第16話 平和より自由よりヤらしさ寄り




 やばい。たいへん。えっちしたい。



――――いきなりどうしたの? 変態?


(今回ばかりは……今回ばかりはそう思われても、仕方ないかもしれませんね……)



 現在時刻は……日付が変わる少し前くらいだろうか。私のすぐ頭上では恩人のご息女ジーナちゃんが、すうすうと心地良さげな寝息を立てている。

 机に向かって知識を詰め込む『予科』に、身体を動かしての『本科』にと、ここ数日はとても充実した時間を過ごしている私達。明朝も普段どおりに起きなきゃならないし、当然早いとこ寝ないとならないのだが。



 ……あえてもう一度言おう。えっちしたい。



――――いやいや、今回ばかりはじゃなくて、実際に変態の思考でしょう。すなおに認めて。ファオのえっち。変態。


(そんなあ!)




 いや、ちがうんです。ちがうんですって、ちょっと聞いてください。


 まずですね、学校生活が始まってから私は、女子学生用の寮で寝起きしているわけなのですが……そこはゼファー隊長のご息女であられるジーナちゃんとの2人部屋なわけです。

 また……彼女はお父上から、私の『お世話』を頼まれているようで、ことあるごとに甲斐甲斐しく私を手伝ってくれているのです。


 それが嫌、というわけでは断じて無いんですが……だって、ねえ?

 可愛いくて気立ての良い軍人見習い少女に、手取り足取りお世話を焼いてもらっちゃったら……ねえ?



――――よく腰とか支えてもらって興奮してるもんね、ファオ。


(うそ!? 私そんなわかりやすかった!?)


――――わたしだから気付くくらい。だいじょぶだとおもうよ。……今のところは。


(ひん)



 実際のところ……まあジーナちゃんに限らずだけど、女子寮の方々とは日常的に『裸のお付き合い』までさせてもらっちゃってる状況ですし。

 とはいえこれは不可抗力だし、むしろ浴場が共同な時点で仕方のないことだし、片手と片目が無い私には滑りやすいお風呂場は危なっかしいのだろうし……そうなったら、寮生の優しいお姉さま方が手を取ってしてくださっていたわけでして。


 ……いや、だって……考えてご覧なさいよ。こんなんに決まってるでしょ。

 ただでさえテアの身体はファオにとってどストライクなのに、それに加えていろんなタイプのお姉さま方が一糸まとわぬ姿でしてくれるんですよ。


 我慢したんですよ、必死に。その結果がこれなんですよ。めっちゃ好みな女の子の身体になって、自由を手に入れて、今はこうして女子寮に入って、寮生の女の子たちと日常的に裸のお付き合いをしている。これ以上何をどうしろって言うんですか。



――――じゃあ……もういっそのこと、解禁しちゃう? えっちなこと。


(うーーーーん…………)


――――めっちゃ悩むじゃん。……まあファオが何に悩んでるのかは、なんとなくわかるけど。


(うーー…………ん?)




 とりあえず……えっちを解禁するかどうかは、一旦置いといて。

 現在私達が置かれている状況において、私がえっちした場合に生じるであろう懸念を纏めてみよう。



 私が……ファオ・フィアテーア特課曹長が、えっちなことをした場合。



 まずシンプルに、教導監理者からの『指導』が入る。……これは私も純粋に見落としていたんだけど、よくよく考えてみれば当たり前のことだ。

 もし仮にここが軍関連施設ではなく、ただのハイスクールであったのなら……まぁ大っぴらにヤってたらさすがに咎められるだろうが、そこまでうるさく言われることも無かっただろう。

 しかしながらは、ヨツヤーエ連邦国立カーヘウ・クーコ士官学校である。学校とはいえ国軍の関連組織であり、異性交友が大っぴらに許されているわけでは無い。


 つまり、私が我慢できずにえっちしてしまった、もしくは男子をその気にさせてえっちされてしまった場合。双方合意のもとであれば罪にはならないのかもしれないが……しかし私は未成年であるがゆえに、恐らく『指導』が入るだろうことは間違いない。

