第79話 無自覚に火種ばら撒く悪女かな




――――テア、処理中枢こころの『はいく』。


(えっ? な、なに?)


――――なんでもないよ。


(??????)





――――――――――――――――――――







 結論からいうと……私達の『とっておき』であるレーザーソードの総合的な評価は、思っていたほど芳しくなかった。

 ……ようするに、ウケなかった。


 確かに斬れ味の評価は高かったし、遠近両用の手持ち武装というコンセプトも、それなりに関心を集めたりもした。

 なにより『軽量かつ破壊力の高い近距離装備』という新しい概念には、一定以上の支持いいねを頂いた。



 ……が、採用を前提として、総合的な視点から見てみるとなると……実際のところは、私達が思っていたほどの評価は得られなかった。

 しかしその理由とは、実に明快であり納得のいくもの。シンプルに『機甲鎧で剣を振り回す訓練なんか誰も積んでいない』から。全てここに帰結する。





「わかってた、けど! それは、わかってた、けれど!」


「まあまあ……落ち着いて下さい、ファオ様。あくまでも『直ちに導入は難しい』といったニュアンスであって、反応そのものは決して悪くなかったデスよ」


「そうですね。実際、新たに支援を表明して下さった方も多く居られます。我々の宣伝という意味では、間違いなく成功と言えるかと」


「そ……そうかも、だけどぉ……」



 そう……レーザーソード部分に関しては、今回の公開試験はとても良い評価を頂くことが出来ていた。

 複合装備【ベイオネット】の射撃機能、動力装置を内蔵することによる光条魔法装備の携行化については、万人受けとまでは行かずとも一定の関心を得ることができたし……また『観覧席』であった【エルト】ならびに量産型【リヨサガーラ】に関しても、実際に何件かお問い合わせやご注文があったらしい。


 また私達の今後に期待を寄せて頂けた、あるいは『異民族シャウヤの技師が協力している』点が関心を呼んだのか、特務開発課に対して出資を持ちかけてくれた方も幾らか居られたらしく……まあ、これは純粋にありがたいことだ。

 予算だけでなく、使える施設・設備や人員も増強されるだろうとのことで、今後の【リヨサガーラ】供給はとりあえず問題なさそうである。



 総じて、悪くない結果だったといえる。特務開発課の評価も上がり、マノシアさんも技術者として受け入れてもらえて、私達の顔と名前を売り込むことが出来て……悪くないどころか、一般的には『成功』と言えるだろう。


 ただひとつ、レーザーソードの評価以外は。






………………



…………………………







「……と、いうこと、でっ!」


「ぇえ……何ぃ……?」「今度は何だ……」



 私達の秘密基地、最近ブイブイ言わせている特務開発課の本拠点前にて、私達は待ち構えていた人員と機材の確保に成功していた。


 その『機材』とは、私達【グリフュス】の目の前に直立する青灰色塗装の機甲鎧、空戦用制式採用モデルの【アラウダ】が2機。

 そして人材とは……先日私達にこころよく協力を表明してくれた、機甲課と特空課の成績優秀者、エーヤ先輩とイーダミフ君だ。


 ……ちなみに今さらだけど、イーダミフ君が苗字呼びなのは、いっかい名前を縮めて『リーナくん』って呼んだらバチクソブチギレられたからだ。

 まあ家名に誇りを持っているらしいので、そっちのほうがいいということなのだろう。……かわいいと思ったんだけどなぁ、リーナくん。




「えー……いまから、みなさんには…………こぉ、しあいを、してもらいますっ!」


「「試合…………?」」


「あっ、ちが、ころ…………い、いや、そう。試合、みたいな……ねっ?」


「「………………???」



 連邦国軍より支給された2機の【アラウダ】は、私達の備品として扱っても良いとのお墨付きを頂いている。

 なんでも『ここ最近の私達の功績がなかなかエグい感じになってるんだけど、でもファオちゃんは小さい(※意訳)から現状これ以上階級を上げるわけにはいかないし、申し訳ないけどこれでなんとか』ということらしい。まじかよ太っ腹。


 もちろん、発砲やら何やらに関してはその都度申請を出す必要はあるが……マノシアさんが解析してもオッケーだし、新装備の運用テストに用いても大丈夫だし、専属テストパイロットの模擬戦に使っても(盛大にぶっ壊さなければ)大丈夫なのだ。すごいぞ。



 そんな機体を用いて、また『専属テストパイロット』2名を招集して、これから私が行いたいこととは……ずばり『近接戦闘訓練』にほかならない。

 軽量近接武器を扱う者が居ないというのなら、自ら需要を作り出してしまおう。なんならそのまま有用性を検証していき、ゆくゆくは連邦国軍に流行らせよう。そんな作戦である。




「はいっ、じゃあ……まずは、素振り、からっ。ほら、持って、持って」


≪素振り? コレ持って振れって?≫


≪……機甲鎧で剣術でも演らせるつもりか?≫


「んえ? そう、だよ?」


≪≪はあ!?≫≫


「いいから、いいからっ。武器を、振る、いっぱい慣れて。ふたりなら、できる、信じてる、からっ」


≪あー、まー……なるほどね、だいたい理解わかったわ。オレらに宣伝させる気なんだわ、ファオちゃんは≫


≪宣伝? …………あぁ、例の……評価が微妙だったという≫


「び、微妙じゃない、ですし!? ちゃんと、つよい……ロマンですし!」



 機甲鎧へと乗り込んだふたりに向かって、手頃な大きさの枝(※ただし機甲鎧サイズ)を押しつけ、私は基礎トレーニングを指示する。

 授業なんかで剣を振ったことはあるだろうけど、それは当然生身でのお話だ。機甲鎧で剣を振るなんてことは初めて、ないしは不慣れだろうし、そんな状況で長モノを振り回したら逆に機体じぶんが振り回される。

