第99話 でっかい花火を打ち上げよう
帝国軍がたびたび用いる『自翔誘導爆弾』とは……まあ要するに、マジカライズされたホーミングミサイルである。
かつては私達にも搭載されていたが、帝国を離反した後に撃ち尽くして以降は、終ぞ補給されることなく機構を撤去。そこは今や、私の新しい
外的刺激によって『爆発』魔法を発現するよう設定された魔具を、発射機側の『飛翔』魔法によって任意の地点まで飛ばし、衝突によって魔具もろとも『爆発』させるもの。
その構造上、一般的な榴弾なんかよりも構造は複雑で、コストも高い。我々ヨツヤーエ連邦国ではあまり普及しておらず、もっぱらイードクア帝国軍がカネと魔法技術にモノをいわせて配備している武器……というような状況だ。
サイズもいろいろ、用途もいろいろ。量産機の前腕よりもデカい単発火力重視のモノもあれば、(※機甲鎧の)手のひらサイズ程度で『ばら撒く』ように使うモノもあり、意外と応用の幅は広い。
兵站補給がしっかりしている環境下、という制限は付いて回るが……こと攻撃能力のみに限って言えば、機甲鎧が扱える装備のうちでも上位といえるだろう。
そんな自翔誘導爆弾を全身至る所に詰め込んだのが、こちらの【
この世界で同等の火力を出そうと思えば、陸上戦闘車輌の大隊くらいは必要となるだろうが……機動性が低いとはいえ、【フィール】は空戦型機甲鎧である。運動力など比べるまでもない。
もしその火力を地表面、特にアウラたちの居るエリアに向けられてしまえば、その時点でほぼ『詰み』だ。
ミサイルの数発であれば、アウラも『防御』し切れるだろうが……全身に危険物を満載した【
地上に向けて放たれたミサイルは、なんとしても私達で撃ち落とさなきゃならない。
これは相当難しい、私達もめっちゃ集中しなきゃならない、めっちゃ集中を維持しなきゃならない……と、そう思ってたんです、が。
「真っ当にやられたら相当やばかった。アウラたちも無事じゃすまない」
――――でも、なんで不調なのかはよくわからない。フィーデスさんの『妨害』のせい?
「わかんない……テア、後続の励起反応はどんな感じ?」
――――いま7割くらい。うごきがわるいね、意思の疎通ができなくて、もたついてるみたい。
「おっけー、ちょっと
――――はあい。
いつかのように、相手側の通信魔法を傍受してしまえばラクなのだろうが……フィーデスさんの魔法によって通信機能がポンされてしまった以上、傍受しようにも通信が行われることはない。
なので……まあ、ちょっと大変なのは確かだけど、別の手段で情報収集を試みる。もちろん、ただ勝つだけだったらこんな手間は必要ないのだが、しかし何が起こっているのかは知っておきたいのだ。
複数同時に放たれた弾頭を照射出力の【ベイオネット】で薙ぎ払い、生じた爆炎を隠れ蓑にして一気に加速。空戦能力を突き詰めた私達ならば、その一瞬で【
巨大な背部コンテナの上に乗っかるように密着し、長めの腕で開閉ハッチを力ずくで押さえつけながら、出っ張りを掴んでホールドする。……下半身の発射器は塞げてないけど、まさか自機の背中を爆撃したりはしないだろう。
抵抗を封じたところで、私達のとっておきである『ハッキング』魔法を行使。
敵特務機体の制御中枢へと侵入を試み、操縦室内部の様子を探ってみると――
≪――ッ!
「………………え、だれ?」
――――わかんない。何、この……なに?
「わかんない。…………え、【
――――【
「おねがい。……まぁ大丈夫でしょ、この状況で抵抗もできないだろうし、助けも呼べないだろうし」
――――がってん。
≪――な、な、なっ……何だこれは!? 何だこれは!! 侵入、なんっ、誰が……まさか【
――――ファオ、だいたいわかった。あと、
「ッ、どうすればいい?
