第28話 強化人間少女の久しぶり里帰り



 道中にて【ギンヤンマ】を叩き落とすというはあったものの、幸いその後は特に予想外の事態も起こらず、概ね予定どおりのスケジュールで行程を消化していった。

 私はというと……同乗する他搭乗者を差し置いて、思う存分【ウルラ】の制御を満喫。先輩方や引率の教官が呆れたような反応を見せる中、総飛行時間のじつに7割ほど、存分に機体制御を堪能させてもらうことが出来た。


 私の保有する魔力量は、どうやら非常に豊富であるらしい。おそらくだが、首都から辺境基地まで単独航行することが可能だと思う。

 普通の人はそんな長時間、機甲鎧を飛ばすことは出来ないらしい。長距離の移動では揚力頼みの輸送機や、鉄道なんかを頼るのが主流なのだという。危険地帯上空をパスできるのは、飛行型機甲鎧だからこその選択肢なのだろう。



 ともあれ、こうして無事に目的地へ……私達が初めてこの国の土を踏んだ思い入れのある基地に、帰ってくることが出来たのだ。





「カーヘウ・クーコ士官学校所属、教導訓練官エナ・チョーシェ、および【ペンデュラム】3機。只今到着致しました」


「はい。仔細は伺っております。強行日程、お疲れ様でした。機体はこちらでお預かりします」


「頼みます。……それじゃ、特空課はこの後…………着替えて、1730に第六作戦会議室。解散!」


「「「「はっ!」」」」


「あっ、フィアテーア特課曹長! 第三格納庫にてがお待ちです!」


「えっ? あっ、あっ…………は、はいっ」



 到着のやり取りもそこそこに、私達はほぼ丸一日お世話になった【ウルラ】より降機し、辺境基地の方々と言葉をやり取りする。

 まる一日がかりで疲弊した【ウルラ】は、この後は辺境基地の整備担当に預けられ、上水や噴射剤等の補給が行われるらしい。


 主目的であるテアこと【グリフュス】の引き渡しに関しては、引率役であるエナ教官が一手に引き受けてくれるらしい。特空課の先輩方はこの基地で一晩お世話になるとのことで、基地厚生課の方々が迎えに来ていた。

 一方で、厳密には課外訓練ではなかった私は、また別の扱いとなるらしい。道中とてもよくしてくれていた先輩方とは一旦別れ、私は勝手知ったる様子で基地内を進み、程なくしてとある格納庫へと辿り着いた。




「……久しいな、ファオ。元気か? ジーナとは上手くやってるか?」


「ファオちゃん久しぶり! またこの子はこんなに可愛くなって……周りの人困らせてない?」


「姫ちゃん帰ってきたってマジっすか!? うわホントだ! アッ可愛ぇ!」


「まさか【ウルラ】出してまで乗り付けるとは……お上もお姫に首ったけ、ってことなんですかね」


「たかだか女の子一人のために……? 一体あの子は学校で何やらかしたんだか」



 ゼファー大尉率いる第三空戦機甲鎧小隊の皆さんも、相変わらず壮健なようである。どうやら私が首都へ向かった後も、引き続きこの基地を拠点として活動していたらしく、周辺魔物モンステロの駆除に輸送隊の支援に敵軍部隊の牽制にと、あちこち引っ張りだこだったらしい。


 自在に飛行ができ、航空機とは異なり小回りが利き、あらゆる方向へ直接攻撃を行うことが出来、さらに静止状態でも安定して行動できる。高出力と様々な可能性を秘める機甲鎧、さらに空戦機ともなれば、戦闘以外にも多くの需要が見込めるだろう。

 この辺境基地は、緊張状態が続くイードクア帝国とも程近い。小競り合いは日常茶飯事だろうし、彼らに働きが求められることも多いのだろう。


 やはり私も、一刻も早く成果を出して、彼らに取り立ててもらえるよう頑張らなければならない。

 もちろんえっちしたいのはやまやまだし、決してまだ諦めたわけじゃないのだが……ヨツヤーエ連邦国の平穏を担保するためには、抑止力の確保は重要事項だろう。

 戦うことに最適化された私達であれば、少なからず国防の助けになれるはずだ。手をこまねいて見ているしか出来ない、なんてことのないように……振るえる力をいつでも振るえるように、備えておきたいのだ。




「……なんか、新鮮、な、感じ。……かっこよく、なった?」


――――失礼な、わたしは前からかっこよかったよ?


「いや。ココの備蓄じゃ、塗り直ししか出来なかったからな。元からイカした面構えだったよ、コイツは」


――――ふ、ふぅーん? へぇーー? なかなか見る目あるじゃん。ファオ、このおじさんいいひとだよ。


(そのひと副隊長さんだから!!)



