第66話 完全究極態グレート強化人間作戦




「……どうですか? 設計上は伝達に問題ない筈なので、あとは特課少尉殿の感覚頼みになりますが……」


「お……おぉ、…………おおー!」


「…………動作は、問題無さそうですかね。動作反応速度のほうは、これでも可能な限り高めている筈なのですが……特課少尉殿の反応速度には……申し訳ございません、力及ばず」


「そ、そそん、んなっ! そそんな……大丈夫、ですっ! うごく、ちゃんとうごく、です、ので! ありがと、ござますっ!」


「…………ふふふ。…………恐縮です」




 シャウヤの方々を大森林までお送りするには、アウラの【エルト・カルディア】を用いる必要があるので、つまりは私も同行するわけで。

 フィーデスさんたちの視察が終わるのを待っている間、実質的な待機状態となった私達は、こうしてめでたく『代休』の取得に成功していた。


 軍人としての私の働きを管轄している……つまりは上司である(らしい)ハンダーン大佐に「義手とか調整の時間ほしいです、お休みちょうだい」と可愛らしく(それでいて軍人らしさを損なわない完璧なバランスで)おねだりしてみたところ、なんとすぐさまその場で直々に「オッケー」を貰うことができたのだ。それでいいのかよ。



 そうして晴れて『代休』を手に入れた私達は、検査やら何やらで度々お世話になっている軍用地内の総合病院へと足を運び。

 例の……やさしそうなおじさん装具士先生が、丹精込めて作り上げてくれた『私の左腕』と、こうしてついに相まみえることが出来たのだ。



 私の途切れた左腕、前腕の中程からスッパリと断たれているに、ちょうどスッポリといい感じにハマった『新しい左腕』。

 残っていた前腕部分にハメた部分をベルトで締め付け固定しているため、強く引っ張るとスッポ抜けてしまう構造ではあるが……しかし、見た目はバッチリ『ふつうの腕』だ。もしくはせいぜい『長手袋をつけている』くらいにしか見えないだろう。


 しかしながらそのは、傀儡兵ゴーレム制御の魔法技術をふんだんに用いた、オーダーメイドの『特別製』の動作義肢である。

 私自身の制御魔法によって、義手の各関節を自在に動かすことが可能。もちろんモノを『掴む』ことも、集中すれば『摘まむ』ことだってできるのだ。


 ただ……さすがに『繋ぎ目』のところは、さっきも言ったように『差し込んでベルトで締めただけ』のタイプである。重量物をぶら下げたり、あるいは私がぶら下がったりなんかは出来ないし、気をつけないと容易くスッポ抜けてしまう。

 接続部分の強度を高めようと思えば……それこそ、結構な外科的手術を施さなきゃならないだろう。

 たとえば腕の骨にボルトを打ち込んだり、固定用の金具を埋め込んだり。……うん、背筋が『ぞわわわ』ってするな。


 正直、積極的に手術を受けたいとは思わないし、そもそもそんなに負荷を掛けることもないだろう。

 なにせ今までは『無い』前提で日常生活を行っていたのだ。たとえ『ぽろり』したところで、それくらいはご愛嬌である。



 ……まあ、あえて固定を緩めて勢いよく飛ばせば、みんな大好き『ロケットパンチ』の真似事で遊んだり出来るかもしれないけど……しかしロケット噴射も再装着機能もない『飛んでいくだけ』なのは、ちょっとお粗末というか解釈違いだ。

 なによりこの、相棒テア譲りの小柄儚げ美少女の身体には……うん、さすがに『ロケットパンチ』は似合わないと思う。まぁギャップが魅力になるという可能性も無くはないが。



――――うーん、うーん……とりあえず浮遊魔法だけ義手に組み込んで、あと運動ルートをファオのほうで制御できるようにすれば……ああ、でも動力……あんな小型の動力機関はなぁ。


(ま、待ってテア。なに、ちょっと、なにを求めてるの。……私はだから、べつにロケットパンチとかほしくないってば)


――――うーーん……まてよ、あくまでも魔法を発現させるのはファオなわけだし、軌道制御魔法はファオに負担させれば……義手には浮遊する機能だけ賄うように、小さな『でんち』とか『ぽってり』みたいなやつで――


(バッテリー、ね。……いや、だからロケットパンチから離れよう? ……私はで、充分うれしいよ)


――――でも、ロマンなんでしょ? ファオ、こういうのすきでしょ? ロケットパンチとか、あと手の甲から……レーザーソード? とか、指から光線魔法とか、かっこよくない?


(待って、ちょっとだけ興味出てきたわ)




 まあ……義手に武器やら変な機能やらを盛り込むのは、さすがに冗談だろうし一旦置いておくにしても。……冗談だよね?


