第98話 敵特務機体の反応を検知しました





 そもそもの話……私達やシスが『もぐらたたき』できてしまったように、戦力の無為な逐次投入は一般的に『愚策』と判ぜられることが多い。



 まあ今回に限っては、奴らはフィーデスさんの妨害魔法によって通信系統を破壊された状態なので、足並みが揃わないのは当然だ。

 人力の伝言ゲームで『出撃』の指示を送るしかないわけで、しかしいざ『出撃』したらしたで連携指示も出せやしない。アイコンタクトで意思疎通できれば良かったのだろうが、【パンダルス】の視覚センサーじゃさすがに無理だろう。戦闘中に機甲鎧でハンドサインやジェスチャーなんかも、ちょっと現実的とは言い難い。


 僚機の意図を正確に察し、阿吽の呼吸で連携が行えるレベルでもなければ、実質的には一対一とほぼ変わらない。

 そして一対一であれば……ごく一部の例外を除き、私達や【セプト】のような特務機体が負けることは無い。



 そしてその『ごく一部の例外』こと敵方の特務機体なのだが……こちらも通信妨害の影響はバッチリ受けているらしく、出撃のための炉心励起シークエンスもタイミングがバラバラだ。

 おまけに駆けつけた敵特務機体も、本来であればシスアウラのように協働で真価を発揮する機体である。それぞれの性能も低いわけじゃないが、多分にハンデを負わされる形となっているのだろう。




(…………向かってくる? 【エア】が?)


――――えー、へんだよ。通信つかえないなったから、直接たたかうしかないって思った?


(なるほど……)


「シス、【エア】を、おねがい。私が、【フィール】を」


≪まかせて、くださいっ≫


「コトロフ大尉、は、敵の追加の可能性……量産機に、警戒を。……あれは、特務機、私達が相手、ですっ」


≪心得た。……武運を祈る≫



 シスに対処を任せた【R−エア・10ティオHsハルス】は、特務機体の中でも単独戦闘能力は低いほうだ。……というか、もしかすると最も低いかもしれない。


 誠に、まことに残念ながらお預けとなっているその『真価』とは、僚機との情報データ共有リンクによる支援能力、そしてその『視力』の高さだ。

 ……認めたくないが、連邦国軍われわれの【ウルラ】の完全上位互換と言えるだろう。こと『敵を見つける』ことに関しては抜群の能力を誇り、万全の状態であればアウラの『隠蔽』さえも看破し、救出部隊の所在を味方機に伝達してフクロダタキにしてしまえたことだろう。いやー残念だったね。



 左右に3つずつと額に1つ、計7つの視覚素子を備えた、非常に特徴的なその頭部。情報処理系の能力を増強されたためか、そこは一般的な機甲鎧よりもやや大きめ。

 また機体出力の多くを観測能力に割くためか、いっぽうの胴体部分のほうはやや小型で、動力負荷の小さそうなつくりに見える。

 背中に大きく張り出した動力部と、浮遊グラビティ機関ドライブがやけに目立つそのシルエットは……弱めにデフォルメが施された人型か、あるいは子どものような体型という印象を抱かせる。



 そんな『背負い籠を担いだ7ツ眼の子ども』のような【R−エア・10ティオHsハルス】が……一般的な機甲鎧よりも長い長距離砲を引っ提げ、しかし距離を取るでもなくシスの間合いに接近してきている。

 ……いや、待て。わけがわからない。そのご立派なエモノは中近距離戦向きじゃないし、そもそも連携を封じられた【エア】が単機で戦闘態勢とってる時点で意味不明なのだ。


 胴体以外ほぼ新造されたとはいえ、相手は近距離制圧特化の【シス】である。純粋な機体性能でいえば【エア】に勝ち目は無い。




「…………それに、こっちも……やっぱ、何か変」


――――フィーデスさんの『妨害』魔法のせい? ……それだけで、になる?


