第91話 採集拠点のたのしい未来予想図




 バッチリやり手の隊長である私は、おばちゃんたちによる餌付け包囲網を鋼の意志で脱した後も、しっかりばっちりエマーテ砦の調査任務をやり遂げてみせた。


 具体的には……野営地ではなく壁の中の宿泊施設を探したり、その所在や価格や施設の様子なんかを調査したり。

 あるいは……食べもの含め、エマーテ砦内商業区で調達できる物品と、購入できる店舗の位置関係なんかを記録したり。



 特に後者は、シャウヤの方々が求めるもの――食料品や嗜好品――が、場合によってはココで手に入るかもしれないのだ。

 そのことを教えてあげた上で、フィーデスさんたちに【リヨサガーラ】を引き渡すことができれば、彼女たちが自力でここまで調達に来ることだってできるだろう。


 危険地帯上空を突破する交易隊は、いたずらに輸送量を増やすことが難しいのだ。優先して運ぶものを気兼ねなく取捨選択するためにも、自力で買いに来れるなら来てもらったほうが望ましい。

 そしてあわよくば……エマーテ砦とキャストラムとの間でも交流が増えてってくれれば、ゆくゆくは連邦国にとってもプラスだろう。




「……と、いうわけなので……ちゃんと調べる、調べられたので……私達、あそんでた、ちがいます、なので……」


「いや、別に疑っては居らんとも。……むしろ、気を抜いてくれても良かったのだがな」


「んんー…………で、でも、だいじなこと、思いました、でしたっ」


「そうだな。次回以降の交易遠征、参考にできる情報が多ければ、準備をする上でも色々と楽だ。……よくやってくれた、隊長殿」


「んへっ、えへっ。えへへっ」


「…………メモトール殿も、ご苦労だったな」


「なんの、この程度は。……文官の身なれど、一応は男に御座いますので」


「んー、でも、とても助かり、ました。シルス、さん……荷物、ありがと、でしたっ」


「ふふっ。……光栄です、特課少尉殿」



 短くも濃密な『調査』を終え、そして大量の『おみやげ』を抱えた私達は、陽のどっぷり暮れた野営地へと戻ってきた。

 どうやら先に戻っていたコトロフ大尉に、エルマお姉さまたちがうまいこと伝えてくれていたようで、私達が特に怒られるようなこともなかった。


 ちなみに、戦利品(および購入物)の数々に関しては……私達ちっちゃい3人だけではちょっと無理な量だったので、途中で合流できた従軍書記官のシルスさんに運ぶのを手伝ってもらった。

 おシゴト終わりで散策してたところを、私達に捕まってしまったシルスさん……かわいそうではあるのだが、彼のおかげでごはんもおやつもお土産も、あと個人的に買った『おもちゃ』に至るまで、バッチリ全部持って帰ってこれたのだ。とてもありがたい。うれしいベリー感謝感謝。



 そうして持ち帰ってきた戦利品の数々だが……この中でも、特に『ごはん』や『おやつ』に関しては、はっきりいって私達だけでは処分しきれないくらいの量になっている。

 とりあえず可能な範囲でおなかに詰め込んだけど、詰め込みすぎてパフォーマンスが下がるのは避けねばなるまい。のこりは【エルト・カルディア】の冷蔵庫に入れておいて……まあ、フィーデスさんへのお土産にすればいいだろう。

 大森林ののエマーテ砦……キャストラムから最寄りの町で買えると教えてあげれば、きっと興味をもってくれると思う。




――――ごはんとか、おやつとかは、まぁそういうことで良いにしても……その、なんて?


(まあまあまあ。単に『おもちゃ』といっても、別にえっちなやつじゃないですからね)


――――な、なあに? えっちがどうしたの、むしろなんで『おもちゃ』がえっちに関係あるの?


(えっちなことに使うおもちゃがあるんだよ)


――――へ、へえー…………。



 私の『おもしろそうレーダー』にビビビッと来たのは、ある意味ではヨーベヤ大森林らしいおもちゃ……もとい、護身道具の一種。

 機甲鎧で使用する特殊装備、一種の『手投げ弾』である。


 使い方はとっても簡単。封印を解除して目標地点に投げ込めば、数秒後に炸裂して内包物を周囲一帯にぶち撒ける、というもの。

 そしてその重要な『内包物』というのが……周囲の魔力伝達を阻害する効力を持つ特殊な粉末――大森林に多く生息する【羽撃種ジャマー】の鱗粉りんぷん――というわけだ。


 大森林でよく遭遇する【魔物モンステロ】……【響騒種クラッカー】や【重甲種タンク】なんかの魔法に類する攻撃手段を散らすことも、あるいは厄介な【要塞種ジェネレーター】の防壁を崩すことも(店主いわく)可能。

 また他の機甲鎧に向けて投げつければ、その動作を阻害することもできるとのこと。


 ……まあ要するに、イーダミフくんの機甲鎧に投げつければ一方的にフルボッコにできるのだ。

 何が起こってるのかわからず取り乱すイーダくん、きっと見ものだろう。



――――なんて陰険な……。


(いきなりは使わないよ、私を怒らせるようなことしたら使う)


――――うーわ、こわ。横暴な隊長こわ。


(わっはっは)



 まあ……実際に身内に使うかどうかは置いておくとしても、対【魔物モンステロ】用の備えとして持っておいても良いかもしれない。

 とはいえもちろん、いきなり全幅の信頼を於くのは早計だろう。果たして本当に効果があるのか、また使いやすさはどんな感じなのか、そのへんをチェックしておくべきだ。そう思って『お試し』で購入してみた『おもちゃ』なのである。



(でもでも、さすがにちょっとびっくりしたよ。食べものとか、大森林で取れた資源とかだけじゃなくて、まさか機甲鎧の武器とか道具とかも売ってるとは……)


――――軍じゃないひとたちがよく買うのかもね。わたしたちの格納庫おうちみたいに、いっぱいのひとが整備おせわしてくれるわけじゃないとか?


(そうだね。なんか……民間用? の整備工場みたいなのもあったし)


――――木材の加工工場とか、あとやっぱ食べものの工場とか。……すごいね、見どころがたくさんじゃん?


(ぐぬぬ……また今度ゆっくり見に来る!)




 おシゴトの途中で、同行者におすすめされて足を伸ばしたエマーテ砦ではあったが……ほんの数時間そこら彷徨っただけでも、そのポテンシャルを垣間見ることが出来た。

 今回は他に優先すべき予定があったため、僅かな時間しか吟味できなかったのが心残りだ。エマーテ砦そのものを目的地として、時間をかけてじっくり堪能する価値はあるだろう。


 ごはんに、おやつに、おもちゃに……いろんな『たのしいもの』で満ちているエマーテ砦。近い将来、シャウヤの方々が気軽に遊びに来れるようになれば、もっと『たのしい』であふれるに違いない。

 そんな愉快で、活気あふれる未来を現実のものとするためにも、私達はこのおシゴトを成功させなければならないのだ。



 私達の働きに、この常時お祭りムードなたのしい町の、さらなる発展が掛かっているのだ。

 気合も、モチベーションも、そりゃあ高まろうというものである。



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