第101話 ヒトの魂を弄ぶ外法





いつのまにか100話だったんですね……

よくこんなに続いたものだ……(しみじみ


こんな出オチじみた作品に長々とお付き合いいただき、ありがとうございます。




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『シツヤーデ卿……ナヤロー卿…………よくも我らが同胞、2人をってくれたな! ……のみならず、我らが叡智の園に対し、目に余る所業の数々……その蛮行、到底赦されぬ! 貴様らのその身で償って貰おう! 我らが探究の糧となるがいい!!』



「やだプー。寝言は寝て言えバーカ」


――――ファオ、こっちのは相手に聞こえてないよ。外界出力オープンチャンネルする?


「しなくていいしなくていい」




 どうやらコイツら……特務制御体を乗っ取っている『邪悪なおじさんの魂』は、この品性下劣な研究所の重要人物であるらしい。

 自分たちの『城』が襲撃されているのを目の当たりにして――そして遠隔通信で特務制御体どもに指示を出せないということに気がついて――ご苦労なことに自ら特務機体を操り、防衛に駆け付けたと。そういうことなのだろう。遅すぎたが。



 どうやら……フィールを操っていた異物が溢した『カンゼローキョー』なる人物が、件の『魂を操る』たぐいの魔法を使い、異物おじさんたちの魂を特務機体へと(たぶん)一時的に移した。

 機甲鎧の機体からだにヒトの魂……いわば私のかわいい相棒テアのような状態に置くことで、直接機甲鎧の制御を担おうと画策したのだろう。通信で指示が出来ない状況で、超高性能な特務機体を使おうと思えば、そうするしかない……のかもしれない。


 またその際、機体と魂を共有していた搭乗者のほうも、波及的に侵食を受けてしまった。本来の人格は異物おじさんによって組み伏せられ、機体と身体とを好き勝手に操られてしまっていた……らしい。



 ……ふざけるなよ。他人の身体を乗っ取るとか、最低にも程があるだろうが。

 先の2機……【フィール】と【エア】を操っていたのも、シツヤーデキョーとかナヤローキョーとかいう、奴らの身内のクズどもなのだろう。

 魂が乗り移った機体を破壊して、それできちんと殺しきれるか不安だったが、どうやらちゃんと死んだようだ。よかった。



 しかし……一方で本来の搭乗者であるはずのフィールとエアには、少しも心配した様子を見せなかった。奴らがどういう考えなのか、よくわかってたすかる。

 ……これから奴らも落とそうというのだ。気負う必要がなくなった。




『許しを請うても遅い! 行くぞ、カンゼロー卿!』


『承知した、トダマース卿』



 敵特務機体【W−オーネ・エナファシオ】および【T−ティア・ヴィルリーフ】……ナンバー1と2を冠しているだけあって、奴らからの信頼も篤い2機。異物が入り込んでいるとはいえ、それでも生易しい相手では無いだろう。

 脅威となるのは、あの2機がそもそも極めて高出力な動力機関を備え、素体フレーム自体の馬力が高いという点。……そして、いちいち対処が難しい特殊技能、この2点だ。



 両肩に搭載していた、巨大な眼球のような子機を分離・単独浮遊させ、悠々と私達を俯瞰する【W−オーネ・エナファシオ】。……直後、一瞬前まで私達が居た

 反撃とばかりに撃ち込んだ【ベイオネット】の照射出力も、上位機甲鎧由来の防御力場シールドによって軌道を捻じ曲げられ、あらぬ方向へと散らされる。


 空間観測用の目玉子機と自機の感覚器を連動させ、高精度の座標指定を行い、任意の空間そのものの重力値を自在に捻じ曲げる。

 機甲鎧程度なら容易く圧壊させる【オーネ】の重力魔法は、発動の瞬間までどこに飛んでくるかわからない。射角や弾道を見切るのには慣れていても、を躱すのはなかなかに骨が折れる。

 観測子機の通信も潰せていればラクだったのだが……回収を容易にするためなのか、どうやら有線接続であるらしい。ちくしょうめ。



 濃密なを感じ、急加速を掛けた私達【グリフュス】の背後。膨大な熱量を秘めた青白い光が貫き、遥か後方の木々が消滅する。

 通常機からはあからさまに逸脱した構造の、まるで砲塔そのもののような【T−ティア・ヴィルリーフ】の頭部……両目の視覚素子と同軸に設けられた、額に長く突き出た光学砲塔が、発砲後特有の紫電を周囲大気に散らしている。


 視覚と同軸に備えた『主砲』で、高精度の砲撃を行う【ティア】の光条魔法……私達【グリフュス】両肩の圧縮粒子砲とは異なり、こちらは完全に『レーザー』といったおもむきで、その弾速は半端ない。

 また『主砲』ほど出力は高くないものの――とはいえ機体そのものが高出力のため、充分過ぎる威力だが――両の前腕そのものが『副砲』としての役割を担っている。射角と発射間隔の隙を減らし、その波状攻撃は非常に厄介だ。

