第95話 騙して悪いが作戦なんでな




 


鱗人スケイラども、出迎えご苦労である。……さて、荷はいつも通り格納函コンテナの中だ。早速だが働いて貰おうか≫


「……久しいネ、イロウアのネゴシエイター。……何度も言うケド、アエらワタシたちは『シャウヤ』ヨ。スケイラじゃナイネ」


≪我が国も『イロウア』なる腑抜けた響きでは無いわ。……イードクア神聖帝国を嘗めるな、未開訛りの土着めが。まともに言葉を喋れるようになってから物を申せ≫


「…………マァ、ソレを言われると……ウン。確かにソウかもしれナイネ」


≪ふん。…………無駄な時間を使わせおって。その分急いで貰おう。私とて暇では無いのでな≫


「……わかたヨ。……サテ、作業始めるネ」




――――ねえファオ、やっぱ叩いていい? ぜったいなヤツだよあいつ。


(テアがたたくと潰れちゃうからやめてね。……まあアイツの残念さには同意だけど)




 こんにちわ。やっぱ隊長業務よりも前線で暴れてるほうが性に合ってる気がしてきた強化人間少女、ファオ・フィアテーア特課少尉です。



――――テアだよ。



 ……はい。



 えー、現在こちらはですね、ご覧のとおりフィーデスさんたちとイードクアの人間が『取引』を行っているわけなのですが……その状況はといいますと、まぁご覧になったとおりと申しましょうか。

 いやいやいや……なんであんな堂々と自然にシャウヤを見下した態度取れるんだろうな、フィーデスさんがその気になれば待機ディアクティブ出力の機甲鎧とか一瞬でパーン出来るって知らないのか?

 きっと知らないか覚えてないんだろうな、仮に覚えててその対応できるなら逆に一種の才能かもしれないぞ。怖いものなしか?


 ……ほら、フィーデスさんもなんかもう、苦笑しちゃってるじゃないか。

 帝国のやつ、私達が潜んでることにも気付いてないみたいだし、ホントまぬけで滑稽で仕方ないな。呆れて物が言えない見えない違いないだわ。




「…………アー……トコロで、イロウアのネゴシエイターよ。ソチラに世話にナている同胞から聞いたが……ヤウアナタは『スバヤ生体工学研究所』と、関係はアルカ?」


≪ほう? 土着の貴様らにも、多少は見る目がある奴も居たか。……如何にも、私こそが『スバヤ生体工学研究所』直属の機甲士にして、『スリーダウン』の呼称コードを持つ者である≫


「おぉ! ソレはとてもスゴいヨ! 会えて光栄、ココまで来てくれてアリガトウも大きいネ!」


≪フフっ。…………フ……なかなかわきまえて居るではないか。最初からそう素直な態度を見せて居れば――≫


「イヤイヤイヤ、すまないヨ。……アー、じつは『スバヤ生体工学研究所』が、トテモ常識をくつがえす研究してる聞いたヨ。ソコでアエらワタシたちの開発した新製品が役に立つ思てネ、参考に資料を纏めてみたヨ。初回はオタメシで対価は要らナイから……チョト、渡してホシイネ」


≪ほう……それは良い心掛けである。……どれ、私が検分してやろう。その『資料』とやらを見せてみるが良い≫


「ウム。……では、今からソチラまで渡し行くヨ。


≪わかった、少し待て。……よし、今開け――≫


「ご機嫌よう、そしてサヨナラネ。『昏睡誘引インスフィエンス』」


「――――ァ、?」



 間抜けにも自ら搭乗扉ハッチを開き、フィーデスさんと対面、イードクアがわの交易担当者。

 彼は今や、フィーデスさん直々の『昏睡』の魔法で意識を落とされ、そのまま操縦席から引きずり下ろされていく。


 あまりにも呆気ない、ほんと笑うしかない体たらくに、色んな感情とともに言葉を失う私達の眼前。

 こうして……イードクア帝国の識別コードを持たされたままの、奴らの誇る高機動空戦用機甲鎧【フェレクロス】が、搭乗者を失い『ぽつん』と残され。



 ……さて、もうおわかりのことだろう。

 フィーデスさんが立てた作戦の第一段階、敵拠点に肉薄しての『妨害』魔法行使を確実なものとするため……彼女は『帝国の空戦用機甲鎧の鹵獲』を企てていたのだ。




「ヤーヤーヤー…………何とイウか、ここまで簡単に行くとは思わなかたヨ」


「万に一つも、他者が害意を向けるとは考えて居なかったのだな。……慢心にも程があるだろう、軍人としてどうなのだ?」


「まあまあまあ大尉殿。お陰でラクできたわけですし」


「んう、っ、いただきます、しますっ」



 味方の識別コードを発している機体であれば、帝国軍に見咎められても攻撃されることは無い。

 ましてやシャウヤとの交易任務に就いていたのは、名も知れぬアホが一人だけ。要するに特別任務てきなやつなのだろう、普段から単独行動していてもおかしくない機体というわけで、しかもスバヤ生体工学研究所所属だというのだから都合がいい。


