第100話 悪質なおじさんの魂は悪質
私がこうして、動く火薬庫――厳密には『爆発』魔具庫――を解体してフィールを引っ張り出して確保していた間、もう1機の【
そもそも近距離での殴り合いが得意なシスに対して、長距離砲を担いでミドルレンジの戦闘を挑むとか、割と自殺行為だと思う。
フィールの一件で『答え合わせ』した今だからこそ理解できるが……あちらの【エア】の搭乗者にも『異物』が入り込んで居たのだろう。本来の搭乗者の意識を上塗りして高性能機を操ったつもりが、その
実際こうして……両腕を肩から捥ぎ取られ、背部の対空砲を潰され、武器の全てを無力化された上でアイアンクロー喰らってる【
直接戦闘能力に劣るってことは、【エア】は相応に頑丈な
たぶんだけど、【エア】乗っ取ってる『異物』本人も泣いてると思うよ。なんならこちらも漏らしちゃってるんじゃないかな。圧倒的すぎたね。
「シス、おねがい。
≪……っ! わるい、おじさん……こわい≫
「うん、うん。悪いおじさん、は、身体に悪い、から……えっと、なので…………搭乗者、を、確保して、おじさんごと、撃墜。……できる?」
≪はいっ。……任せて、くださいっ≫
言うや否や、シスはとても安心感のある手際の良さで、作業を『さくさく』と進めていった。
まずは『足』を落とし、次はそのまま『膝から下』を切り落とし……頭から胸部にかけてを巨大なマニピュレータで鷲掴みにしたまま、もう片手で『加工』を進めていく。
五指にレーザーネイルを備えた【セプト】の手ならば、より直感的に切削作業を行ってしまえるのだろう。不要な箇所を下からどんどん削ぎ落とし、手頃なサイズへと『加工』を進めながら……やがて操縦室の耐圧外郭が見えてくるくらいまで、邪魔な部分を削っていく。
……でもね、シス……いや、えっと、その…………とても言いにくいんだけどね。
そういう『
なんていうか、それ……そういうの、もう『拷問』とか、そういう類の仕打ちなんですよ。
≪………………≫
「………………」
――――………………。
事実、操縦室外郭を抉じ開けたときには、もう既にエア(と彼女に悪影響を与えていた『異物』)は恐怖やら何やらを盛大に漏らした挙句『自失』状態となってしまっており……ろくに抵抗されることもなく、非常にあっさりと引っ張り出すことに成功。
あとは距離を取った【セプト】背部の滑空砲にて、ひときわ小さくなってしまっていた【
特務制御体エア・ティオハルスも、先のフィール・スルトリュグルのときと同様、機体の機能停止とともに意識を失った。
「えーっと…………うん。よくでき、ましたっ」
≪…………うー≫
「目がさめ、たら……一緒に、ごめんなさい、しよ、ねっ?」
≪………………はぃ、っ≫
とりあえず……比較的難易度の高いタスクであった『交戦特務制御体の回収』は、今のところ順調に消化できている。
とはいえ、救出したふたりの魂は(実際に手を下してしまったのは私達なのだが)半身ともいえる機体を喪ったことで、酷く傷ついている。拠点に帰ったらシャウヤの方々と『取引』してでも、全力で癒していかなきゃならない。
その点さえ考慮しておくとするのならば、作戦の進捗はきわめて順調と言っていいだろう。
あちこちから散発的な対空砲火が上がっているが、それは片っ端からコトロフ大尉の【フェレクロス】が黙らせている。基地管制からの指示も望めない、統率の取れていない対空砲火など、到底脅威とはなり得ない。
応援を呼ばれた形跡もないし……敵戦力は残すところ、施設深部で炉心励起を進めている2機。それでほぼ終わりのようだ。
「コトロフ大尉……あの、お願い、あります」
≪その子らを引き受け、安全地帯で待機。……そんなところかね?≫
「えっ? あっ、あっ…………はい。……もしくは、こっそりアウラと合流、【エルト】に収容、できるなら……」
≪なるほど、心得た。……厄介な奴が残っているのだろう、そちらは頼んだ。くれぐれも気を付けよ≫
「…………はいっ」
≪シスもだ。二人共、必ず無事で戻れ≫
「はいっ!」≪はぃ、っ!≫
――――もうコトロフ大尉が隊長でいいんじゃないかな。
(いわないで! 私も思ってたことだから!)
