第10話 磨けば光る原石を磨いた結果




 みなさんこんにちは。多目的航空支援高火力プラットフォーム運用パッケージ【V−4Trファオ・フィアテーア】、対外担当のファオです。



――――どうも。労働担当、テアです。……ん?


(気にしない気にしない)


――――う、うん?



 さてさて、捕虜としての経過観察期間中であったにもかかわらず、監視役のエアリー少尉の目を掻い潜って強引に出撃をカマした私達。

 渾身の大暴れによって早くも状況は終了、現在は小隊のみなさん共々、のんびりと帰路に就いているところです。


 害虫もとい【魔物モンステロ】の駆除を終え、友軍地上部隊の被害を未然に防げたのは良いとして……その後は予想通りと申しますか、隊長さん直々に長々としたお叱りの言葉を頂戴しまして。

 加えて……まぁ端的に言うと『帰ったら覚えとけ』的なことも、しっかりと付け加えられておったわけです。



 そう……『帰ったら』。


 鹵獲されてから、ほんの僅かな期間を過ごしただけにもかかわらず……私達にとっての『帰る場所』がであると認識していたことに驚くとともに。

 ほかでもない隊長さん(※顔が怖いし説教も怖い)本人も、同様に捉えてくれていたということを知り……とても嬉しくなったものだ。




≪…………全く。私の言ったことを理解して居ないのか、それとも単に神経が図太いのか……暢気なものだな≫


≪申し訳ありません、隊長……私が後れを取ったばかりに≫


≪良いじゃないすか。お姫のお陰で『あっ!』という間に【魔物狩り】終えられたんすから≫


≪そうですよ隊長。お叱りも程々に、むしろここはお姫を労う所だと思いますが≫


≪僕も同感です。……よくやった、ファオ。ありがとうな≫


「……………………ん、っ!」




 前の職場……もとい、あのクソ帝国で働かされていた頃は、私の戦果など『あって当然』の雰囲気であった。

 どれだけ敵機を墜としても、どれだけ野戦砲を破壊しても、どれだけ帝国兵士を守っても、それらは当然のように『飼い主』の手柄となる。

 働きが足りないことに対して罰を与えられることは多々有れど、働きを労われたり、ましてや褒められることなど断じて有り得なかった。


 しかも……どうやら帝国軍内においてには、私達がであるのか、端々までしっかりと通達されていたらしく。

 そんな私達に――というかファオに――向けられる視線といえば、まるで幽霊やゾンビなんかのような『不気味なもの』を見るような視線ばかりで。

 それこそヒトの形をした『備品』を扱うかのような、ヒトではない『化け物』に接するかのような……そんな無遠慮で不親切きわまりない粗雑な扱いだったわけで。



 だから……なんというか。

 私の出自と、異常で異質なこの身体のことを知ってなお、私を『ヒト』として扱ってくれる彼らと……こうして交友を深めてしまうと。





(………………えっちしたい)


――――は?


(いや、だって…………こう、クるものがあるじゃん。心がぽかぽかするみたいな、好感度が跳ね上がるみたいな。これはどう考えてもシーン回収の雰囲気でしょ)


――――その『シーン』が何なのかはわかんないけど、たぶんまだだとおもうよ。


(そっかぁー……)




 私達を鹵獲し、その後私達に何かと良くしてくれている彼ら。空戦型の機甲鎧【アラウダ】6機にて編成された、いわゆるところの『エース部隊』というやつだ。

 実働隊員6名のうち、女性はエアリー少尉ひとりのみ。残る5名は――現在エアリー少尉に機体をぶん取られてお留守番中のメンバー1名を含め――全員男性、つまりは私にとっての攻略対象である。


 顔が怖いけど心は優しい隊長さんと、穏やかな顔と言動の副隊長、前衛戦闘担当で賑やかし役の中尉に、狙撃が得意で物静かな男性少尉。

 そこへ小隊唯一の女性かつ遊撃を担うエアリー少尉と……今回は乗機が整備中だったエアリー少尉に機体を奪われたためお留守番となった、最年少の男性少尉。

 以上6名が、ゆかいな『第三空戦機甲鎧小隊』の実働隊員となる。……あわよくば私もそこへ加わりたいものだ。


 更に更に、実働隊員の他にも三百を超す整備人員や、通信管制などバックアップ要員なんかも小隊には所属しているし……なんならあの基地には、第三空隊以外にも幾つかの部隊が駐屯しているわけで。


 ……うん、男のひとたくさんおるやん。よりどりみどりだわ。テンション上がる。




――――見境ないね。あきれた。


(下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、っていう名言を知らないの?)