 強いて希望的観測を述べるとするならば……例によって『乗り手』が機体に慣れていないこと、命中精度に難があること。アウトレンジから一方的に撃たれてたら、為すすべもなかっただろう。……とはいえ。




≪――っ!? ぁぅ……っ≫


「っ! シス、被害報告」


≪っうぅ……損傷、軽微……だいじょぶ、で―――っ!!≫


――――まずいよ、狙いがシスに。避けきれてない。


「させる、かよ……ッ!」


『ウワーーッ!?』


『トダマース卿!? 無事グワーーッ!?』


『カンゼロー卿!? おのれ……失敗作の分際ウワーーッ!?』


「なんかうるさいな……」



 私達よりも動きの遅いシスを狙って局所異常重力場の魔法を行使する【オーネ】へと、両肩の光学砲塔をぶっ放す。

 放たれた光条魔法は重力場の防御で散らされるが、あいつの気も散らすことは出来ただろう。


 また威嚇射撃と並行して、全身各所の推進器を一気に噴かす。実戦経験などほぼ無いだろう邪悪おじさん操る【ティア】へ、正面からフルスロットルで距離を詰める。

 攻撃されることにも慣れていない害悪おじさんは、当然スマートな対応なんて出来やしない。反射的に身をすくめて機体からだを縮こませるもんだから、すれ違いざまに副砲を一本頂いていく。



「……シス、一時撤退、敵視を切って……アウラと合流」


≪……っ、ご主人さま、っ!?≫


「いい子、だからっ。【オーネ】も、【ティア】も……流れ弾、あぶない。守ってあげて」


≪……、……ッ! ……はい、っ≫



 どうやら……最後の『失敗作の分際ウワー』は、僚機の片腕を一瞬で持ってかれたことに対する悲鳴だったようだ。

 振り返ったら相方の片手ががれていた。戦い慣れしていない最悪おじさんにとっては、ある意味ではホラーな展開なのかもしれない。



 ……なんなら、もっとホラーに解体してやろうか。なに、遠慮はいらないとも。ウチの可愛い妹分の機体カラダに傷つけたお返しだ。

 そんな装備機体で、こんな距離で私達と相対したこと、たっぷり後悔した上で搭乗者を引き渡した末に最終的には機体ごと死んで下さい。



『や、やめ……ッ!? ちょ、ちょこまか、とォ……ッ!?』


『ぐ…………お、おのれ失敗作めが! 正々堂々戦わんか!』


「ちょっと何言ってんのか意味わかんないんですけ、どッ!」


『ぐわァーーッ!!』


『か、カンゼロー卿ーーッ!!』



 直進性の高い光学兵器が主力の【ティア】は、何度も言うようにで戦うような機体じゃない。

 とはいえ、この遠距離戦闘偏重の特務機体に最適化された搭乗者であれば、仮に不得手なクロスレンジに飛び込まれたとしても、ここまで一方的に痛め付けられることは無かっただろう。


 また、任意の地点に重力異常を引き起こせる【オーネ】も、常軌を逸する複雑怪奇な殺人的摩訶不思議機動で暴れまわる私達を捉えることは出来ない。

 本来の搭乗者の技量ならまだしも、機体のカタログスペックしか目に入ってなかった醜悪おじさんふぜいに、特務制御体が扱えるはずなど無いのだ。



 つまり……眼前の機体、帝国軍が誇る(笑)スバヤ生体工学研究所の最高戦力たる2機は、本来の性能を発揮することなく撃墜されようとしている。

 念のためにとシスを下がらせたけど、心配しすぎだったかもしれない。少なくとも今まさに斬り刻んでいる【ティア】に関しては、そう遠くないうちに無力化は達成できるだろう。





 ……今思えば、その『油断』が悪かったのだろう。


 一瞬も気を抜けない敵地への潜入作戦中に、気を抜くことなどあってはならないというのに。





『ぐ…………く、ぅ、……ッ! このままでは…………ッええい、クソッ! ……【対象指定オヴォマシアスロ】【精魂抽出サヴァルユフィルス】【最大全量フェギストマクス】【機甲鎧エメトクレイル制御コントゥロス中枢セントライア】【実行エンフェレシ】! なんとかなれ……ッ!!』






