第21話 パパの危機
―― アリサ視点
私たちは地下五階の「暗黒の部屋」で、リッチーを練習台にして、戦闘経験を積んでいた。
「霊体は二時の方向です」
リズが霊体の位置をサーシャに知らせた後、オーラをかけた。二時の方向に白く輝く霊体が浮かび上がる。高位のアンデッドは、肉体と霊体を離すことが出来るらしく、霊体の方を攻撃しないと効果がない。
「行きますわ、オラクル」
サーシャのオラクルの威力は絶大だ。オラクルは神託を得る魔法だが、それをリッチーに当てて、神の声を聞かせるのだ。浄化に関しては男神よりも女神の方が威力が強く、サーシャは何と三柱の女神から同時に神託が下りる。
リッチーが悲鳴と歓喜の入り混じった声を上げながら、天に召されて行った。すぐに別の魂が残されたリッチーの肉体に宿る。
「今度は肉体と霊体は一致しています、オーラ」
「行きますわ、オラクル」
さっきから、これの繰り返しで、私は特にやることがない。オーラもオラクルもほとんど魔力を使う必要がなく、このルーチンをずっと続けることが出来るらしい。
(でも、これって、戦闘経験になるのかな?)
またリッチーの霊体が入れ替わったが、今回はリズが霊体の位置をなかなか教えてくれない。あの表情は、パパからの伝言のようだ。
「おじさんがピンチみたいです。地下九階で石の巨人に囲まれて、脱出出来ないそうです。助けに行きましょう」
パパに何かあったら……、私の心臓がドキンとする。
私たちはすぐにリッチーの部屋を出て、廊下を歩きながら、話し合った。
「石の巨人って?」
私はリズに尋ねた。
「3メートルぐらいある石で出来た人型の巨人だそうです。お互いに決め手がなく、勝負がつかないそうですが、地下八階への階段を全て押さえられているみたいなのです」
「浄化されたりはしないのね?」
「はい。それは大丈夫みたいです。おじさんは助けを求めてるわけではなく、時間がかかりそうだと伝言して来たのです」
リズは冒険者おたくで、ダンジョンについても詳しく、私とサーシャに説明してくれた。ミントのダンジョンは、過去に地下八階までを何組かの冒険者が踏破していて、詳細をまとめた報告書があり、リズはメモを持っていた。
地下六階 インセクトフロア
巨大な昆虫
炎、雷系の魔法が有効
地下七階 アリの巣フロア
炎、雷系の魔法が有効
地下八階 アンデッドフロア
多種多様な強力なアンデッド
眠っているので起こさないこと
地下九階 荒野のフロア
前人未到で帰還者なし
地下九階と地下八階は吹き抜けで繋がっていて、地下九階の様子が地下八階から見えるらしいが、荒野であること以外は分かっていないらしい。
ただ、ミントのダンジョンには古くから伝わる伝説があり、地下九階がダンジョンの最下層で、そこには「古代王」の亡骸が安置されていて、それをゴーレムが守っているらしい。
「ゴーレムって倒せるの?」
私はリズに聞いてみた。
「果たして石の巨人がゴーレムかどうかは分かりませんが、一般的にゴーレムに対しては、核以外の攻撃は無効です」
「核はどこか分かるの?」
「ゴーレムを動かしているエネルギーの中核です。エネルギーの流れがわかる人であれば特定できます。私はエネルギーの流れを感じることができます」
「エネルギーって?」
「石の巨人がゴーレムだとすると、霊力だと思います。古代王は埋葬された後、アンデッドになったという噂もあるのです」
「いけるね」
私たちは頷きあった。勝算は十分にある。助けに行って、足手纏いになるのだけは、避けなければならない、
「いつもおじさまには、助けて頂いてばかりでしたわ。今回は私たちが助けて差し上げる番ですわ」
サーシャが積極的に発言することは珍しい。私だって、パパには返せないほどの恩がある。私のやりたいことは、パパには恥ずかしくて言えなかったが、私の生涯をかけてパパに恩を返すこと、なのだ。
パパ、待っていてね。
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