 この広い格納庫の中、彼らの【アラウダ】と並んでいるのは、全身を塗り替えられた【グリフュス】の巨体。全体的にブルーグレー、胴体と頭部のあたりのみホワイトでリペイントが施され、その印象を大きく変えている。

 黒い装甲だったときも悪くはなかったが、明るい色に塗られたことで凹凸が見やすくなったので、その顔つきもなんだか3割増しで凛々しく見える。


 今回の【グリフュス】受領ならびにそのための理由付けは、私にとってまさに渡りに船だった。機体だけでなく、駐機環境も整えてもらえたのは、本当に助かった。

 正式なテストパイロットとして取り立てて貰えたとなれば、必然的に【グリフュス】を扱える機会も多くなる。さすがに自家用車レベルで乗り回すのは出来ないだろうが、正当な理由があれば無下に棄却されることも少ないだろう。

 いざというときに、私が駆れる機体があるということ。それだけで安心感が半端ない。


 それに……私とテアが、密かに画策している『やりたいこと』を成功させるためには、日常的にテアの演算機能を用いられる環境が望ましいのだ。




「搬出は、明朝0700と聞いている。推進剤は可能な限り補充してあるが……弾薬は、な。此処ではいくら在っても足りん、さすがに勘弁して欲しいとのことだ」


「い、いえっ! だいじょぶ、ですっ! 光学兵器、も、ありますし……近接戦闘のみ、でも!」


「心配するな。我々は同行出来んが、あの【ウルラ】とて空戦型機甲鎧だ。小隊に喧嘩を売るような命知らずは、このへんには出て来んとも」


「それよかお姫ちゃん! さっき来る途中【ウルラ】で狙撃カマしたって本当マジで!? いやー気が合うねェー! オレも以前【ウルラ】乗っててさぁー、あの視力で狙撃しないのは勿体無いでしょ」


「ぁ、わ、わかり、ます」


「ウォーレン少尉! あんまりファオちゃんを困らせないで下さい! 着いたばっかりで、まだご飯だって食べてないんですから!」



――――うーん、やっぱ機体わたしの電脳は落ち着くなぁ。


(いちおうこれまでも『繋がってた』んでしょ? この補助知覚装置ゴーグルからでも)


――――そうだけど……たいむらぐ? が無いほうが、やっぱなんだかんだでべんりだし。おちつくし。


(まあ……テアが落ち着くんなら、それでいいや。これから一緒に居れるんだし)


――――えへへ。……じゃ、わたしはでやすんでるから、ファオは……ごはんかな、いってらっしゃい。


(うん。それじゃ……おやすみ、テア)


――――うん。おやすみ、ファオ。




 その後私は、なんだかとっても久しぶりな気がする食堂で、お腹いっぱいご飯を食べさせてもらい……とっても久しぶりな気がするけれど、せっかくなのでと隅っこのほうで『歌姫』を務めさせていただき。

 久しぶりに会った基地の人々と、あとなんとわざわざ足を運んでくれた基地司令のエライネン大佐にも、お褒めの言葉と『なでなで』を頂戴し。

 またその『歌姫』のお仕事の様子を、特空課の皆さんにもバッチリ見られ……まあ、たっぷり褒められることとなった。


 気を良くした私は、しかし翌朝の出発に備えるべく……ほどほどのところでエアリー少尉に連れ出され、少し早めにお休みさせてもらうこととなった。



 ……やっぱり、もっとたくさん『なでなで』してもらうのは、長休みとかで時間あるときじゃないと難しそうだ。

 今回はただの週末だから仕方ないけど……今度はもっと、ゆっくり過ごせるタイミングで、また皆のところに帰って来たいと思う。



 前線にほど近い、ヨツヤーエ連邦国軍辺境基地の、普段とはちょっと違う賑やかな一夜。



 これから起ころうとしている騒動を、誰一人として勘付かせることなく、ゆっくりと夜は更けていった。






――――――――――――――――――――





「…………やはり、例の小隊はケンロー基地に入ったか。……【4Trフィアテーア】の移送計画、どうやら真実であったらしいな」


「では……どうする? あの基地には【アラウダ】編隊も詰めているはずだ。現在の手勢では……正直、荷が重いのではないか?」


「ヨーベヤ大森林のを使う。魔物モンステロどもを派手に煽れば、それなりに時間は稼げよう。……まぁ叶うなら、幾らかはに向かって貰いたいものだが……加えて、を投入する。それで押し切れよう」


「……仕損じればが五月蝿いぞ。陸戦兵機だけならばまだしも、機甲鎧……それも『特務制御体』ともなれば、容易に補充出来るものでも無いだろうに」


「だからこそ、2機掛かりだ。無論、陸戦隊も出す。……特務機とて所詮は抜け殻だ、案ずることは無い。此処ココで奴を破壊する」


「……了解した。…………聞こえていたな、貴様ら。特務制御体【X−7Axシス・セクエルスス】【A−8Skアウラ・エルシュルキ】、起動。戦闘準備を開始せよ」







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