――――えっ、えっ!? ……ぁ、ファオ――









――――――――――――――――――――










――――――――――――――――――――








「えっ? ちょ、テア? …………テア!?」







 ……どうして、気付かなかったんだろう。


 どうして軽く聞き流して……ちゃんと、覚えとかなかったんだろう。



 つい先程まで、が圧倒的優勢を誇っていた相手……特務機体【T−ティア・ヴィルリーフ】。


 その『中』に居たモノ……奴らが口にしていた『カンゼローキョー』とは。




――――『そんなバカな! カンゼロー卿以外の遣い手だと!? 魂操術を!? ……有り得ん! 有り得ん!!』




 先刻撃墜した【F−フィール・スルLgトリュグル】の『中』に居たモノ、そいつが言っていたことを……落ち着いてよく反芻してみれば。


 その『カンゼローキョー』なる人物は……コンソージュツ、つまりはシャウヤによってもたらされた『他者の魂を操る魔法』を扱えるということで。





「て、テア? …………ねぇ、ちょっとテア!?」





 …………もしも、まさか。


 その『他者の魂を操る魔法』で……【グリフュス】の制御中枢から、魂といえるものを取り除かれてしまったとしたら。





「返事して! テアってば!?」



『……うご、き、が…………止まった!?』


『…………ッ! 読み勝ったか! ……っ、ハァッ、ハァっ……やはりコイツとて……ッぐ、機体制御に振られた魂を、こうも削られれば!』


『お、おぉ…………なるほど! さすが……さすがだ、我が同志リンリー・カンゼローよ!』




 あいつらにとっては……分断された搭乗者の魂のうち、機体制御に用いている部分を消し飛ばしたつもりだったとしても。

 あくまでも『非常識な動きを少しでも阻害できれば』程度の、ダメもとだったとしても。





「……ぁ、…………あぁ、っ、…………うそ」




 この機体【グリフュス】の制御中枢を拠り所としていた……私の相棒にして、半身を。


 この世界に生まれ変わってから、ずっとずーっと傍に居てくれた……いつも私を元気づけてくれた、あの子を。



 あんな一瞬で、こうもあっさりと、……とでもいうのだろうか。





『今が好機!! 同志イン・シツヤーデとマジーヤ・ナヤローの仇! うおおおお!』


『忌々しい規格外め! 我らが叡智の結晶によって……今こそ塵と化すがいい!!』





「やだ…………やだ、そんなのやだ! 返事して……やだ、ねぇ、返事してよぉ! へんじして、ってば……テア、っ……テアぁ!!!」

















――――え、なあに?


「ォ゛はぁ!?!? え、ちょ……はァ!?!?」


――――な、なに? ……え、だってファオが返事しろっていったんでしょ?


「そうだけど!! そりゃ…………ぇえ!? ちょっ……え!?」


『グワーーーーーッ!!』


『ギャーーーーーッ!!』


「大丈夫なの!? テア大丈夫なの!? 魂消されちゃったんじゃないかって! 私、わだじっ、…………もゔ、心配じんばい、でぇ、っ!!」


――――うーん…………いっかい『ひゅぽっ』て抜かれたのは、たしかなんだけどね。


「………………は!? え、大丈夫……なんだよ、ね?」


――――うん。大丈夫。げんきめりめりだよ。








『…………ハー、もう、もう…………本当ホントーに、ホンッッットーに、これでもかとキモが冷えたヨ。……ハー、間に合て良カタ。めでたしネ』


『ウム、ウム。いつ見ても見事な手際、惚れ惚れヨ。やはり『奏霊魔法スフィラティアレルム』はビオに任せる、間違いナイネ! さすがは【黎明郷シュアリア学術長インクィジタ】、頼りになるヨ!』


『ヤーヤーヤー、待たせたネ、ファオ。……いやいや、ファオの他にのは、さすがにアエらワタシたちも大いに驚いたヨ?』


「ふぃ、ふぃ、ふぃ、ふぃ、フィーデスさんっ! トゥリオさん! あと…………えっと、かわいいひと!」


『ヌ……』『オゥ』『…………悪い気はシナイネ』




 私が……どうやら茫然自失していた間に、いつのまにか応援に駆けつけてくれていた『シャウヤ』のお三方。……なのだが。


 なにやら当たり前のように宙に浮いてるし、なにやら物凄い気迫を漂わせているし……なにやらとてもデカくてカッコいい、機甲鎧さえ握りつぶしてしまえそうなが、名前を知らないシャウヤのかわいいひとの左右に浮いてたりするし。

 とにかく、なんかものすごい臨戦態勢に見えるのですが。



『当たり前ヨ、コレはアエらワタシたちも関係が大アリの事態ネ』


『ファオにはすまないが、勝手に手助けサセて貰うヨ。……この『ビオロギウス』がネ』


『…………ハァ、知ってたヨ。……マァ、良いヨ。ヤるからにはヤッてヤルネ。ワタシの【擬人肢鎧アルマトロポス】も元気モチモチヨ!』


「もちもち……かわいい……」


――――うーわ、ぜったいつよいよ、これ。




 私はというと、ここ数分で激しく心をかき乱されたので……正直、めまぐるしい展開に思考が追いついてない気もするわけだけど。



 ただ一つ、確かなことは……テアと、そして私の負担がとても軽くなったこと。



 そして……あいつらの敗北が、完全に確定したということだ。





――――――――――――――――――――




――――ふたつじゃん?


「………………」


――――………………。


「ゔぅぅぅうぅぅ………!!!」


――――わあ!? …………もー、なかないの。






――――――――――――――――――――



※ このお話は所詮コメディなんすよね




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