 ともあれ、欠けた部分にピッタリと収まり、私の肌の色に近付けたストッキング素材の表皮に覆われ、こうして『繋ぎ目』も隠された義手は……軽く見た限りでは『つくりもの』とは思えない。

 そもそも義肢にはいろんなタイプがあり、その中でも『見た目の再現』にもこだわったモデルは、けっこうなハイエンドモデルだったと記憶している。その上で、魔法制御による動作も再現されているのだ。



 ……この義手ひとつつくるのに、いったいどれ程の手間と労力が注がれているのか。

 いくら軍部から予算が降りているとはいえ……優しげな笑みを湛える装具士先生には、感謝してもしきれない。


 なお気になる費用のほうはですね、分割して私のおちんぎんから天引きでいいって。……うん、異存は無いですとも。




「……傀儡式制御義肢は、何度か手掛けたことはありますが……特課少尉殿のような『子どもサイズ』は、さすがに初めてでしたよ」


「あっ、えっと、えっと……お手数、おかけし、ました」


「いえいえ。……お陰で、勘は取り戻せて来てますから。この調子で義眼のほうも……さすがに視力の再現は厳しいですが、視線の『動き』くらいは」


「えっ!? す、すご……すごい! ありがと、ざいますっ!」



――――おおーすごい、よかったねファオ。視線動かせるって。


(うん! すごいね……これなら、ばっちり可愛い私をアピールできるよ)


――――もう既にばっちりかわいいけどね。


(えへへー)




 改めて装具士先生に、心からの感謝とお礼を告げて、また「次は連絡したら早めに来てくださいね」とお小言を言われながらお別れして。

 また……ついでとばかりにひととおり身体検査を済ませて、身体のほうが相変わらず『絶好調』であることにお墨付きをもらい、病院を後にする。



 まあ……脱走してから、もう一か月以上経つもんな。これだけの時間が経って『絶好調』で問題なしということは、やはり私の心配は杞憂だったようだ。


 私達の身体は幸いにもじゃなかったが……私の知る前世知識の『強化人間』というカテゴリの中には、専用施設での継続的な調整や、定期的なヤクブツ投与を必要とするものもあったからな。

 ……うん。じつをいうと……ほんのちょっとだけ、心配していたのだ。



 幸い(?)なことに、私達は『処置して完了』のパターンであったらしい。逃走防止施策として眼窩に爆弾を埋め込まれたくらいで、どうにか五体満足で(?)ヒトとして自由を謳歌できている。

 強いて言えば……常人と比較して、肉体的な老化の進行がかなり控えめらしいが、目に見えた悪さをするほどじゃないという。……つまりは、将来に期待ってことだ。


 そんなわけで、調整やら薬物投与やらは必要無いのだろう。考えたくもないが……もし私がだったら、ほんと危なかった。

 命からがら帝国から逃れたところで、禁断症状に長いこと苦しめられることになるだろうし、そもそも最適化処置やおクスリ無しで生きられるのかさえ定かじゃない。……そんなのさすがに最低だわ。


 ……いや、考えてみたらほんと最低だな。なんなんだよ『生体CPU』って。提案したやつも企画通したやつも実行したやつもうんちだろ。いち強化人間として声を大にして訴えたい。まったく、なにが清浄なる世界のためにだよ。でもそれはそれとしてあれらのゲテモノ機体はなにげに好きだよ。見るからにワルっぽいデザインと装備たまんないよね。劇場版発表おめでとうございます。



――――またファオのいじわるがはじまった!


(ごめんってば! だって未練あったんだもん! 20年越しだったんだもん!)


――――やだやだ! わたしも一緒にたのしめるおはなしじゃなきゃヤだ! ファオがひとりで楽しそうにするのずるい!


(そうだねごめんね! 確かに無神経だったよね! 反省してるからゆるして! 謝るから!)


――――今なんでもって言ったよね?


(えっ? 言ってな…………えっ? 言った?)


――――いった。ぜったいいった。


(やーん! ……うう、お手柔らかに……ね?)


――――しょうがないなぁ。




 身体のほうも、懸念はほぼ完全に払拭された。私の身体を蝕むものは(ほぼ)無いし、ついに左右対称の身体に戻ることが出来たのだ。

 この『かんぺき』な身体で、明日以降も特課少尉をがんばるとして……しかし今日いちにちは、テアからの『要請』に従わなければならないようだ。


 ……正直、身に覚えは無いのだけど……しかし、ほかでもないテアからの『要請』なのだ。かわいい相棒の『やりたい』を聞くのは、やぶさかじゃない。



 そんなわけで、いつぞやと同じく都市内連絡用のトラム乗り場へ。時刻はまだまだお昼すぎ、一日を終えてしまうのはもったいない。私達の『代休』は、まだまだこれからだ。



 これから私達は、かわいいテアの『何でもするっていったよね』要請に従い、中心街方面へと繰り出し。



 『お買いもの』作戦を、決行するのである!



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