第四章 エルフ編
第70話 二枚舌作戦
エルフ、それは男のロマンだっ。
俺がクズだというなら、クズと笑ってくれていい。だが、笑う前にこのエルフたちを見てからにしてくれ。
ハーーーイ、スペエエエエック! あまりにもハイスペックなこの女たちをっ。
顔、腰、尻、足、乳っ。見事ではないか。これに抗える男がいたら、俺の前に連れて来てくれっ。
だが、残念なことに俺は
「ボーンさん、きっと来てくれると思いましたよ。でも、男の肉体ではないのですか?」
ちなみにアンデッドなボディに耳垢など出ない。膝枕に耳かきも男のロマンだ。耳垢なんてなくても関係ない。
「不死王さん、シルフィとその侍女たち、反則です。シルフィだけなら、ギリギリ耐えられたかもしれません。まさかエロ美しい侍女が1ダースも付いてくるなんて、聞いてませんよ。男体は今、厳選中です」
「そうですか。苦労してエルフ王を説得した甲斐がありました。それで、植民地からの独立はお手伝いして頂けるのでしょうか?」
「もちろんです。シルフィを虐めるヤツは俺が許しません!」
「おおっ、助かります。その後、人間の国を植民地化する件もお手伝い頂けるのでしょうね」
「申し訳ないのですが、それは別の話です。色香を選んだクズな俺ですが、旧友たちの国を蹂躙するのは、さすがにためらわれます。不死王さんだけでお願い出来ますか? 俺は邪魔しないですから」
「……そうですか。いいでしょう。ボーンさんが相手でなければ、何とでもなります。ところで、『わがままボディ』ってどういうボディですか?」
(えらく唐突な質問だな)
「豊満な胸がピンと上に向かって存在を主張する一方で、くびれのある腰から張り出すヒップもキュッと上に持ち上がっているボディです。重力に抵抗するわがままな様子を表現した言い方ですが、俺は『ダイナマイトボディ』と呼んでます」
「ああ、あのすごい威力のある爆弾ですか。なるほど、勉強になります。今、『わがまま隊』というのを企画中です。今度、監修をお願いします。では、失礼します」
そう言い残して、不死王はいなくなった。
(「わがまま隊」とは、また随分と夢のある呼び名だなあ。不死王を騙すの嫌だなあ。全部話しちゃいたいなあ)
「少し寝る」
シルフィにそう言って、エリザの俺はしばらく眠り、王国に残して来たレグナの俺に集中することにした。
デュアルを使い、エリザはエルフにつき、レグナは人間につくというのが、カレンの考えた「二枚舌作戦」だ。俺としてはレグナの姿でエルフの国に行きたかったのだが、女たち全員に反対された。籠絡されてしまうというのだ。
(相変わらず信用ないな)
シルフィたちの胸や尻を触りまくっているので、信用ないのは当たり前か。でも、あんな女たちに毎日イチャイチャされて、何もしない方がどうかしていると俺は思う。適当な男に憑依して、やっちゃっていない俺を褒めて欲しい。
さて、レグナの俺は、王国の王宮の中の迎賓館に来ていた。人間の危機ということで、対策本部を立ち上げ、対応を協議しようということになったのだ。こんな未曾有の危機でも、打ち合わせ時間は、学園の放課後にしてもらった。
メンバーは聖魔女のアネモネ、国王のジョージ、王妃のカレン、法王のクラリス、そして、俺の五人だ。それぞれの後ろには護衛が二名ずつついている。
アネモネには騎士筆頭のランスロットと聖女筆頭のサーシャ、ジョージには騎士次席に昇格したヒューイと親衛隊長のオスカルという女、カレンにはイメルダに扮したクイーンとヴァンパイアのシルビア、クラリスには聖女次席のマーガレットと何とクラウス、そして、俺には学園の制服のままのリズとアリサだ。
(人外が勢揃いだな)
クラウスは悪魔退治をコツコツ積み重ねて、今やレベル3000を超えているらしい。枢機卿になるために頑張っているのだが、クラリス法王が名前が紛らわしいという理由で、クラウスを枢機卿に推薦しないでいることを彼は知らない。
(本当に不憫なヤツだ……)
クイーンはアネモネとはいったん停戦するつもりだと言っていた。アネモネには全く気づかれていないようだ。ランスロットがリズとアリサを睨んでいるが、お前の仲間のキースを殺したのは、隣のサーシャだぜ。
「エルフの植民地はもう諦めるしかないけど、ドワーフの植民地は安泰なのよね?」