 私は教官の皆様から『お前えっちしたやろ』とお叱りを受けることとなり、恐らくは何かしらの規律違反で処分を受けることとなり、今後の内申点に大きな悪影響を及ぼすこととなり、あまつさえ私を推薦してくれた方々に『あなたが推薦したあの子、えっちしてましたよ』という報告を入れられることになるわけだ。


 それは、その、なんていうか……さすがに嫌だ。いくら私でも嫌だ。嫌すぎる。



 また……私がえっちした相手の人生に、非常に大きな影響を与えてしまう恐れがある。

 なにせ私は可愛いので、一発ヤってハイおしまい、とはならないだろう。継続的にえっちを求められる可能性は高いし、ズルズルとえっちな関係が続いてしまうに違いない。


 相手が士官学校関係者だったら、先に述べた理由によって、双方に絶大な被害が生じることだろう。財産も身寄りも無い私ではその責任を取ることは出来ず、慰謝料やら負債やら何やらかんやらでその後の人生はどんより真っ暗だ。エリート部隊どころじゃない。

 一方で、相手が士官学校とは関わりのない、一般連邦国民だった場合。……それこそ非常にマズいことになるだろう、なにせ国民を守る軍関係者が、その守るべき一般国民とえっちに及んだのだ。

 露見すれば国軍に対する印象は大きく損なわれるだろうし、そうなれば私に対する皆の印象も最悪であろう。



 ……つまるところ、えっと、なんだ。

 もしかして、もしかすると……私がこうして士官学校に身を置いている以上、殿方とえっちすることは出来ない……ということか。




――――やばくない?


(やばくない?)




 待て、落ち着け。落ち着いて、もう一度おちついて考えてみよう。

 そんなばかな、まさか状況は既に詰んでいるだなんて。そんなあんまりなことがあってたまるか。


 何か……何か無いのか。士官学校や国軍の関係者に怒られることなく、未成年の私でもえっちができる、そんな画期的な選択肢は。




――――あるの?


(わかんない…………なさそう……)


――――ファオ……かわいそうに。


(そ、そんな……だって、私はえっちが、そんな……)




 しかし……しかし、じゃあ、一体どうしろというのだ。


 これからも寮生活を続けていく以上、お姉さま方と裸のお付き合いを続けなければならないのは確定事項だ。なぜなら私は可愛いし、実際お姉さま方には良くして頂いているので。

 今はまだ若干の遠慮を感じてはいるが、そのはずなのに腕を回して密着とかしてくるんだぞ。つまり当たってるんだぞ。もちろん全裸で。

 お姉さま方の態度から察するに、今後は更に『ふれあい』に拍車が掛かることも予測できてしまうし……だからといって、入浴を諦めるというのは問題外だ。

 可愛い女の子が身を清めずにいるだなんて、そんな勿体無いことは許されない。


 それに……ほぼ毎日一緒にお風呂に入るジーナちゃんと、私は同じ部屋で生活しているのだ。

 なんなら日常生活においてもお世話になっているし……その、ぶっちゃけてしまうと……お手洗いも、何度か手伝ってもらったことだって……ある。

 そのときのジーナちゃんの反応が、またなんというかこっちまでドキマギしてしまうような……恥ずかしがる私を見て恥ずかしがってしまうという、そんな初心うぶっぽい反応を見せてくれるので。


 ……その、意識しちゃっても……仕方ないじゃないか。



 確かに私は、大前提として男の人とえっちしたいしなんなら■■■バキューン■■バキューンもバッチコイな欲求を持ち合わせている普通の小柄清純儚げ美少女ではあるが……そもそもが私の好みドンピシャであることから理解わかるように、女の子だって充分目で見れてしまう。

 女子寮での共同生活は、そこかしこにえっちな気分になってしまう罠が仕掛けられているのだ。えっちな気分は貯まっていく一方なのであり、上手いことえっちさを発散できなければ、そう遠くないうちにえっちが大爆発を起こしてしまう恐れもある。


 恩人の娘さんを私のえっち大爆発に巻き込むなど、そんなことは絶対に許されない。

 私だけがえっち罪で処されるだけならまだ良いが(よくないが)、ジーナちゃんにまで悪しき風評を届かせるわけにはいかない。

 えっち大爆発を防ぎ、ジーナちゃんと清い関係を続けていくため、私達は可及的速やかに……その、えっと……つまり『えっち発散の手段』を、確立しなければならないのだ。




――――なるほど、つまり……ついに『夜のお楽しみソロライブ』開催?