――――【
「だいたいわかった。やるよ、相棒」
――――まかせろ相棒。
取り付いていた【
飛んでった方向に味方機が居ないことを確認し、華麗にスルー。迫ってくる第二波を【ベイオネット】で撃ち落としつつ、そのまま薙ぎ払って【フィール】の顔面を浅く切り裂く。
肩や背中のウェポンコンテナは、さすがに充分な装甲厚を備えているのだろうが……頭部のセンサー群にまでは、さすがにそこまで厚い守りは無い。
そういった脆弱な部分をまるごと保護するため、上位機種の機甲鎧、とくに特務機体には
ミサイルが吐き出される瞬間は、一瞬とはいえ
しかしながらその『解除』のタイミングは、本来ならばもっと瞬間的。さらには護衛機も控えているはずなので……こんな『攻撃した瞬間に攻撃される』なんて事態には、ならなかったはずなのだ。
これもひとえに、今この機体を実質的に操っているのが『機体制御経験の乏しい異物』だからこそ生じた隙にほかならず。
そしてそんな『私達の姉妹にも等しい子に狼藉を働く汚物』を、ソレが入り込んだ制御中枢を、私達が黙って見逃すわけがない。
≪お゛わあああ!!?≫
通信支援が得られる見込みもなく、更に頭部センサー部分に深刻な被害が生じ、周辺状況の把握さえも困難になった【
僅かな時間ながら入念に
そのまま近接出力で光条魔法を発現、重量物を支える高硬度フレームごと斬り払い、敵特務機体【
そうして引き裂かれた切断面、口を開けた内部空間。とても見慣れた色味の頭髪が取り乱したように振るわれ、私達の計算通りに刃が通ったのだと『ほっ』としてしまう。ケガをさせずに済んだようだ。
……まあ勿論、まだ終わっちゃいない。むしろこれからが最後の仕上げなので、より一層の『ていねい』を心掛けなきゃならないのだが。
≪や、やめ………やめ、ッ!!? うわああああ!? あぁあああ゛あ゛ぁあ゛!!?≫
「テアごめん! 精密制御補助!」
――――わかってる。きをつけてファオ、あんまり怖がらせすぎないように…………あぁー、ておくれ。
「えっ!? 手遅れってそん、っ……あぁー」
機体の五指を揃えて切断面に突っ込み、異物に侵された搭乗者と彼女が収まる
処置によって自意識をほぼ封じられ、半身たる機体に入り込んだ異物によって身体の自由をも奪われた彼女だったが……しかしそれでも、自分を握り潰さんと巨大な手が迫る様子に、『恐怖』が漏れ出てしまったらしく。
……いやこれ、もしかしなくても『異物』が感じた感情も共有されちゃってた感じか。……かわいそうに。
――――おちついたら、シャワー。洗ってあげてね、お姉ちゃん。
「まかせて」
程なくして、私達は
残された機体の残骸はというと……かろうじて繋がっていたフレーム部分でさえも、巨大な背負い物の自重によって『めきめき』と引きちぎられていき。
盛大にブチ抜かれて機能を停止した動力装置では、浮遊に必要な出力など賄えるはずもなく、機体の残骸はゆっくりと落下していく。
……しかし、これで終わりにしてはならない。
あの残骸の制御中枢に入り込んだ『異物』を、万に一つも回収させるわけにはいかない。
「テア、フィールの様子見といて。暴れて落ちないようにね」
――――はいやほー。
両肩の自在砲塔を引き起こし、おしりの格納スペースから【ベイオネット】を再び引っ張り出し、三門の光学兵装を一点に指向。
未だ半分近くが搭載されたままの、爆発物満載の残骸に向けて……狙い澄ました三射が、一点に叩き込まれる。
――――きれいな『はなび』だね。
「えっ、えっ? ……あっ、い、いや、これ花火じゃ
私達の手のひらの上、つい先程まで泣き叫びながら狂ったように暴れていたフィールは……異物が消し飛んだせいだろうか、今は気を失ってしまっている。
異物を処分するためとはいえ、魂の半分を収めた機体が『花火』してしまったことで、身体にも魂にも決して少なくない負荷が掛かったためと思われるが……『異物』からの干渉を除去できたことは、確かだろう。
魂を引き裂くような、過酷な体験をさせてしまったことは悔いるべきだろう。
しかし、機体の制御中枢に巣食う『異物』からの干渉を振り払うには……少なくとも今この状況下であれば、侵食されたそちらを切除するほかない。それにこの子はこうして、ちゃんと『生きて』いる。
穏やかに暮らし、平穏で暖かくてたのしい刺激を与え続ければ……いずれ魂も元気になっていくと、そう信じたい。
もしかしたら、こうして彼女たちを助けようとしていること自体、私達の自己満足に過ぎないのかもしれないが。
しかしそれでも、フィールを確保できて……死なせなくて、よかった。
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打ち上げ(撃墜)
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