第58話 特別生産品につき数量限定でのご案内
そんなわけで戻ってきました、エマーテ砦郊外の野営地。ほとんどの実働要員はまさに木こり作業の真っ最中だが、保守要員と思しき方々はけっこう残っているようだ。
通信が届くようになったタイミングで、取り急ぎ臨時司令部へと事情をお伝えしたところ、幸いなことに「すぐに執務室へお連れするように」との許可を頂いた。
先方とのアポイントも取り付けたことで、ほっとひと息。私達は安全第一でヨーベヤ大森林の上を翔び、ようやく帰還した形である。
私達に割り当てられた駐機場に
愛機から飛び降り駆け寄る私の前、【エルト・カルディア】キャビンの後部ハッチが開き……そこからシスがひょっこり顔を出し、お客様をエスコートしながら降りてくる。
ちっちゃいのに……ちゃんと周囲を見て、自己判断で最適な行動を導き出してくれている。
やっぱりアウラの『おねえちゃん』してくれているだけあって、この子はとても気くばり上手のようだ。
「ヤーヤーヤー…………ホントに『アッ』という間に着いてシマタヨ。空を飛ぶは非常に楽ネ、空飛ぶ家も快適ヨ」
「ホントヨ。
キャビンから出てきたシスに続いて姿を現した『お客様』の姿に、野営地内の緊張が一気に高まる。この場に居る者の多くは、まだ『私達の伝えた連絡』に関して耳にしていなかったのだろう。
朝からどっか行ってた変な機材がいきなり戻ってきたと思えば、そこから『角と尻尾の生えた腕がゴツい女の子』が出てきたのだ、そりゃビビるわな。
しかし程なくして、どうやら『連絡』の伝わっていたらしい上位士官とおぼしき方々が、慌ただしくも駆けつけてくれた。それによってまた周囲の『何事だ!?』ゲージが高まっていったようだが……まあ、あとのことは知らない。なるようになるだろう。
上位士官の方々に促され、フィーデスさんとトゥリオさんは周囲を興味深げに見回しながらも、仮設司令部のほうへと進んでいった。
…………まあ、私達も一緒に連行……もとい、同席の指示が下されたんですけどね。
「…………と、いう、わけで……おつれしましたっ」
「ぁ、あぁ…………承知した。遠路はるばる、ようこそ『ヨツヤーエ連邦国』へ。お会いできて光栄だ、シャウヤの皆様」
「
「フィーデス、ちょっと、大変ヨ。この茶がとてもとても美味、アは驚いたネ。コレも『ほしい』するべきヨ」
「後にするネ! というか黙るヨ! コレは正式な『取引』の話の場ヨ! 居眠り女は居眠り女らしく静かニしてるネ!」
「うるさいネ行き遅れ女」
「ぐゥ、ッ! ……腹立たしいヤツヨ!」
「はははは……」
そんなこんなでやってきました、ハンダーン大佐どのの仮設執務室。私達よりも長く生きている大佐どのも、さすがに
というか、初っ端からフィーデスさんもトゥリオさんも絶好調だ。大佐どのの視線がコッチ向いており、心なしか助けを求めているようにも感じられる。……いや、そんな目で見られましても。
しかしながら、私ことフィアテーア特課少尉はデキる女である。先の連絡を送る際、あらかじめ現在の『商談』進捗具合も合わせて送っていたのだ。私達が到着するまでの僅かな時間だったとはいえ、情報共有ならびに現状認識を行ってもらえたことだろう。
どうやら私の期待していた通り、ハンダーン大佐どのは連邦国が擁する輸送機材……六脚型多目的輸送機材【マムートス】の資料を用意してくれていた。
仲良く罵り合っていたシャウヤのおふたりも、自分たちの『ほしいモノ』の概要を目の前に出されては、そちらに興味が移ったようで。
醜い……あっ、えっと、その……仲の良いじゃれ合いもそこそこに、ようやっと『商談』らしい雰囲気の話し合いが幕を開けた。
…………の、だが。
「ウゥーーン…………コレはコレで、とても魅力的ヨ。仕入れられるなら、是非とも仕入れサセてほしいネ。……アー、
「…………失礼、拝見致します。…………っ!? え、なん、っ……もしや、コレは……重力核!?
