第42話 たのしい最先端機甲鎧技術研究所
ここ数日の間で私達の身の回りに起こった変化は、大小さまざまかつ多岐に渡るのだが……その中でひときわ大きな変化は、大ざっぱに3つあると言えるだろう。
ひとつめは、可愛らしい同居人かつ『従者』であるふたりが、私達の生活単位に加わったこと。
ふたつめは、そんな私達の生活拠点が、学生不相応レベルのものへとアップデートされたことだ。
どちらも非常に大きな変化ではあるが……私達もここ一週間ほどを一般優良士官学校生として平穏に過ごしたことで、どうにか順応してきたところだ。
まぁ……夜間は同衾を求めるシスとアウラの襲撃に晒され続け、つまりはプライベートなスッキリが叶わず、むしろイケない気持ちが溜まってしまう一方なのだが。
そうはいっても年相応に甘えてくるふたりは可愛らしいもので、無下に扱うことなど出来やしない。
幸いなことに、ジーナちゃんも温かな目で見守ってくれているので、どうやら
病院に図書館にと、週末に予定が立て込んでいるのは事実なのだが……さすがにそろそろえっちしに行かないと、私のえっちが爆発してしまいそうだ。
そのあたりの暴走ゲージ管理には、特に気を配っておかなければならないだろう。
恩人の愛娘たるジーナちゃんは勿論として、この純真無垢なふたりを、わたしのえっち大爆発に巻き込むわけにはいかないものな。
「……はい、確認致しました。どうぞお通り下さい、特課少尉どの」
「あっ、えっと、えっと……ごくろうさま、ありがとう……ですっ」
「……ありがと、ございます」
「……しつれい、いたします」
まあ、えっちのほうも考えておかなきゃならないのだが……今私達が集中すべきは、
私達の身の回りに起こった大きな変化、その3つめ。機甲課の同輩にも、ジーナちゃんにもヒミツなここは、私達
(おじゃましまーす)
――――はーい。いらっしゃーい。
機甲鎧が立ったまま繋留できる高さの、ひろびろとした大空間。壁面の大型シャッターは閉じられ、格納庫内部のひろびろ空間には、あくせく動き回る人々と様々な装置やら機器やらが立ち並んでいる。
そんな人々の行き交う中、壁面ハンガーに支えられるように聳え立つのは……今やブルーグレーとホワイトに塗り改めた、特殊な構造の大型機甲鎧。
ここは私の愛機にして相棒、登録名【グリフュス】の専用格納庫にして解析拠点であり、連邦国軍における『特務制御体』解析の最前線なのだ。
「【グリフュス】機体オーバーホール進捗率は、現在のところ83%……本体構造部はほぼ完了していますね。未達成部分は主に、帝国製メカニクスの置換作業となります」
(ちかん!?)
――――はいはいえっちえっち。
「主な作業部位は、テールユニット内の自翔誘導爆弾格納ベイ……こちらは連邦国軍製の互換弾頭調達が困難なので、思いきってユニットごとの機能置換を提案しています。詳細は資料にて纏めておりますので、後程ご説明致しますね」
「は、はい」
――――みさいる? だったっけ、自翔誘導爆弾。ないなら仕方ないもんね。
(用意できなくはないけど、出回ってないからコストが高くつくって。……まぁ、あれば便利だけど無いならないで、あんま困らないもんね)
「その他の兵装類……連邦国軍規格で互換可能な部分に関しては、整備ならびに弾薬の補給は完了しております。本体制御系も問題なく、直ぐにでも出撃可能な状態に仕上げております」
――――作業ていねいにやってくれたし、きれいに拭き上げてくれたし、みんなとてもいいひとだよ。
「…………はい。えっと……とても、よくして、もらって……ありがとう、ございます」
「……は。恐縮です。特課少尉どの」
彼らにとっては、先進的かつ独創的(かつ一部非人道的)な機体を調査できるだけでなく、いざというときに
まあ私達だけでは機甲鎧の補給なんてどうあがいても不可能なので、プロに任せられるというのならこちらとしても助かる。心強い限りだ。
そんな感じで、この建屋は一棟まるまる私達のために誂えられているわけで、いうなれば私達の『ひみつきち』と言ってしまっても過言ではない環境であり……まあ当たり前なのだが、けっこうな数の方々が私達のために働いてくれているわけで。
なんというか、その……ありがたくて、うれしいんだけど……こそばゆい。
