第43話 たのしい陸戦機甲鎧特殊機動訓練
さてさて、一時は『非常識!』やら『ありえない!』やら、ひどいところでは『変態!』だとか『淫乱!』だとか散々なことを言われたりもした、この『機甲鎧による疾走』騒動なのだが。
なんとびっくり。それなりの試行回数と、それなり以上の訓練期間と、そして何よりもみんなの頑張りの成果もあって……私達の在籍する『機甲課』の面々は、件の『疾走』を(
(というわけなんだけど……ねえテア、私になにか言うことあるよね?)
――――すごいね。部隊展開速度はもちろん、会敵時の優位性も一気に上がるよ。これは革命的だよ。
(なにか言うことあるよね?)
――――ただ、整備部門との連携は必要だとおもう。関節の部分は、やっぱどうしても負荷が増えちゃうだろうし。
(私のこと『変態』って言ったよね?)
――――やっぱり、みんながモチベーションたかいよね、このクラス。もしかして、ファオがかわいいの影響だったり?
(はやくあやまって?)
――――ほらファオ、あっち。あっち、教官が呼んでるよ。集合だってほら。
(テアさん???)
私が『機甲課』の面々に『疾走』を披露し、それを実際に実現するためのノウハウを(稚拙な説明で)共有し、そして我らが教官殿が『やってみるか』と英断を下してからというもの……我々『機甲課』は来る日も来る日も、機甲鎧での『疾走』実現に向けてトレーニングを続けていた。
これまでの常識を盛大に無視した、ほぼ手探り状態での特殊機動訓練。のどかな戦術訓練エリアにて度々散見される、盛大にすっ転び、あるいは転げ回る【ベルニクラ】の姿。
他の課からは呆れを含んだ戸惑いの視線と、整備部からは割とガチめなお叱りの声とを浴び続ける日々。
しかしながら我らが『機甲課』一同は決して(最終的には)諦めなかった。日進月歩、着実に【ベルニクラ】は安定性を増していき……そしてあるときついに、ひとりの男子学生が【ベルニクラ】を『疾走させる』ことに成功した。
私達以外の搭乗者が、純度百%ふつうの連邦国民の学生が、与えられた情報と反復訓練をもってして、機甲鎧を『疾走』させることに成功したのだ。
この事実を以て、連邦国軍の陸上部隊ならびにその教導課程は、少なからず革新を迎えることとなる。
たかだか『走るだけ』などと侮るなかれ、それは今日これまでは存在していなかった概念であり、つまりは全く新たな歴史を刻む、それほどまでに価値のある出来事なのだ。
(…………なーんて言われましても、正直いってあんまり実感わかないんだよね)
――――でもでも、ファオすっごいほめてもらったじゃん? コーチョーセンセもほめてくれてたじゃん?
(カンダイナー部門長ね。……まあ、うん…………めっちゃほめてもらった。えへへっ)
――――んふふ。……よかったね、ファオ。
後方指導者
整備部からは例によって、お小言とブーイングの嵐らしいが……そこは発案者である私が直々に出向き、上目遣いで『協力のお願い』を伝えてあるので、少なくとも今のところは協力的立場を表明して貰っている。かわいいな
≪おい、特課少尉殿≫
「……ん…………なあに? イーダくん」
≪イーダミフだ、ッ! 勝手に略すな! ……客のようだぞ、おま…………特課少尉殿、に≫
「んー? …………んー……ごくろう」
――――お客さん? だれだろ……宅配便?
(えっ? いや……最近は特に注文してないと思う……けど……)
――――ねえファオ、わかった。わたし『つっこみまち』向いてないみたい。
(そうだね、正直ちょっとびっくりしたよ?)
