第17話 勝敗は機体の性能のみで決まらず
前回私が【ベルニクラ】を乗り回し、教官はじめ多くの同輩から称賛を浴びた一方で、若干名の成績優秀者からはヘイトを集めることとなった『本科』から……今日でちょうど一週間。
先週に引き続き私達『ひよっ子』の一団は、現在例の教導機材用格納庫にて整列しているところだ。
まあつまるところ、今日はみんな大好き機甲鎧の操縦訓練なのである。
(がんばるぞ)
――――はいはい、ちーとちーと。
(ちーとじゃないし!!)
例によって指導教官とペアになって、複座型の訓練機【ベルニクラ・エデュケーター】の制御訓練を行うわけなのだが……どうやら先週私がやらかしたことが、教官らの間で話題になっていたようで。
なんか……今日の制御訓練、明らかに監督してる教官の数が多いんですよね。いつもの倍くらいいる気がするぞ。
とはいえ、私が『どういうモノか』を隠しているのは、あくまでも同輩らに対してだけである。それこそ教官レベル以上の方々には、私の出自に関して情報開示がなされているわけで。
私がソレだということを知っている方々が、ソレの様子を観察しに来ている……と。まあつまりはそういうことなのだろう。
しかしどうやら、今さら私をどうこうするつもりなど無いようで、今日の訓練を『勝手に見てるだけ』とのこと。なので私はあまり気にせず、気楽に制御訓練に取り組んでいこうと思う。
「ポットデー殿から聞いてはいたが……なるほど、見事なものだな。実に美しい」
「っ、ぁ…………あり、がとぉ……ざいますっ」
「あぁ済まない、邪魔してしまったな。……失礼した。続けてくれ」
「…………はいっ」
――――なるほど? ファオのこと『美しい』だって。なかなか見る目があるね、このおじさん。
(機体制御コードの管理に対してだって! 偉そうなこと言わないの!)
――――言ってないもーん。わたし
(ごめんってばぁ!!)
悪意があったわけじゃない、悪い人では無いというのはよくわかるのだが、いきなり美少女を混乱させる情報を投げ込むのは、ちょっとやめてほしい。
そのポットデー教官とやらから何を聞いたというのか、その教官は他にも何か吹聴しているんじゃないのか……などと問いただしたくなる気持ちを抑えながら、私は【ベルニクラ】の制御とテアのご機嫌取りに集中する。
降着体勢からの立ち上げ、直立、全身の駆動チェックとひと通りのルーチンを済ませたところで、同乗する教官どのから次の指示が下される。
指定された方向へと危なげ無く進んでいくと……やがて地面にずらりと並んだ、幾つかのコンテナ群が出迎える。
現在進行形でそれらコンテナを運んでくるのは、我々とはまた異なる機甲鎧の集団。全体的にマッシブな体型かつ大きめの腕をもち、折り畳み式の副脚を含めて四本の脚を備える機甲鎧……機体名【エリアカ・エデュケーター】だ。
原型となるのは、戦場においてその高出力を活かした資材の運搬や拠点の設営に活用されたり、また堅牢な装甲とペイロードを活かして前衛として用いられたりする、パワータイプの機体である。
……いやあ、カッコイイな。さすがは連邦国の機甲鎧だ。ロマンをよく理解しておられる。
どうやらそれら【エリアカ】も、我々と同じく訓練用の機体であるらしい。あちらの集団は現在、機甲鎧を用いての輸送・補給作業や拠点設営の訓練中であるとのこと。
さっきいきなり話しかけてきたことといい……それを私にわざわざ説明してくれるとは、もしかして彼はおしゃべりが好きな教官なのだろうか。
「では……任意のコンテナより、補給装備を受領。
「…………はいっ」
どうやら今日は基礎的な動作だけでなく、携行装備の着脱と取り回しのあたりを重点的に行うらしい。
他の課との合同訓練ということだろうか。どうやら私達が扱う機材の準備そのものを、別の課の訓練にしてしまったようだ。……なるほど、頭いいな。
運び込んだコンテナから離れていく重機甲鎧へ向け、私は【ベルニクラ】の右手をひらひらと振ってご挨拶。……こちらを視認した【エリアカ・エデュケーター】があからさまに動きを止めたが、きっと私のせいではない。
……気を取り直して、コンテナを開放するべく手を伸ばす。蓋部分の取っ手を掴んで跳ね上げ、内部に納められていた機甲鎧用の銃器を取り出し、訓練用の弾倉を装填。
生身の身体とはスケール感のまるで異なる、機甲鎧の手指を用いた精密作業……そこはかとなく地味な、しかし実際の戦線では必要不可欠な動作である。
恐らくそれなりに
「……さすがだな、フィアテーア特課曹長殿」
「は。…………恐縮、です」
「その幼さで、こうも自在に機甲鎧を操って見せるとは……帝国の奴らの技術を恐れるべきか、倫理観の無さを恐れるべきか」
「………………」
「しかし……君の編入は、我々にとっても僥倖であった。……イーダミフの奴めはな、確かに悪くない技量を持ち合わせては
「………………えっと、あの……?」
なんか……おしゃべり好きな教官だとは思ってたけど、だんだん雲行きが怪しくなってきたような気がするよ。そもそも誰だよイーダミフって。
話の流れ的に私の同輩なんだろうけど、それ私に言ってどうするのっていう。教官どのが叱っても聞く耳持たないのに、私に言ってどうなるのっていう。そもそもそんな子知らないし。
――――リーナレッソ・イーダミフ。男、年齢は18。南部第一機甲鎧小隊の現隊長ゼルヤ・イーダミフ大尉の三男。前ファオに足引っ掛けようとしてきた子だよ。
(あー、あぁー…………あれかぁ、なーんか気難しそうな感じの子だったもんね。……それで、その……イーダミー君? が……なんだって?)