(だとしたら……ポンコツにも程があるよ)


――――とんこつ。



 一方で、私達が狙いを定めた特務機体【F−フィール・スルLgトリュグル】……こちらもどちらかといえば『支援』に重きを置いた運用思想のパッケージであり、味方機の後方から火力支援を垂れ流すのが本来の姿である。

 私達にガン飛ばされて因縁つけられたからといって、タイマンでのケンカに素直に応じるような性格じゃないハズなのだ。


 背中と両肩に巨大なコンテナユニットを載せ、腕はそれそのものが自在可動するウェポンコンテナであり、下半身の各所に兵器倉ウェポンベイの開閉扉が顔を覗かせ、二本の脚もそれ自体が推進器と化している。

 そんな『私達【V−4Tr】以上にヒトの形から逸れた姿』が特徴的過ぎる機体、その全身のペイロードには……イードクア帝国謹製のを『これでもか!』と詰め込んでいる、非常に物騒きわまりない機体。


 スポッター(まあ主に【エア】を想定しているのだろう)が捕捉した多数の敵目標目掛け、全身に搭載した自翔爆弾ミサイルで殲滅攻撃を行う、面制圧力と火力に特化させた特務機体。

 それこそが【F−フィール・スルLgトリュグル】の運用コンセプトであり、外観から想像できるように運動性能はかなり低い。……こっちも特務機体中で最低値じゃなかろうか。



 だからこそ……そんな機体が申し訳程度に自翔爆弾ミサイルをばら撒きながら、私達【V−4Tr】と距離を詰めようと積極的戦闘姿勢を見せていることは……まあ、違和感がものすごいわけなのだ。




(飼い主が居ないから? 自己判断権限を持たされてないから、行動がバグってる……とか?)


――――わかんないけど、とりあえず本調子じゃない。それは確かで、たすかる。


(たしかに。積極性に乏しい、まるでイヤイヤやらされてるみたいな…………あっ)


――――えっ? …………あぁ。




 …………なるほど。か。いや、たしかにだったな。


 絶対にかなわぬであろう相手であろうとも、たとえ自分の命を失う結果がわかっていようとも。

 手綱を握った飼い主に『戦え』と命令されれば従順に従い、与えられた役割に殉じる。そこに己の意思は関係無い。……そう調整されたモノが『特務制御体』だ。




――――時間かせぎ?


(…………捨て駒、ってことか)


――――奥で励起中の2機、あれが本命?


(あーもー、確かに私らにとっちゃ非常に効果的な『時間稼ぎ』ですわ!)


――――やあんなっちゃうですわ。



 敵性特務制御体【フィール】と【エア】の確保が努力目標として存在している以上、当然あの2機を瞬殺することは出来ない。

 また、そもそも私達の目的自体が『時間稼ぎと陽動』である以上、後詰めで出てくるもう2機との交戦はむしろ、私達としても望むところなわけで。


 なので私達の行動目標としては……こちらの『時間稼ぎと陽動』がバレない程度に程よく苦戦を演じて立ち回りつつ、後詰めの2機が参戦する直前あたりで【フィール】および【エア】を無力化し、トゥリオさんたちの救出作戦とアウラたちの脱出が叶うまでまたまた『時間稼ぎ』を行い、最終的に追加の2機も無力化する。……という、七面倒くさい手順を踏まなきゃならない。



 ……私達ならまだしも、コトロフ大尉を特務制御体だらけの舞踏会にお招きするのは、さすがに少し危ないかもしれない。引き続き周辺警戒と、あとアウラたちに何かあった場合に駆けつけられるように、遊撃要員として動いてもらったほうが良さそうだ。

 代わりにこの……動作不良ぎみの2機と、まだ見ぬ本命の2機に関しては、私達がキチンと請け負ってみせる。




(テアは本命2機の励起状況を見といて)


――――まかせて。……いきおい余って【フィール】落とさないでね。


(まーかせて)



 今頃はフィーデスさんもトゥリオさんたちに合流し、施設内部へと潜入している頃合いだろうか。シャウヤの『本気』なんて知る由もないが、彼女たち自身が『大丈夫ヨ』と言ってたのだ。まるっと信じることにする。

 付近に隠蔽待機させているアウラたちも、いつでも動けるように準備できている。懸念だった【エア】は出てきたが、見つかってもしらされなきゃセーフなのだ。シスが止めてくれてるし、直接危害を加えられることも無いだろう。



 今のところは、いちおう作戦どおり。順調には運んでいる。


 私達のまったく知らない『敵の奥の手』でも伏せられてない限り、作戦成功の見込みはかなり高いといえるだろう。




 そう……私達のまったく知らない『敵の奥の手』でも伏せられてない限りは!





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