魂に深い傷を負い、死んだように眠っている二人の妹分を託し……私達は『来たるべきボス戦』に向けて、戦闘準備を進めていく。
とはいえ、現在の私達の任務は『敵戦力の殲滅』そして『陽動』であるため、別働隊の動きを気取られないよう派手に立ち回り、注目をひきつける必要がある。
テアからの報告によると、例の2機の出撃シークエンスは(あちこち引っかかりながらも)正常に進行中であり、もうすぐ飛び出てくるだろうとのこと。
なのでそれまで暇つぶしがてら……目につく範囲の研究所関連施設、そのうち被検体収容施設以外を、ていねいに潰しておこうと思う。
「ばいがえし、だっ! ばいがえし、だっ!」
――――さんざん嫌なことしてくれたもんね。
「はっはっは! ざまあないぜ!」
――――わあすごいたのしそう。
襲撃開始から少なくない時間が経っているので、そろそろ一般職員はシェルターやらに避難していることだろう。つまり人的被害をあまり気にせず、盛大にストレスを発散できるというわけだ。
これまで……よくもさんざん私達のことを弄んでくれたな。散々いやらしいことして、長いこと監視しやがって……おかげで、お前たちのせいで、私は未だにえっちしたくてもえっちなことしてもらえないんだぞ!!
――――えっ?
こんな研究施設が無ければ、実験体にされてる子たちも怖い目に遭わずに済んだだろうに。
幼い身体に『ナニカ』をされて、ヒトでなくなってしまうようなことにも、ならなかっただろうに。
名も知れぬ多くの、幼い犠牲者を出すことも……なかっただろうに。
フィールも、エアも、魂を侵されることなんて無かった。魂が傷つくこともなかったはずなのに。
――――う、うん。だよね??
お前たちに弄ばれ、虐げられてきた子たちを、真っ当な『ひと』の道に戻すためにも。
ことあるごとに連邦国にちょっかいかけてくる帝国に、ちょっとどころじゃなく痛い目を見せてやるためにも。
そして……私が、私の意を色々と汲んでくれるようなひとを見つけて、私の体面を保ちながらいい感じにえっちに
――――うぅーん???
(なによ、帝国ゆるすまじだよ)
――――うーん……まぁいっか、そろそろ来るよ。
(オーケー。最後の仕上げだ)
瓦礫と化していた施設の一つが内側から弾け飛び、建材の破片を天に周囲にとぶち撒ける。
そんな衝撃的な光景とともに、地下へと伸びる垂直通路から表れたのは……なるほど、この『スバヤ生体工学研究所』に配されていた、最終にして最強の戦力。
――――特務制御体、コード【
(ラクに終わらせちゃくれないかぁ!)
先発ナンバーゆえのコストを度外視した高性能フレームに、シンプルに強力な能力を賦与された2機……これらは機体の出力そのものが、業腹だが【グリフュス】よりもふた回りは上である。純粋な力比べで勝ち目は無い。
ただでさえ私達が力負けする性能差に、厄介な特殊機能が加われば、相手取るのは容易なことじゃない……が。
『聞こえるか、不埒な狼藉者ども! 貴様らに勝ち目は無い! 直ちに武装解除の後、大人しく投降せよ! このスバヤ生体工学研究所所長『ヘーゼン・トダマース』の名に懸けて、後の待遇は保障しよう!』
「やっぱだ、異物おじさんだ。ほんものの【オーネ】がこんな饒舌に喋るわけない」
――――声は女の子だけど、口調がおじさんだもんね。しかも
「するわけないんだよなぁ、名前からして騙す気満々じゃん。実力で捻じ伏せるよ」
――――? ? なまえ、から……? …………よくわかんないけど、ぶっとばすってことね。
「そうそう。やるよ、相棒」
――――まかせてよ、相棒。
それすなわち私達の復讐対象であり、諸悪の根源であり、名も知らぬ多くの子どもたちの仇であり――
今回の、ラスボスというわけだ。
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