――――困ったちゃんだったイーダミフくんが、ファオに成績負けそうになって焦ってるんだって。今まで不真面目だったのが、ここ最近は目の色変えてがんばってるみたいで、教官たちも『いい影響が出てるな』って感心してる。
(いやいやいや、いい影響とか言われても私は何も知らないし! 勝手に納得されても困るっていうか!)
――――でも、ファオべつに困ってないでしょ、実際は。
(…………そりゃあ、まあ…………
――――やだ無慈悲。
テアからの
彼以外にもその熱量は伝播し、どうやら学級全体が『がんばろう』な空気になってきている、と。
まあ、それはそれでいいと思うし……存分にやってくれればいいと思う。テアの言うように、直接私が困るわけでもなし。自習だろうと自主トレだろうと、私は何も言わない。
……いや、待って。自主トレで機甲鎧動かせるのは、それはちょっと羨ましいぞ。そんな許可が降りるのか。すごい。
「……っと、すまない。指向通信だ。……失礼する」
「はい。……訓練、継続し、ます」
「そうしてくれ。…………待たせた、こちら【ベルニクラ】E105、シャベリー。……どうした?」
教官が生徒から目を離して良いのかと少なからずビビったが、私は教官の指示に従っただけなので、私は何も悪くはない。気を取り直して訓練を再開する。
先程準備を整えた銃を構え、訓練場に設けられた遠近あちこちの標的目掛け、ぽんぽんと射撃を開始。急ぎすぎず、かと言って手を抜きすぎず、安定したペースで1カートリッジを撃ち尽くす。
――――ヒット18。全弾。お見事。
(んー!)
訓練用の標的には訓練弾頭の粉末塗料が彩りを添え、私の放った弾丸の命中精度を知らしめる。
誰も見ていないのをいいことに、私は得意げな顔を隠すこともなく、満足げに空っぽの弾倉を排出。すぐさまコンテナへと手を伸ばし、
そうして再びの射撃準備が整ったところで……いざ気合を入れた私の背後より、おしゃべりな教官から『待った』の声が掛けられる。
「あー…………済まない、フィアテーア特課曹長」
「は」
「その……先に明言しておくが、今から告げる内容はあくまでも『提案』であり、よって貴官は当然『拒否』の権限を有する。その際も不服従とは
「……? …………はあ」
勿体付けて、どこか言いにくそうに……いや、どっちかというと『気まずそう』とか『申し訳無さそう』な雰囲気で、おしゃべり教官は念を押し。
そうやって、充分に予防線を張った上で繰り出された『提案』とは……まあまあ予想外だが、ある意味では予測できた内容だった。
制御系統を単座に切り替え、主搭乗者の制御技量のみ、一対一で自由戦闘形式での模擬戦を行う。
模擬戦の相手としての指名を受けたのは、当然私ことファオ・フィアテーア。
申し込んできた発起人とは……まぁ案の定というか、リーナレッソ・イーダミフ。
(要するに「どっちが上か白黒つけようや」ってコトでしょう? 男の子ってそういうの好きだよね)
――――よくしらないけど……それで、受けるの?
(当然。デメリットも無いし……それに)
長らく自身が座っていた『最優良生徒』の座を脅かさんとする私を、自ら正々堂々と蹴落とさんとする……その意気や良し。
ただ惜しむべくは、ただ一点。彼我の実力差を正確に推し測ることが出来なかった、そこだけだ。
「…………きらいじゃ、ない。そういう、姿勢」
「では…………良いのだな?」
「はい。……謹んで……お相手、いたし、ますっ」
「承知した。勇気ある判断に、敬意を」
命の危機も、尊厳の危機も、何一つ脅かされることの無い、純然たる力比べ。
私が得意とする、私が好きなことで、それで存分に『楽しむ』ことができるなら……それはとっても嬉しいことだ。
何の気負いも、懸念もない。当たり前だ。
こと機甲鎧の扱いにかけて……この私が負けることなど、万に一つも無いのだから(※特にフラグとかではない)。
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