アネモネが俺の方を見て話した。俺に質問したのだろう。
「ああ。不死王はエルフを解放した後、この大陸を攻めるつもりだ。だが、エルフは積極的ではない。不死王の復讐に嫌々付き合わされるんだ」
アネモネにタメ口をきく俺を見て、俺のことを知らない国王と法王が俺の正体を知りたがっているようだ。
「アネモネ様、この男性の方はどういった方でしょうか」
法王が遠慮がちに聞いた。
「さっき説明した通りよ。学園のボーン先生よ。数学の先生なの」
アネモネが法王に説明しているが、錚々たるメンバーの中で、数学の教師はあまりにも場違いだ。
「はあ」
法王が力なくうなずいたが、納得出来ていないのだろう。
「そこにいるサーシャの育ての親です。アードレーファミリーの特別顧問もやっておりますし、人材派遣会社と日本料理レストランとタイ料理レストランのオーナーでもあります」
「ひょっとして、レグナさんでしょうか?」
法王よく知っているじゃないか。
「はい。そっちの名前の方が有名ですかね」
「これは失礼しました」
経済界と暗黒街の両方で売り出し中だからな。教会の情報力なら知っていて当然か。
「うふふ。ボーン先生、副業で有名なのね。この前のお店、とても美味しかったわ。今度はシスの故郷の料理店もオープンするのでしょう? そちらも連れて行って下さると嬉しいわ」
「もちろん、ご招待するよ」
アネモネが生前のクイーンのことを「シス」と呼んでいたことを知っているのは、俺とクイーンとアネモネだが、王族歴の長いクイーンはさすがで、顔色ひとつ変えなかった。
俺たち二人の会話が終わるのを待って、王妃が本題に入った。
「聖魔女様、旧帝国領でのレジスタンスに悪魔が加勢して、抵抗運動が激しくなって来ておりますが、これはどうやら不死王の妃、ベラの策略のようです。吸血女王の母親ですわ」
「カレン、ボーン先生から、あなたに対策を考えてもらうのが一番だと言われているのだけど、あなたの案を聞かせてくれるかしら」
「漆黒のスケルトンと従者には、旧帝国領の鎮圧をお願いするのがよろしいかと」
俺がそのスケルトンだということは、しばらく秘密だ。
「漆黒のスケルトンだと!? あの変態ロリコンが手を貸してくれるのか?」
(この王、死にたいのか?)
「はい、陛下。聖魔女様からお願いして頂ければ、漆黒のスケルトンとその従者が、帝国のレジスタンスを悪魔ごと瞬時に鎮圧してくれますわ」
「聖魔女様、カレンの言うことは本当でしょうか?」
王は半信半疑のようだ。
「ふふふ。本当よ。では、帝国の件は私から漆黒に依頼するとして、エルフの上陸には騎士団と聖女隊で当たるのかしら?」
「はい。その通りですが、不死王のアンデッド軍団に先手を取られたら、騎士団も聖女隊も全滅してしまいますので、アンデッドと協力すべきです。クイーンと停戦して、クイーンの協力を仰ぐべきかと」
「クイーンとはずっと仲直りしたいと思っているのよ。でも、どうやって連絡を取るのかしら?」
「漆黒のスケルトン経由で打診すればよろしいかと思います」
「なるほどね。ただ、協力してくれるかどうかは分からないわよ。仲違いしているのは、私の意思ではなく、彼女の意思だからね」
「はい、大丈夫と思います。それとベラの娘のヴァンパイア二体にも協力を要請しようかと思います。こちらは私のコネで対応します」
「カレン、いつの間にそのようなコネを?」
「陛下、身を守るために色々私も苦労しているのですわ」
「分かったわ。その作戦で行きましょう。ボーン先生、何か質問はある?」
俺は手を挙げた。
「王妃様に質問があります。ヴァンパイア二体ですが、吸血女王は封印済と聞いていますが、もう一体の方もこれから封印をするのでしょうか?」
「ええ、そのつもりで考えてます」
王妃の後ろのシルビアが少し動揺している。
(ぐへへへ、封印するのが楽しみだなあ)
俺はいつからこんな下品に笑うようになったのだろう。あとは、サーシャを帝国に連れて行っていいかどうかを聞きたいが、ここでは聞けないから、後でアネモネに聞こう。
「ありがとうございます。もう質問はありません」
この後、細部を確認し、散会した。
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