ私に見せてくれたのか。その理由に思い至った私が、思わず目線を上げたところ……なんだか妙に優しい表情のフィーデスさんと、バッチリと目が合う。

 困惑する私の思考をよそに、の創り手であろうマノシアさんが、ネタバラシというか種明かしをしてくれた。




「トゥリオの行使する魔法マギアに、とても遠い場所に通信を行うモノがありマス。……ワタシは一昨日、ソレでフィーデスから話を聞き、の概要と『早急に形にする必要がある』ことを把握しマシた」


「えっ? そ、そんっ…………あの、手札……よそもの、知られちゃ……」


「フフフフ……やはりファオは優しいネ、イロウアの連中とは真逆ヨ。……コレくらい知られても問題ナイネ、あとファオならべつに知られるも問題ナイヨ」


「…………トゥリオ、さん……」



 これほどの長距離で意思疎通を行うなど、どう考えても常識外、一種の『奥の手』に近しい能力であろう。私のようなよそ者に手札が知られていいわけがないし、露見によるデメリットは半端ないはずだ。

 しかしながら……マノシアさんに手札をバラされたトゥリオさんは、全く気にした様子は無い。しかも『ファオならべつにイイヨ』なんて言ってくれちゃってることだし……つまりこれらは、彼女らが敵対する意志を持ち合わせていないことの表れなのだろう。そのことは、心からうれしい。



 ともあれ、その『奥の手』のひとつであろう『超長距離通信魔法』によってマノシアさんへと伝えられ、わずか一昼夜で書き上げられた『設計図』。

 彼女が私のために組み上げてくれた、今の私が求めてやまない、ロマンあふれるその機構。


 展開距離を絞った光条魔法レーザーによって対象を溶断する、軽量コンパクトかつ高威力の近接用装備……レーザーソード。

 完成まで一足飛びで近づく『近道』が、こうして齎されたのだった。





「…………では、行ったり来たりで申し訳ナイが……マノシアを頼むネ、ファオ」


「えっ?」


アエらワタシたちはココで、一旦は『お別れ』ネ。また近いうちに会うヨ。ソレまではマノシアが、ファオらのチカラになるネ」


「は、はう!」


「そういうワケで……お世話になります、ファオ様。……ご心配なさらず。イロウア規格ですが、貨幣も幾らか持ち合わせてマス。また価値のあるであろう資材も蓄えてマスので、売却が叶えばヨシャーエの貨幣も得られましょう。自身の面倒は自分で面倒を――」


「い、いえっ! そ、そんっ……そんな失礼な、申し訳ないな、こと……しません! 軍のひと、私からお願い……ちゃんとします、からっ!」


「……ご迷惑では、ありませんか?」


「ありません! 大歓迎、ですっ!」


「…………感謝します、ファオ様」


「あっ、かわっ…………えへへっ」




 こうして私達は……フィーデスさんとトゥリオさんを送り届ける護衛輸送任務を、無事に達成。


 しかしながらその復路にて、ほかでもないフィーデスさんより新たな任務を受領。

 小柄ひかえめ竜人少女技師マノシアさんと、彼女が創り上げた『とっておき』の情報を、シュト拠点ならびに特務開発課ひみつきちへとお運びすることとなったのだった。



 異国情緒あふれる小柄巨乳竜人少女も、その破壊力はなかなかのものだったけど。

 ひかえめなのもそれはそれで、元が『えきぞちっく』なこともあってか、やはりなかなかにえっちで可愛らしかった。




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