「ンー……? ナンか
「……っ!! ……是非とも、是非とも前向きに検討させて頂きたい! そちらからは、他に何か要望は無いだろうか? こちらも可能な限り力になろう」
「アッ、ホントか? なら丁度イイネ」
うむうむ、やはり責任者が直接話を付けてくれると早く進む。私達がアレコレ無い知恵絞ったところで、この国にとって何が有益なのかは判らない。私のやらかしで国益を損ねることは、なんとしてでも避けたいのだ。
私達もフィーデスさんたちをお連れした都合上、この場に一応同席させては頂いているのだが……ぶっちゃけ『商談』に私が必要なわけではない。
そういう意味では、護衛役のトゥリオさんと近しい立場なのかもしれないが……しかし見ず知らずの人々に囲まれ気を張らなきゃならない彼女と違って、私達の周りは味方ばかりだ。さすがに一緒くたに考えるのは失礼だし、怒られてしまうかな。
……なーんてことを考えていたら、そのトゥリオさんと目があった。
それだけでなく、フィーデスさんもこちらへと視線を向けて、ニッコリと微笑んでみせた。……なんだ、かわいいぞ。
「
「「「えっ?」」」
「ハンダーン大佐の出しテくれた【マムートス】も、もちろんホシイよ。アレはアレで森の中とても便利ネ。……ソレはソレと、ファオの妹の
「あっ、あっ、【エルト・カルディア】です、か?」
「ソウ、ソレネ。堅い鎧われた家、それは『キャストラム』外でも苦シイ無イヨ。それに空を飛べる、アの行動範囲とても拡がるネ」
「あぁー…………」
なるほど確かに、シャウヤの皆さまが大絶賛していたのは、どちらかというとキャビンスペースのほうだったかもしれない。
連邦国陸上軍の輸送機材【マムートス】も、優秀で魅力的な機材ではあるが、後部のカーゴ部分はとても殺風景……いや、実用性一辺倒なのだ。
危険の多いヨーベヤ大森林の中で、ある程度安全に行動できる、ガチガチの装甲に覆われた『動く家』。その甲板上に荷物や収穫物を積んで運べるし、とても便利。……と、寄せられた声の多くは、そんな感じだったように思える。
それに加えて……フィーデスさんたちの心を掴んだのは、ずばり『空が飛べる』という点だろう。今回こうして【エルト・カルディア】に乗ってひとっ飛びしてきたことで、その利便性を身をもって体感したということか。
恐らく帝国の取引相手とやらは、飛行型の機甲鎧で取引に来ているのだろう。例の石畳のエリアはまさに駐機場であり、あそこでブツの受け渡しを行い、そしてあの場から飛び去っていったと。
フィーデスさんたちは長いこと
「ほう…………成程。……フィアテーア特課少尉」
「は、ひゃいっ!」
「その機体……
「あっ、えっと、えっと……あの、実験機、ですっ。……あの、私が、代表の……特務開発課、の、評価試験中の、試作機……ですっ」
「……成程、例の研究機関の。……ちなみにだが、実物を拝見することは可能かね?」
「えっ? あっ、えっと……アウラ、どお?」
「……問題ない、です。……機体各部、正常に動作。損傷、不具合、ともにありません」
「じゃなくて、その……お部屋の、おかたづけ。……へんなの、出てない? ぱんつ、とか――」
「ンゲッフン! ゲフン!」
「…………たぶん、大丈夫……です」
「……シスも、同意します。……ご主人さまの下着、および衣類、ちゃんと
「あっ、ありがと。……はい、大丈夫、と、思います」
「…………すまんな、急な我儘を」
さてさて……いい感じに商談がまとまりそうなのは、まぁ良いのだけど。
私達『特務実験課』謹製の突貫ワルノリ機材に、まさか連邦国軍大佐クラスのお方をお通しすることになろうなどとは。
しかも、これ……フィーデスさんたちの熱の入れようからして、もしかしなくとも私達の【エルト・カルディア】が、商談成功のカギになっちゃったりしちゃっちゃってるのでは。
――――たぶんそうだよね?
(だよねえ!?)
いやまさか、まさか突貫工事で仕上げてもらったキャンピングカーもどきが、こんなにも注目を浴びることになろうとは。
このことを伝えたら……特務開発課のみんなは果たして、どんな反応をするのだろうか。
……よろこんでくれるといいな。
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