第94話 極秘シークレットひみつ作戦





「絶対ついてくから!!」


「えっ!?」


「ファオちゃんのため……いや、ファオちゃんと姉妹たちを助けるためなら、絶対についてくから!」


「あ、あのっ、でも……」




 いつになく真面目そうな……いや、深刻そうな顔で、エルマお姉さまは自らの意思を口にする。

 彼女と仲の良い輜重課のお姉さまたちも、また同様。私達の作戦に同行し『自分たちが【リヨサガーラ】を駆るのだ』と、この役目は譲るものかと、表情と声色とで示している。




「やはり帝国だったか。……私も同行しよう、いつ出発する?」


「えっ!? い、イーダい…………イーダ、くん?」


「戦火で故郷を焼かれた幼子姉妹……それだけでも充分過ぎるほど悲惨な過去だろうに、事実は更にその上を往くとはな。……貴殿は知っていたのか? 同志ツヤーネン」


「…………まァ、な。……悪く思うな、同志イーダミフ。さすがに『軍令』にァ逆らえねェのよ……」


「ふん。…………恨んでなど居らん。単に私の信用が足りていなかったという、それだけのことだろう」




 現在の状況と私達の意思を聞くなり、こちらも『さも当然』と言わんばかりに同行を申し出たイーダくん。

 話の流れで、とうとう私達の出自も自白げろげろするハメになってしまったのだが……以前私が危惧していた『帝国憎しをこじらせてうんぬん』なんて気配は、欠片も感じさせなかった。


 そして……ケンロー基地への往復作戦の際に、ひとあし先に私達の経歴を知っていた、特空課のエーヤ先輩。

 彼はというと「やっと気が楽になった」なんて苦笑しながら、イーダミフくんやエルマお姉さまたちに情報共有を行っていた。



 その情報というのは……ほかでもない。

 つまりは、私達がシスとアウラを迎え入れることを決めた際の出来事であったり……あるいは、私達が連邦国にくだってから、ケンロー基地で過ごしていたときのことを又聞きしたお話だったり。


 私達は戦災孤児なんかではなく、敵国イードクア製の特務戦闘用強化人間であると、開示された情報を正しく理解した上で。

 その上で……危険きわまりない私達の作戦に、協力を申し出てくれているのだ。




「それにしても……やっぱって、上層部の判断ってことなんですか? コトロフ大尉」


「そうだな。……カーヘウ・クーコ士官学校には、帝国によって親族を喪った者も少なくない。一つは、そういった者らをいたずらに刺激しないため。そしてもう一つは……彼女らの受けた仕打ち、その全てを開示するははばかられると、そう判断したためだ」


「…………確かに、こうして事実を聞かされれば……帝国への悪感情など、一瞬で燃え上がろうな」


「全くですよ。……こんな幼子に、よくもそんな仕打ちを……ホンット信じらんない!」



 イーダミフくん然り、エルマお姉さま然り……常識的に考えて『非人道的』な処置を幼子に施していると知れば、当たり前とばかりに激しく憤る者も多いだろう。

 対イードクア帝国のモチベーションが燃え上がるのは、すべてが悪いというわけじゃないだろうが……激しい感情、特に『怒り』は、ときとして冷静な判断力を喪わせる。


 まだまだ知識や技術を身につける段階であり、軍人あるいは兵士としては未完成である学生に、過ぎた憤怒の情を抱かせるべきではない。……そういう判断もあったのだろう。

 だからこそ、ヨツヤーエ連邦国軍の……そして士官学校の上層部は、私達の経歴を秘匿した。そしてそれは健やかな学生生活を送りたい私達にとって、とても都合の良い情報操作であったわけだ。



 ……だが、さすがにここに至っては、私達の出自を秘することなど不可能だろう。

 帝国内陸部への侵攻作戦を企てるなど、戦災孤児が企てるにしては少々以上に突飛な行動である。


 フィーデスさんらの口添えもあって、私達の『願い』を正しく察したコトロフ大尉の判断のもと、私達の秘密が(ほぼ)全て開示された結果が……先に頂戴した、皆の同行宣言というわけだ。




「…………では、改めて礼を告げさせて貰うネ。……元はといえば、アエらワタシたちが撒いたタネヨ。ヤウアアナタたちを巻き込むは申し訳ナイが……アエらワタシたちだけでは、被害者らを運ぶは不可能。出来るコトも限られるネ。……手を貸して貰えるは、素直に助かるヨ」


「えっと、えっと……私達から、も……ありがと、ございます。……私達の、わがまま、巻き込んで……ごめんなさい、あと、ありがとう」



 さすがに荒事には向いていない従軍書記官シルスさんを除き、コトロフ大尉を含む6名が協力を表明してくれた、今回の強行突破作戦。

 大前提として、彼ら彼女らに被害が出ることは許容できない。私達の秘める『願い』を叶えるのが難しいのは、私とて重々承知しているつもりだ。いざとなったら『願い』を諦めてでも、隊員の皆の安全を優先するつもりではある。