 そうしてバランスを失った機甲鎧など、あっという間にハチの巣にされてしまうだろう。



≪≪ハチノス…………?≫≫


「あっ、えっと、えっと…………そう! ぼこぼこにする……される! の、可能性が高い、ですっ!」



 そうとも、彼らには近い将来完成する(見込みの)普及型レーザーソードを振るって大活躍してもらい、われわれのロマンを広く知らしめてもらうという重大な使命があるのであって。

 そのためには……まあ要約すると、機甲鎧である程度『剣術』じみた動きに慣れてもらう必要があるわけだ。




「なので……素振り! とりあえず、千回!」


≪≪せんかい!!?≫≫


「へんじは『押忍おす』か、『Sir,さーYes,Sirいえっさー!』、だ! ……わかった?」


≪オス……?≫≪サーエ……何て?≫


「いい、からっ! 素振り、するの! ほらっ!」


≪≪ぇえええ…………≫≫





――――――――――――――――――――





≪……どうするイーダくんよ、機甲鎧で剣術だそうだ。……色々と疑問は残るが、とりあえず大人しく従っとくか?(ひそひそ)≫


≪そうだな。……度し難いことに、兄上からも言われていてな。いわく『白の天使様とは親しくしておけ』だそうだ(ひそひそ)≫


≪マジかよ……ホンットあのは手が早いな、何をどうすりゃそうなんだ? 天性の『人たらし』か?(ひそひそ)≫


≪………………まぁ、否定はせんな(ひそひそ)≫


≪あー……だァな。オッケーオッケー、お姫様には嫌われたく無ェし……従順に行きますか。直通回線ひそひそ終わり≫





――――――――――――――――――――




「へんじ……あの、ねえ、おへんじ…………もう、ふつうでいい、から、素振り……わかった? ねーえ……うぅ……やっぱ、百回でいい、から……」


≪あー…………この棒を剣に見立てて振りゃあ良い、んだよな?≫


≪色々と思う所はあるが……まぁ、了解だ≫


「……!! そ、そう! そう、でしゅ! がんばろっ、がんばろ!」




 残念ながら私は剣術そのみちのプロではないため、効果的な訓練方法などよくわからないが……とりあえず基本的には本科の『剣術』講義を模倣すれば大丈夫だろう。既に生身では経験しているであろうを、機甲鎧サイズでフィードバックすればいいわけだ。

 まあ当然、そのまま転用出来るわけではないだろうが……何よりも大切なのは『バランスを崩さない』こと。そこに留意してもらい、あとは落ち着いて『剣術』の技術を思い出してもらえば……なんとかなるのではないだろうか。



 ……しかし、なんとか素振りを始めてもらえたが、やはりモチベーションの向上施策は必要だろう。ふたりが『いやいやながらやらされてる』状態なのは、やはりよろしくない。

 前代未聞であろう、機甲鎧での剣術技能……それを効果的に高めていってもらうためには、やはり『ごほうび』が必要なのだ。



「えっと、えっと……素振り、おわったら……模擬戦? ってほど、じゃない、けど……棒で、練習試合? しますっ」


≪はぁ? …………まぁ、了解した≫


≪ははっ! 良い見世物になるかもな≫


「んふふっ。……えっと、勝ったほう、賞品? ごほうび? なので……私が、っ!」


――――ちょ、っ!?


≪………………≫


≪………………≫



 あれ、動きとまった。死んじゃった……わけないよな、生きてるか。



 自慢ではないが、今の私はありがたいことに、軍部の中でもそれなりに知名度が高いらしい。

 見た目と来歴が奇特きわまりないのと、ここ最近の活躍が目覚ましい(らしい)こと。特にシャウヤとの交流に関しては、私達でなければ成し得なかっただろうと、いろんな方々にお褒め頂いている。


 まあそういった経緯もあって――あまり褒められたことじゃないのかもしれないが――ある程度なら『おねがい』を聞いてもらえるかもしれない立場を頂戴しているわけで。

 それでなくとも、私や特務開発課の知識や技術があれば、それなりに役に立てると思うのだ。


 そんなわけで、私の協力を個人的に得られるというのは、なかなか魅力的な賞品だ……と、思ったのだが。




――――あーあ。やっちゃったねぇ。


(えっ!? もしかして私、また何かやっちゃいましたか!?)


――――ぬもおん……。



≪……どうしたエーヤ殿、あからさまに剣筋が整い始めたではないか≫


≪そういうイーダ君こそ、何だねその鋭さは。地面でも割るつもりかね?≫


≪ははははは≫


≪ははははは≫




 なんか、ふたりとも物凄い勢いで素振りし始めたけど……きっとそれだけ深刻な悩みが、私に協力してほしいことがあるのだろう。

 ふふふ、かまわないとも。私はこんなナリでも、この特務開発課を預かる社長……もとい、責任者なのだ。


 ……いや、実質的な経営というか方針提案は、そのテの知識と経験を積んだおじさまにめっちゃお世話してもらってるけど……まあ、私がトップということには変わりないのだ。



 つまり私は、自立した一人前のオトナと判断してもらって差し支えないわけなので。



 私達の悲願である軽量近接装備レーザーソード普及のためにも、そして悩める若者を導くためにも。

 彼らにはぜひとも頑張ってもらいたいし、私はがんばる彼らの手助けをしたいのだ。





――――――――――――――――――――






――――元凶がなにか言っている……。


(えっ? な、なに……なあに?)


――――なーんでも。罪な女だねぇ。


(…………?????)



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