第78話 ひろめるためのおひろめ
本人には全くもって害意など無かった、実際のところ被害も無かった、加えてイードクア帝国とヨツヤーエ連邦国が敵対関係にあると知らなかった……などなど、弁護の余地は色々とあるのだろうけれど。
まあ……自国の首都の軍用地内に、いきなり敵軍の機動兵器が現れ、喉元に刃を突き付けられたとなっては……そりゃあ大騒ぎになるのも仕方ないことだろう。
各方面からお叱りを受け、是正措置を指示されたとしても、それもまた仕方ないことだと思う。
実際、あの場には『なんか面白そうな機体のテストやるらしいやんけ』『えっ兵站司令部のハンダーン大佐の肝いり?』『ほーん視察申請出すわ』といった感じで、軍部のお偉方も列席されていたことで……なんというか、瞬間炎上速度はなかなかのものだった。
見学席となった【エルト・カルディア】のキャビンスペースは、一時は盛大に「どういうことだ」「何だあれは」「何故ここに帝国軍機が」と物騒めな盛り上がりを見せ、搭乗者のアウラがとても混乱していたのだが……そこへ私が通信を入れて必死に事情を説明し、一生懸命に火消しを図ったことで、意外なほどあっさりと鎮火に漕ぎ着けることができた。……がんばった。
いや、だって……私達だって聞かされてなかったんだったもん。【リヨサガーラ】のテストを始める直前、いきなりマノシアさんが【グラウコス】を喚び出したんだもん。そりゃ私達だって初見だし、びっくりよ。
マノシアさん本人にそう訴えたところ、割と本気で『うわやっちゃった!』的な表情を見せてくれて、すぐさまけっこうガチ目の詫びが入ったので……うん、全部ゆるした。
小柄ひかえめ竜人美少女エンジニアちゃんの涙目かわいい、今日のおかずは決まったな。
――――あっ! 変態なこと考えてる!
(ば、ばかな!? なぜばれた!)
――――そりゃファオの相棒だもん。
(こんな場面じゃなかったらとても嬉しいせりふなのに)
とりあえず【グラウコス】の両腕に、可及的速やかに『白いライン』を描き加えること。これが今回の騒動を収めるにあたっての、軍上層部からのご注文である。
個人の所有物に対して、申し訳なさを感じるところはあるけれど……この『手枷』のマーキングを施すことで、全身を塗り直さずとも『鹵獲機』の識別標記になるらしく、今後もシュト基地で乗り回すつもりならそうしてくれとお願いされた。
とうのマノシアさんはというと……なんとまあ今後も乗り回すつもりでいたらしく、とてもアッサリと受け入れていた。
そんな感じで、じつはけっこう多方面を騒がせていたマノシアさんの【召喚】魔法だが……まあ色々と制約があるらしい。
設置した魔法陣の上にあるものしか召喚できないとか、登録したものでなければ召喚できないとか、そもそも生きているものは召喚できないとか、術式が複雑かつ発動コストが大きいとか……要するに『一部のシャウヤにしか扱えない』のだそうで。ざんねんだ。
ともあれマノシアさんの私物ではあるが、特務開発課にとっては『棚ぼた』もいいところだ。既に旧式の部類に入るとはいえ、帝国軍製の完動品で、堂々と見識できる機甲鎧とそれに精通した技術者を迎え入れることが出来たのだ。
私達の機体のような特務機ではないので、すぐさま画期的な新技術が得られるわけではないのだろうが、敵国の機甲鎧事情を少なからず知ることはできるだろう。
そのあたりの、ヨツヤーエ連邦国軍が得られるであろうメリットを諸々考慮して頂いて、【グラウコス】騒動
そんなまさか、あの試験を視察に来られた軍のお偉方が……後日
――――――――――――――――――――
「…………はい。今日も晴れたね」
――――よかったね。よく見えるよ。
「グギャーム!!」
日を改めて、しかし場所はそのまま、演習場内の丘陵地帯。前回と同様われわれ『特務開発課』主催の、特別公開試験の日がやってき(てしまっ)た。
しかもなんと、驚くなかれ。前回は【リヨサガーラ】の観察に専念できていた私達だが、今回はなんと立場がすっかり入れ替わってしまっている。
つまり……私達【グリフュス】が観察
今回のコレに至る経緯を、簡単に纏めさせて頂くと……まず『ハンダーン大佐が絡んでいる』ということを聞きつけた軍関係者が前回の公開試験に押し寄せ、そこで目にした【リヨサガーラ】とその原型機である【エルト・カルディア】と隣に控える【セプト・カルディア】に興味を持ち、そこから『なんか見たこともない機体つくってる謎の集団』こと私達『特務開発課』の存在を知り、
決して少なくない方々に『そんな面白そうなこと企んでいるとは実にけしからん、見せて見せて。なんなら支援もしちゃうゾ』と熱烈なラブコールを頂戴することになり。
声を掛けてくれたのが高名な方々だったらしく、特務開発課の経営陣が『ここぞ』とばかりの盛り上がりを見せ、気がついたらこうしてステージをセッティングされていたという……まあ、そんなわけでですね、ついに
――――まあでも、べつに隠してたわけじゃないんでしょ?