 しかしもちろん、あくまでも『優先順位としては一段下げる』というだけのこと。……せっかく舞い込んだチャンスなのだ、可能な限りは『願い』を叶えたい。

 一人でも多く、可能であれば(実戦配備されている者も含め)全ての姉妹たちを拐い、あの下劣なスバヤ生体工学研究所に痛手を与える。



 そのために……フィーデスさんが知恵と知識を振り絞って、ちゃんと『作戦』を立ててくれていたのだ。

 私達が無策で突っ込むのに比べたら、難易度も成功確率も雲泥の差といえるだろう。




「……ソレでは、作戦の概要を説明するネ」




 作戦目標は……イードクア帝国によって、今このときも悲惨な扱いを受けているであろう、被検体ならびにその候補として集められた子どもたちの救出。

 また同時に、その救出作戦を阻止すべく立ち塞がるであろう、敵方の防衛兵機や機甲鎧……そして、特記戦力『特務制御体』の無力化である。


 もちろん、正面から突入するわけではない。敵『特務制御体』との交戦は想定しているが、可能な限りは避けた方がいいに決まってる。専用機に搭乗させることなく確保できれば、それがベストだろう。

 とはいったものの、交戦を全く避けることは不可能。その前提で、我々は対応人員を大きく二分する。



 第一班。私達の【グリフュス】と、シスの【セプト・カルディア】を主軸に据えた、ガチガチの戦闘要員。

 敵方の迎撃戦力を削ぎ、後述の第二班が接近する道をこじ開け、もし敵特務制御体と遭遇した際には、実力をもって捻じ伏せる。


 第二班。こちらは施設へと肉薄し、収容されている被検体ならびにその候補者を、可能な限り拐うための人員。

 エルマお姉さまたち輜重課トリオの【リヨサガーラ】3機を主軸に、イーダくんとエーヤ先輩の【アラウダ・ラディアトル】が護衛に付き、アウラの【エルト・カルディア】が魔法で補助を行う。


 また、実際に施設内部へ突入して脱出の幇助を行うのは……トゥリオさんと、ビオロギウスさんというシャウヤの方だ。

 さすがに心配が過ぎるのだが、シャウヤはぶっちゃけ生身で機甲鎧と張り合えるくらい強いらしく、中でも『副兵団長』の肩書を持つトゥリオさんは……えっと、半端ないらしい。




「ただ……ソレよりも前段階、アエらワタシたちが動きやすいスルために、もうひとつ工夫する必要アルヨ。……ファオらが間に合て良かタ、むしろ丁度いいといえるヨ」


「…………と、いうと?」


「フフフ…………ワタシ魔法マギアを使て、奴らの通信を使えナイにスルヨ。状況の報告も、連携も、指揮をスルも指示を仰ぐも不可能なるネ」


「それは…………それが出来るのなら、確かに凄まじいが……我々の行動にも支障が生じるのではないかね? 捕虜救出となると、迅速な行動と高度な連携が求められるのだろう?」


「心配ナイヨ、トコロフターイ。アエらワタシたちは全員、『妨害』の対策護符パッチを備えるスルネ。敵は通信が使えナイ、しかしアエらワタシたちは問題無い使えるヨ」


「ほぉ……」「すげー」「便利ぃ」



 懸念事項を確認してくれていたコトロフ大尉も、聞き耳を立てていたエーヤ先輩やエルマお姉さまたちも、思わず感嘆の声をこぼしてしまうフィーデスさんの魔法……たしかにとても便利そうだ。

 敵の通信を封殺できれば、奇襲を仕掛けたところで応援を呼ばれる可能性も少ない。片方で陽動を仕掛け、手薄になったもう片方で人員回収作業を行ったり、あるいは巡回警備を無力化してしまったり……取れる選択肢は大きく増える。


 そしてこの魔法、私達が何よりも魅力的に感じたのは……フィーデスさんの『妨害』魔法の効果時間中であれば、例の悪辣な『反逆抑止措置』の使用を防げるというところ。

 つまり……義眼や首輪で自爆させられることなく、研究所から連れ出せるということなのだ。


 状況が落ち着いたら、私達の『ハッキング』魔法で改めて自爆装置を破壊ないないすればいい。一時的にでも自爆命令を防げるのなら、それは大きなアドバンテージとなるだろう。




「……ただ、この魔法マギアは範囲がアルネ、範囲を漏れたら『通信』の魔法マギアを破壊できナイヨ。……よって、魔法マギア使うは敵の真ん中が望ましい。初手で敵のド真ん中に忍び込む必要アルヨ」


「それは……さすがに、危険が過ぎるのでは?」


「フフフ…………問題ナイネ、ワタシ作戦プランは完璧ヨ。必要な最後の準備も整いつつアルネ」


「そ…………そう、なのか?」


「ソウなのヨ。……ソレにあたって、ヤウアアナタたちに頼みアルネ。なに、大したことナイヨ。地表の降着場、チョト広く開けてホシイ……機甲鎧エメトを動かして、林に隠してホシイ。それだけヨ」


「…………? まぁ……了解した」




 精悍なお顔に疑問符を浮かべるコトロフ大尉や、口をへの字にして首を傾げるエーヤ先輩たち。……まあ、これを聞かされるだけでは、確かにそういう反応にもなるだろう。


 しかし、この後の『予定』とともに、その企みを事前に聞かされていた私は……一周回って、感心してしまった。なるほどそういうのもあるのか、と。



 そんな『おたのしみ』が間近に迫っているようだが……そのためにも、とりあえず機甲鎧達を動かさなければならない。

 ここは私が隊長らしく、ビシッと指示してみんなを動かしてあげないとな。





――――――――――――――――――――




――――いまの場面、めっちゃコトロフ大尉が隊長してたし、ファオ隊長は空気だったとおもうんだけど、それについてファオ隊長はどう思う?


(わ、私は将来に期待なので……)



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