(…………いや、でもでもだって、だってお部屋にはジーナちゃんがいるし……私のことめっちゃ気にして、いつも気に掛けてくれてるし……ジーナちゃんに隠れてソロライブするのは、たぶん難しいと思う)


――――じゃあ……夜中に、ジーナちゃんが眠ってるときは?


(いや、でも…………だってほら、私って……まだ自分でシたこと無い、じゃん?)


――――そうだね。…………それが?


(だ、だからね、その…………えっ、っな声、とか……ガマンできなかったら、ばれて……へ、変態だって、思われちゃうんじゃ……)


――――はぁ〜〜〜〜(クソデカ溜息)


(なァっ……!? ちょ、ちょっとテア!? なにそのあからさまな溜息は!? 私これでも結構本気に悩んでるんだけど!!?)



 ともあれ方向性としては、もうこの際で行くしか無いだろう。難易度は決して低くはないが、男の人とえっちするより遥かに容易だ。

 要するに……えっち爆発を避けるために、どうにかソロライブを敢行してガス抜きを図る。本格的なえっちは出来ずとも、女の子のおな……ソロライブを経験することで、とりあえずは溜飲を下げる作戦である。

 だって結局、だって未経験の未知の領域なのだ。新しい刺激を経験できれば、あいつもしばらくは満足してくれるだろう。……たぶん。知らんけど。


 ただその際に懸念となるのは、やはり『ジーナちゃんに勘付かれないように』というところだろう。

 一緒の部屋で暮らす女の子に『変態だー!!』などと思われては……それはとても、心にクる。ありていに言えば、とても傷つく。



 ……よし、だいたい纏まってきたな。こうやって情報を整理して道筋立てていけば、打開策も見えてくるってものだろう(※気のせい)。



(つまり勝利条件は、ジーナちゃんに気付かれることなくおな……夜のソロライブを行うこと)


――――もう言っちゃえば? おな――


(また!! 敗北条件は!! ジーナちゃんはもちろんとして、他の人にもおな……ソロライブしているところを見られたり、声を聞かれたりしてしまうこと!!)


――――にぃ。



 つまるところ、完全に一人きりになれる環境があれば、その際にソロライブすればいいわけで。

 ただ寮にいる間は、いつジーナちゃんが部屋に戻ってくるかわからないし……また、近隣の部屋の寮生に声を聞かれてしまう可能性もある。


 よって、作戦実現の可能性が高いとすれば、外部にソロライブ可能な空間を確保すること。

 またこの際、空間の秘匿性あるいは匿名性が高いことと、また防音性も高ければ尚のこと良い。



 そんな都合の良い空間が見つかれば良いのだが……この世界、この時代、この国に、果たして条件を充たす環境が存在するのか。

 まぁしかし、どのみち散策をしてみたいとは思っていたのだ。つぎの休息日にでも、街中方面をぶらぶらと探ってみるのも良いかもしれない。

 ……いや、よくよく考えたらコレって、つまり異国の観光じゃん。そう考えると楽しみになってきたわ。




――――はいはい。じゃあそういうことで……はやく寝なさい?


(はあい)



 おっけー、なんだかイケる気がしてきたわ。

 待ち望んでいるヤツとは……男の人のアレをソレしてもらう本格的なえっちとは、少々おもむきが異なるが。

 ……それでも、この身体で初めてのえっちなことまで、あとほんのもう一息なのだ。ぐふふ。



 私がえっちできるかどうかの瀬戸際なんだ……ヤってみる価値はありますぜ!






―――――――――――――――





――――むりだよ。はやく寝なさい。


(わ、わかってるってばぁ!)




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