「そうそう。近接戦闘……あー、近距離銃撃戦じゃなくて、格闘兵装ぶん回すのがそもそも少数派だし……そんな期待もされないかなって思ってて」
――――でも、いるんだよね。メイスとか、ウォーハンマーとか、そういうの機甲鎧でつかうひと。
「そうだねぇ。……まー、明らかに
――――がんばってね。あと失敗したらばつげーむね。
「ふひぃん!」
はいはい、そんなわけで今回の演目は『試作型レーザーソード』のお披露目、演者は
演習場である丘陵地帯、間違っても後方にヒトや施設の無い方角に、割と突貫工事で設置された訓練用標的が待ち構えている。
ヨーベヤ大森林直送の規格外木材を用いたそれらは、近距離から遠距離までまんべんなく散らばり、この公開試験が『遠近両用装備』のお披露目であることを言外に示している。
「…………よし、やるか。火器管制オンライン、【ベイオネット】抜剣」
――――はいはーい。テールターミナルハッチ開放。
直立した【グリフュス】の腰背部武装モジュール、かつては
ジャマダハルのような、あるいは切り詰めた松葉杖のような、そんな独特の形状を持つ【ベイオネット】……それを引っ張り出す【グリフュス】の前腕はそもそもが長いので、武器を構えた全体像はナカナカの威圧感だろう。
「出力指向、射撃」
――――がってんおっけー。
とりあえず景気付けに、遠めの
私がトリガーを引くと同時に【ベイオネット】内部で光条魔法が発現、剣先へと集束されたそれは一直線に突き進み、ほんの瞬きの間に着弾。
着弾を示す弾痕は刻まれたが、訓練用標的を一撃で消し飛ばすほどでもないし、仮に丘にぶち当たったところで地形を変えるような被害は出さない。……まあ訓練用出力だからな。
そのへんは観覧客の皆さんも理解しているようなので……つまり試験に求められるのは破壊力ではなく、命中精度と連射速度だろう。
ならばと立て続けに二射、三射。あえて同一の
連射速度のほうも、まあ『早い』というほどではないが、充分に許容範囲ではないだろうか。放熱機構に負荷を掛ければ連射速度を上げられないこともないが、秒間一射なら実用レベルのはずだし、なにより『手持ち装備』であることに意義がある。
そもそも、現状として機甲鎧用の光学武装とは、いうなれば『無いわけではないがなかなかに限定的なもの』といった状態である。
私達【グリフュス】の肩部自在砲塔や、連邦国軍の高射課に配備されている【オリオーラ】背部高角砲、あるいは陸戦用の拠点攻略自走砲のように、機体直結で動力を回しているものが殆どなのだ。手持ち式の光学武装は、残念ながら普及していない。
光条魔法を発現させるためのリソースを『機甲鎧本体の動力部』から回しているので、接続ラインを切ることが出来ない……というのが、一応の原因である。
そんな悩みを、こちらの【ベイオネット】は強引に解決しました。携行装備そのものに動力機関を積み込むことで、機甲鎧本体と動力ラインを繋ぐことなく発砲が可能。
現状は【グリフュス】コンテナ基部のリールから伸びるケーブルで繋がれているが、これは単なる紛失防止および奪取抑止のためだ。もし仮に切断されたところで、使用そのものに影響は無い。
つまりこの装備さえあれば、どんな機体でも手軽に光条魔砲が放てるようになるわけで……その価値に気付いた方が『ざわざわ』し始めた気配がする。
しかしもちろん、その構造上どうしても『コストの高騰』は避けようがない。なにせ動力機関をまるまるひとつ、たかだか手持ち武器に組み込んでいるのだ。見ようによっては戦闘車輌一台を機甲鎧の装備品にしているような、贅沢ともとれる感覚なのだろう。
尚のこと紛失は避けたいところだし、敵に奪われるなんてもってのほかだ。落下防止ワイヤーの取り付け義務化は提言しておくべきだろう。安全帯ヨシ!
――――かなり『ざわざわ』してるよ。みんな興味もってるみたい。
「マノシアさんが説明上手なのもあると思うよ。あの子は本当に、単純に知識量がすごい」
――――ずーっとひとりで研究してたんでしょ? 研究仲間が増えたって、よろこんでたよ。
「…………よかった」
そんなマノシアさんが、長年研鑽してきた理論のひとつが形となった【ベイオネット】の、もうひとつの力。
私の持ち込んだイメージを組み込み、ひとつの回答として完成した、機甲鎧業界に新風を巻き起こす(ことができたら嬉しい)機能。
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