私達『機甲課』が盛大に土煙を上げている訓練エリアに、なにやら部外者からのアプローチがあったという。しかもご丁寧にもお客様は『私』をご指名とのことであり、しかもイーダくんをパシるという抜け目のなさである。
宅配便じゃないのなら、一体誰が……と首を傾げていた私達の視界。突如として日が翳り、
思わず仰ぎ見れば……重力を無視して佇む、橙色の【アラウダ】の姿。
左右の肩に施された赤白のラインは、指揮官もとい教官搭乗機の証。どうやら私のお客さんとは……近場のエリアにて訓練稼働中だったらしい、『特空課』のエナ・チョーシェ教官のようだ。
≪ゴメンねーファオちゃん! 訓練中の忙しいトコに!≫
「あっ、えっと、こんにちわっ、エナ教官っ!」
≪はい、こんにちは。……いやいやいや、しっかしホンットスッゲーなこれ。やっぱファオちゃんの仕業なん? めっちゃ速ぇじゃん【ベルニクラ】。マジヤベーわコレ!≫
「えっと、えっと……わ、私、おしえた、だけ。……練習した、みんなの、すごい……ですっ!」
≪謙遜しなさんなって! ファオちゃんがアレコレ頑張ってるって、みーんなよく知ってっから! ホンット頑張り屋さんなんだからな〜この子は〜≫
「え、えへっ。……んへへっ」
彼が居るということは……ああ、やっぱりだ。この『疾走』訓練を俯瞰できる位置、そこそこの高度を保ちつつ、訓練用【アラウダ】が何機か滞空しているのが見て取れる。恐らくはあの中にエーヤ先輩や、彼と仲のいい先輩たちも居ることだろう。
彼ら【ペンデュラム隊】のお世話になって、辺境基地へと行って帰ってきた行軍訓練のことが、つい昨日のことのように思い起こせる。……あれは楽しかった、あとやっぱ【アラウダ】かっこいいな。
≪…………フィアテーア特課少尉殿、現在
「えっ? えっ、えっと」
≪…………ほぉ? まーまーまー、そーんなカリカリしなさんなって! 我ら同じ徽章を掲げるヨツヤーエ連邦国軍じゃねーの≫
「あっ、えっと、そ、そう、そうなので」
≪…………私は『常識的な言動』についての話をしている。
「あ、あのね、イーダくん、あのね」
≪はっはっは! ……常識的、と来たか。まるで我々が非常識であるかのような言い草……酷いなぁ、
「あ、あれっ……あれえ?」
――――な、なんか……くもゆき、あやしくない?
(だよねえ!?)
どうして。どうしてこうなった。私はただえっちがしたいだけの美少女なのに。
私がみんなに『疾走』を教えてキャッキャとハシャいでたら、知り合いの教官に『オメェすげーなオラわくわくしてきたぞ』と褒めてもらって、そしたらクラスメイトの男の子が『部外者が話しかけて来るな』と開幕から臨戦態勢で、しかし教官は『べつに常識の範囲に留めてますけど』と受け流し。
その後も何やら、はっきりいって私のことなんて忘れちゃってるんじゃないかと疑ってしまう程に、イーダくんとエナ教官はバチバチに言い合っている状態であって……さすがに異変を感じ取ったのか、我々『機甲課』のシャベリー教官と『特空課』のエーヤ先輩までもが仲裁に入る始末。
いやまあ、仲裁っていうか……喧嘩腰なのはイーダくんのほうで、エナ教官はどちらかというと受け流してる感じだったけど、それがまたイーダくんの機嫌を悪くするという悪循環。
そんな感じで、ほんの5分か10分そこらの間に、我らが特殊機動訓練の場は多くの【ベルニクラ】と【アラウダ】がひしめく一大ホットスポットとなってしまい。
それから更に5分か10分か経ったときには……ちょっと私も詳しく説明してほしいんだけど、『機甲課』および『特空課』からそれぞれ代表ひとりを選出して『公開模擬戦闘訓練』をすることになったらしく。
しかもしかも……その選出された代表者とやらが、それぞれイーダくんとエーヤ先輩なのだという。
――――なにそれ?
(まったくわかりません!)
目を白黒させて(※まあ私の目はどちらかというと青系なのだが)ことの成り行きを見守っていた私達だったが、さすがにこれはちょっと意味がわからない。
イーダくんとエナ教官の言い合いが模擬戦まで発展してしまった、というのはなんとなくわかるし……そこへ『さすがに訓練生と教官とでは勝負にならないから訓練生どうしで』との仲裁が入ったのも、なんとなくだが予測はつく。
のだが……そもそもどうして、ふたりは開幕からバチバチに険悪だったのか。両者は正直これまで交流もなさそうだったし、もしかしなくても私が何らかの火種を焚き付けてしまったのか。
この、いうなれば『機甲課』対『特空課』ともなってしまいそうな構図は……もしかしなくとも、私のせいだとでもいうのだろうか。
……あれっ、私……何かやっちゃいました?
――――おちついて、ファオ。まだファオのせいだって決まったわけじゃないよ。
(だだだだよね! だって私、まだ何も悪いことしてないし!)
≪……男に二言は在るまいな? 私が勝ったら今後、ファオ……フィアテーア特課少尉とその従者らを、危険な目に遭わせないで頂こうか≫
≪…………まぁ、別にいーんじゃね? 別にオレらは咎められる
(…………なんて???)
――――なんで???
おかしいな。私は何も、なにも悪いことはしていないはずなのに。
……どうしてこうなった。
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