「……それと、こちらも資料にて纏めてありますが……
「お、おぉ…………おー、これは、また……」
「……ぼろ、ぼろ」「……ぼこぼこー」
壁面ハンガーに固定された【グリフュス】のほぼ対面、向かい側の壁に備わる固縛装置には、現在とある機体の残骸がふたつほど吊るされている。
いずれも胴体後部の動力部を、杭状のもので貫くようにして破壊されている……連邦国軍のものとは異なる造形の、その残骸。
……まあ、おわかりのことだろう。シスとアウラの乗機であった特務機、【
どちらも私が撃墜した後にケンロー辺境基地の整備部によって回収されたものが、つい先日こちらへと移送されてきたらしい。
確かに技術体系的にも【グリフュス】……もとい【
一見して明らかにダメな感じになっている残骸には、なにやら外部電源のようなものから幾条かのエネルギーラインが繋がれている。しかしながらその残骸は、ほぼほぼ胴体部分のみの『だるま』状態であるからして、何らかの動作を見せることは不可能だろう。
「あの鹵獲機2機は現在、連邦規格の動力部を仮接続しています。ご覧のように壁に
「……なので……ふたり、が、乗って……制御、してみせるの、問題ない。……んふーんー。制御系、の、解析……です、ね?」
「は。話が早くて、助かります。……御協力、お願いできますか?」
「えっと、えっと……軍、上層部のひと、『大丈夫』判断した、なら……私達、は、従う、大丈夫……です。……シス、アウラ」
「……はいっ」「……は、ぃ」
「えっと、えーっと……おにいさん、の、お手伝い。言うこと聞いて、協力する。……いやじゃない?」
「……大丈夫、です」「……わかりましたっ」
「……ん。いいこ」
「ご協力、感謝いたします」
正直、認めたくない部分もあるだろうが……帝国の機甲鎧関連技術、特にこと『尖った』部分に関しては、連邦国のものよりも確かに先を行っている。
例えば……高侵食性防壁出力パネルや、外界作用型魔法出力器など、ある意味では画期的だが独創的すぎる新機軸装備の数々は、残念ながら連邦国の技術では再現不可能であろう。
しかしながらそれ以外、基幹的な運用プロトコルや制御コードの分散配置など、これ程の機体を操るためのノウハウは引きずり出せるかもしれない。
そんな感じの思惑もあり、この『機甲鎧の先端技術研究施設』では、絶賛解析作業の真っ最中である。帝国製の特務機を制御下に置けるシスとアウラは、代替不可能な超絶おたすけ要員としての働きを求められているのだ。
……うん、どうやらちゃんと『いい子』にしているようで、とてもえらい。帰ったらよしよししてあげないと。
「それでですね、フィアテーア特課少尉どの」
「あっ、はいっ。はい、フィアテーア特課少尉、ですっ」
「先程申し上げた、テールユニットの機能置換についてなのですが――」
(ちかん!!)
――――はいはい変態変態。
(おブぇえ!?)
私も大手を振って、堂々と
私とテアによくしてくれている彼らの働きに報いるためにも、彼らの研究や機体の解析は積極的にお手伝いをしていきたい。
やはり研究である以上は、目に見えて大きな『効果』が得られれば、彼らの立場も発言力も強くなれるだろう。それは私達からの恩返しとして、申し分ない成果のはずだ。
……というわけで、せっかくなので私の『わるだくみ』に協力してもらおうと思う。なにせこちとら、再現したくてたまらない空想技術が次から次へと湧いて出てくる、大変けしからん特異体質であるからして。
私が前世から引き継いだ
ちょうど良い感じに、機体のペイロードにも余裕ができそうなところである。
ここらで一丁……実績づくり、やってみようじゃありませんか。
――――――――――――――――――――
――――それで、いったいなにをしようとしてるの? ファオは。
(はい! ビームサー○ルがほしいです!)
――――う、うん……? サーベル、って……剣の? ビームで? …………え、まさかだけど……ビームを、剣にするの? ファオの変態。
(い、いまに見てなさいよ! いまに見てなさいよ! 変態って言ったこと後悔させてやるんだから! たすけてミノフ○キー博士!!)
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