――――照準精度が低いからって、乱射による面制圧はきわめて非効率。搭載弾薬は有限、わたしなら直ぐに火器管制の最適化を行う。同じ標的に3度はかわさせない。


(なるほど、3度目の正直……と)


――――2度目でも当てるけど?


(…………うん。テアはすごいね!)


――――ふふん。




 先日の『歌姫』作戦によって、ファオの顔と名前はそこそこ広まっていると思う。

 加えて相棒テアからもたらされた情報によると、どうやら少なからず好印象を抱いてもらえているらしい。さすがだ。

 異世界のおうたの希少価値がすごい、というのも勿論あるのだろうが……やはり何というか、私の容姿が愛らしいのも理由のひとつであろう。美少女はつよいのだ。



 そもそも、元はテアのものであったこの身体。これがまたなんというか、とにかく『私』のストライクゾーンど真ん中な可愛らしさなのだ。


 アホタレ帝国に居たときは、私達の関係を秘匿する意味もあり、とにかく表情変化を抑えて過ごしてきた。……まぁ正直、精神的に死に掛けてたのもある。

 プライベートなど有るはずもない、常時監視の目に晒され続けた日常。食事とは到底言い難いカロリー摂取や、入浴とは到底言い難い身体の洗浄や……睡眠や着替えや排泄に至るまで、そこには常に誰かしらの目線が存在していた。

 私室(とは名ばかりの飼育施設)の至る所に監視窓や監視カメラが設けられていては、身も心も休まるわけがない。身繕いなど行う余裕があるはずも無し、この輝かしい原石が磨かれることがなかったわけだ。


 しかし……こうして、なんとかかんとか受け容れてもらえて。

 ちゃんとしたお湯で身体をゆっくり温め、液体石鹸で身体と髪を洗ってもらい、従軍理容師の手によって手入れが施され……ほんのりとではあるが、表情を取り戻し。

 溢れんばかりの魅力を湛えた『宝石』として、この身は輝き始めているのだ。



 いやほんと、受入処置のときに全身洗ってもらったんだけど……その後に部屋で鏡見て、本当にびっくりしたよね。テアかわいすぎ。



――――んーん、わたしじゃない。、今はもうファオの身体だから。


(や…………でも、悔しくないの? 言っちゃナンだけど、私ってばヨソモノっていうか……テアから見たら、自分の身体を奪った存在だろうし……)


――――べつに? わたしの身体をにしたのはファオじゃないし、研究所のやつ。それにどっちかっていうと、わたしはいろいろできる機体からだのほうが便利。


(……そう、なの?)


――――そう。壊したいやつを自分のチカラで壊せるし……それに、ファオがいてくれるほうが、わたしはうれしい。わたしの身体がなって、だからわたしだった身体のファオが、わたしとなかよしになってくれて……それがたのしくて、うれしい。


(………………そう。……ありがと)


――――こちらこそ。




 私ももちろん、テアには感謝している。人間扱いされない軟禁生活だって、テアがいてくれたからこそ狂うことなく乗り切れたのだ。

 そのおかげでこうして、優しいひとたちに巡り合うことができたわけだし……私の野望を果たす道筋も、こうしてバッチリ舗装できたわけだ。



――――そうかなぁ?


(なんでよ。バッチリガッチリコンクリート舗装じゃん)


――――シロート仕事じゃん。


(前世ではDIYとか得意だったもん)




 とにかく、こんなに愛らしい私が精力的にお手伝いしようと奔走しているのだ。少なからず好感を抱いてもらえるだろうし、好かれるよう動いていきたい。


 とはいうものの……ここで下手なことをして嫌われるのは、絶対によろしくないだろう。彼ら小隊はもちろん、彼らの属する軍、ひいては国家に対しても同様である。

 幸いなことに私達はこの国に対し、さしたる嫌悪感も(今はまだ)抱いていない。もし隊長さんとかに『この国に力を貸してくれ』と頼まれたとしたら、恐らくは頷いてしまえるだろう。そこに抵抗は無い。


 しかし当然、私達の出身地となるであろうアホボケカス帝国には……もう二度とくみしたくない。

 私達にしてきた仕打ちを許せないのはもちろん……私達の姉妹や、姉妹子たちの無念を晴らすためにも、機会があれば是非ともしてやりたいところである。



 そのためにも……私達の立場を、確たるものとする。

 機会を見つけては今回のように(無断で)出撃を繰り返し……戦闘人員としての実績既成事実を、着実に積み重ねていく。


 当然、それ相応に怒られることだろうけど。

 あの隊長さんならきっと、私達をまっすぐ見据えて……『ヒトとして』叱ってくれる。



 私はそれが、とても楽しみなのだ。



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