第25話 不死王の頼み

『ちょ、ちょっと、待ってください。私の話を聞くだけ聞いて行ってください』


(頼みって、ここから出してくれっていうことですか? 出し方知らないです)


『ここから出る方法は知っています。私をバラバラにして、この部屋の外に出すだけです』


 俺と同じか。出方は知ってるのね。


(仮にそれで外に出られたとして、不死王さん、地上を滅茶苦茶にするんじゃないですか?)


『頼みというのはまさにそこです。出た先のことです』


(え? 地上を滅茶苦茶にする手伝いですか?)


『違いますよ。そんな意味のないことはしないです。もう勇者も死んでしまってますしね』


(じゃあ、頼みってなんです?)


『私ね、この五千年間ずっと考えていたんです。外に出たとして、もう一度封印されたら、二度と立ち直れない、とね』


(なるほど。で、出た後どうされるんですか?)


『封印されるのは、人間と敵対するからだと思うのです。人間と協調路線で行けばいいのですよ。人間にとって我々がメリットになると分かれば、封印はしないですよね』


(それはその通りだと思いますが、具体的にはどうするんですか?)


『人間って、エロと軍事だと思いませんか?』


 むむむ、まさに核心を突く指摘だ。


(その通りですが、アンデッドにエロは無理でしょう)


『そんなことはないです。憑依やチャームで、あんなこともこんなこともできちゃいますよ。でも、私たちはちっとも面白くないですよね。で、エロは悪魔に任せて、軍事で行こうと思うのです。「アンデッド軍団」って売り込めると思いませんか?』


 疲れを知らない不死の軍団か。滅茶苦茶強いじゃないか。


(魅力的だと思います)


『でしょ? 敵兵を殺し放題ですので、我々もストレス発散できます。それで、ボーンさん、どこかの国に私の軍団を売り込んで来てくれませんか。もちろん報酬はお渡ししますよ。幹部にご興味はないようですが、何か欲しいものはありませんか?』


(欲しいものですか? そうですね。私は聖女が怖くてたまらないのですが、対抗できるアイテムなどがあるといいのですが)


『聖女ですか。あれは確かに恐ろしいですよね。これなんかどうです?』


 不死王の手の上に忽然と人魚をかたどった笛が現れた。


(これは何でしょうか?)


『「人魚のネックレス」です』


(まさか。話せるようになるのですか?)


『いいえ、ハズレです。人間を魅了する音波を出すレアアイテムです。別名「セイレーンのネックレス」とも言います』


(それ、要ります?)


『人々を魅了することができるのですよ?』


(俺、「チャーム」を使えますが)


『あれは一人ずつにしか使えないですし、少しでも好意のある人でないと全く効かないですし、そもそも、チャームは聖女には効かないです』


(ってことは、そのアイテムにはそういった制限がないということですか?)


『はい。聖女が問答無用でボーンさんにメロメロになるアイテムなんです』


(す、凄いじゃないですかっ)


『ただ、聖女とまぐわうと、ボーンさんは消滅してしまいますので、一線を超えてはいけないですよ』


 何だよ、使えねえ……


(それ、要ります?)


『少し考えてみてください。この世で一番怖いのは「ホーリー」だとは思いませんか?』


(ええ、それはそう思います。あの青白い光、考えただけで足がすくみます)


『青白いとか言わないでください。私も思い出してしまいました。でも、ホーリーは呪文を唱える時間が長いですよね。そのときにこのネックレスを使うのです。聖女たちが呪文を唱えるのをやめてくれますよ』


(すごいじゃないですかっ)


『ようやく価値をわかってくれましたか』


 俺は「人魚のネックレス」を受け取って、首にかけてみた。


(では、さっそく)


『ちょ、ちょっと、今、使わないでください。私と一線を超えてどうするんです?』


(いや、さすがに陛下とは一線は超えないですよ。でも、これって、相手を意のままに操るアイテムではないのですね)


『ボーンさん、私を意のままにしようとしたのですか。油断のならない人です。銃器店で銃器を売ってくれた相手に、金も払わず、銃器をぶっ放すような人じゃないですか』


 ほんと、この人、五千年前の人?


(惚れさせる道具なんですか?)


『そうです。ただし、効果は数分間だけです。すぐに目が覚めますから、さっさと逃げてくださいよ。聖女は綺麗な人ばかりですから、舞い上がって逃げないでいると、成仏させられちゃいますから、本当に気をつけてください」


 そういえば、ミントの聖女も美人で、顔に見惚れていたのがいけなかった。


(わかりました。陛下の依頼をお受けします。それで、これから早速地上に出ようと思うのですが、あの虫の階、何とかなりませんか? 子供たちが嫌がるんです)


『アンデッド以外の魔物は、簡単にここに近づけないように人間が置いたものですので、私にはどうすることもできません。ただ、地上に抜けられる道は、スケルトンたちに作ってもらいました』


(地下一階と二階の吹き抜けの隠し部屋のことですか?)


『そうです』


(それは見つけたのですが、地下六階と七階に気持ち悪い大型の虫が沢山いて、あそこを抜けるのが嫌でして。あそこがあると、ここへ来る足も遠のくなあ)


『……、わ、分かりましたよ。『ドラキュラの棺桶』を三つお渡しします。ボーンさんの従者たちをこれに入れて、運ぶといいです。棺桶は全く重くないですし、中は非常に快適です」


 棺桶を引きずって歩くゲームがあったな。イメージ的にはあれか。


(棺桶と棺桶が連結して繋がるんですか?)


『そうです。よくご存知ですね。その通りです』


(そうだ。「従者」って何です?)


『身も心もアンデッドに捧げる覚悟をした生者たちです。ヴァンパイアの眷属が有名ですが、スケルトンの従者ってあまり聞かないですね。あの子供たちも物好きですね』


(まさか、その、エッチな契約なんですか?)


『違います。主従契約です。ただ、従者の方は基本的に何でも受け入れますので、絶対にエッチな関係にしてはダメです。従者はとにかく主人の役に立とうと必死になりますので、変なところで頑張らないようにリードしてあげてください』


 マジレスだ。この人、意外と人格者だな。


(ありがとうございます。でも、これって無理矢理心を捻じ曲げるような力なのでしょうか?)


『いいえ、むしろ逆です。素直に本心に従うように羞恥心などを除去する作用があります。そもそも忠誠心が高くないと従者にはならないです』


 ちょっと例えは悪いが、バイアグラみたいなものかな。勃起を阻害する要因を除去して、素直に勃起させる。うーん、子供たちの純粋な気持ちをあれに例えるのはよくない気がするが、しっくりとくる例えだな。


(それを聞いて安心しました。フランソワさんが酷く私を嫌悪していたので、気になってました)


『何も知らない子供を騙したとでも思ったのでしょう。でも、騙して従者には出来ないですよ。あの女は思い込みが激しいですから、気にしないことです』


(分かりました。子供たちをより一層大切にします)


『そうしてください。平気で命を捨てて貢献しようとしますから、常にケアしてあげて下さい。恋愛感情に似ていますが、恋ではなく忠誠心の現れですから。上司と部下の禁断の恋なんて、行きつく先は地獄しかないですしね……』


 ミイラなのに、遠くを見るような感じを醸し出しているんだが、苦い経験でもあるのか?


(肝に銘じます……。では、そろそろ行きます)


『期待して待ってますよ』


(さて、アイツら、大人しく棺桶入ってくれるかな)

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