 それを利用して、一気に『スバヤ生体工学研究所』へと接近。フィーデスさんの『妨害』魔法を炸裂させて、奴らの通信能力を喪失させ、混乱を誘発し。

 その直後、私達とシスが急襲を掛け、迎撃戦力を削ぎつつ注目も引き付け。

 アウラの『隠蔽』を纏って伏せていた救出部隊がその隙を突き、トゥリオさんとビオロギウスさんを伴って救出作戦を決行する。

 ……というのが、大まかな全体の流れである。



 先んじて偵察を行っているトゥリオさんたちからの報告では、敵の駐屯戦力はそこまで大規模じゃないらしい。

 応援さえ呼ばれなければ、私達の戦力でも勝算は充分あるだろう。諸々を踏まえた上で、フィーデスさんはそう予測を算出した。

 そうして立てた道筋の、最後の決め手となる『帝国軍識別コード』も、こうして手に入ったのだ。



 そして、この……作戦第一段階のかなめである鹵獲機【フェレクロス】を、誰が操るのかという点に関しては――



「……ホントに、良いのカ? コトロフターイ。率直に言って、キケンが大きいヨ」


「無論、承知の上だとも。……学生が危険を承知で、事を成そうとしているのだ。大人が引っ込んでいるわけにもいかんだろうよ」


「…………全く、同意スルヨ」



 術者であるフィーデスさんは、協力者を装って運ばれるにしても……帝国軍の機甲士を抱き込めない以上、こちらから搭乗者を出すしか無い。

 識別を掻い潜り接近したところで、『中身』が違うことを勘付かれれば、早々に対処されてしまう。帝国式の軍用通信は音声のみであるため、顔を見られることは無いだろうけど……絶対にバレないとは言えない、危険が危ない役割なのだ。


 しかし、そんな役割をコトロフ大尉は自ら買って出た。学生だけに良い格好させない、なんて言ってはいたけど……もし我々の作戦が帝国側に露見したときは、そのまま殿しんがりを務めるつもりでいるのだろう。



(私はだけどね。もしバレたとしても、ぜったいに見捨てないけどね)


――――まーかせて。わたしたちだって強くなってるんだから。研究所の駐屯戦力がなんだってーの。


(やるぜやるぜ私はやるぜ)


――――そうだよやるよやるならやらなきゃ。



 もしも万が一、コトロフ大尉とフィーデスさんが殿しんがりを務めるようなことになったとしても、私達【グリフュス】の性能ならばフォローに入ることは可能なのだ。

 危険な作戦に名乗りを上げ、私達のために命を張ってくれるようなひとを、私達はぜったいに見捨てない。たかだかイードクア帝国のイカレ研究所ごとき、かしこいフィーデスさんの作戦でバチボコにわからせてやろうじゃないか。




 私達のきょうだいを拉致りたすけ出し、ついでに帝国の外道技術ツリーに大打撃を与える、一石二鳥の大作戦。

 さんざん私達をいじくり回した、因縁のイードクア帝国を殴り返せるときは、もうすぐそこだ。



 とりあえずは景気付けに、デッカい花火を上げてやろう。お前花火な!




――――はなび? って、なあに?


(でっかくてきれいな爆発だよ)


――――へえー。たのしみ。


(ふふふ)






――――――――――――――――――――








「フィーデスは作戦どおり、ファオらと動くみたいヨ。……決行のときは近いネ、アエらワタシたちも覚悟を決めルヨ」


「ウゥ……ァ、ワタシはトゥリオとチガウネ、シガない探究者に過ぎないヨ。荒事は苦手ネ」


「まーだゴネてるカ。……もー、いい加減に覚悟ヲ決めるネ、ビオロギウス。ヤウアナタの【擬人肢鎧アルマトロポス】が泣いてルヨ、最後に喚んでやタはいつのコトネ?」


「そ、そんなコト言われても…………ヌゥぅ、トゥリオわかてるネ!? 絶対にワタシを見捨てるシナイヨ!? ワタシをヒトリにシナイヨ!?」


「勿論、わかテるネ。安心するヨ。……期待してイルネ、【黎明郷シュアリア学術長インクィジタ】」


「はー? ……この局面でその呼称ティトル、サテは煽テるネ? オ? 喧嘩ネ? 受けて立つヨ?」


「なんだ、ヤル気は満々、大丈夫そうネ。……フフ、純粋ナ期待の表れヨ。喜ぶべきネ」


「………………はー、まったく……そういうコトにしておくネ。他者の話を聞かないヤツヨ」




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