第22話 虫のフロア
―― サーシャの視点
(き、気持ち悪いですわっ)
私はリズさんを見た。
(リズさんはあの「角お化け虫」の突進をよく真正面から受け止められますわね。あまりの迫力に、私、少し、ほんの少しだけチビってしまいましたわ)
私は気づかれないようにクリーンの魔法を唱えた後、今度はアリサさんを見た。
(アリサさんのプラズマも凄いわ。糸のように細い電撃を正確に虫の額に当てるなんて。「算術」のスキルが役に立っているというお話でしたけど、魔力をほとんど使っていないのではないかしら)
角お化け虫が突っ伏したまま動かなくなった。
(また、倒してしまいましたわ。私たち、レベルが350とおじさまからお聞きしましたが、もっと行っているに違いありませんわ)
続いて、草陰から大きな虫が、ものすごいジャンプ力で私たちに襲いかかって来た。
(ひ、ひぃぃぃぃ、あんなにジャンプしてっ。キャアアアアアアア)
すでにアリサさんのプラズマで額に穴の空いた緑色の虫の死骸が、私の上に乗っかかってきて、私は後ろに倒れてしまい、昆虫を抱っこする形になった。
(こ、この、おどきっ)
私は昆虫を横に振り払った。思った以上に勢いがよく、昆虫が木々を薙ぎ倒して転がって行く。
(何だか最近ものすごく腕力がついて来たような気がしますわ)
私はよろよろと立ち上がった。
リズさんとアリサさんが私の腕力に驚いている。
「サーシャさん、頑張って、おじさんを救うためですっ」
「分かっておりますわ」
私はエロ侯爵に売られる予定だった。そもそもこんなお嬢様言葉を話すようになったのも、エロ侯爵から孤児院に派遣された家庭教師から強要されたためだ。
そのエロ侯爵が私をさらおうとしたのは、私が十五歳になるのが待てなかったというよりも、奴隷代金を踏み倒したいためだったらしい。侍さんと忍者さんがそんな話をしていて、誘拐の報酬の支払いを心配していた。
そんなどケチな侯爵の魔の手から、おじさまは私を救ってくださった。そのご恩に報いるため、私が聖女になって、おじさまを安心させたい。
(おじさまを倒せるのは聖女しかいないもの。聖女は十三人いるけど、私が筆頭になって、おじさまへの攻撃をさせないようにするわ)
私たちはようやく地下六階を抜けて地下七階に入った。
(アリの巣……。地下八階はリズさんの言った通り、本当にフロア全体がアリの巣だわ。アリの巣を進むなんて!?)
リズさんの腕にもアリサさんの腕にも鳥肌が立っている。気持ち悪いと思っているのは、私だけではないようだ。
私たち三人は真っ暗なアリの巣をアリサさんのライトの魔法で照らしながら進んで行く。
「ひぃぃぃぃ、は、羽蟻よっ」
(アリサさん、そんな悲鳴出しちゃって……)
「ひゃぁぁぁ」
(まあ、リズさんまで)
彼女たちの前に20センチほどの巨大な羽蟻がひしめき合って飛んでいるのが私にも見えた。
(ひえぇぇぇ、ウジャウジャ飛んできてるじゃないのぉ! 羽音が気持ち悪い……)
「デトクス、キュア」
私は念のため、解毒と治癒を全員に施した。
「プラズマ!!!」
アリサさんがものすごい電撃を羽蟻たちに向かって発射した。タンパク質が焦げる匂いが蟻の巣に充満した。
ものすごい数の羽蟻がぼたぼたと地面に落ち、足の踏み場がない。放った魔法の威力がすさまじかった。まだ空気中がバチバチいっている。
「もう、羽蟻とか気持ち悪すぎよ。早く通り過ぎるわよ」
私たち三人は巣を駆け抜けた。レベルが高くなって、身体能力が驚異的に上がっているのを実感した。
階段の入口が見えて来たが、兵隊アリが数匹で守りを固めている。
「もう、いい加減にしてぇぇっ!」
アリサさんがブチ切れて、グラヴィティを唱えたようだ。兵隊アリが重力でひしゃげて潰れて行く。
(え、エグいわ……)
「アリサさん、お疲れ様、さあ、地下八階に行きましょう」
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