第24話 ラスボスとの遭遇

 こいつら、信じられん。石の巨人をいとも簡単に次から次へとバラしている。


 先ほどからレベルアップのアナウンスがうるさく鳴り響き、レベルが爆上がり中だ。


 まさか子供たちが助けに来るとは思いもしなかった。石の巨人に捕まっているから遅くなる、とだけ伝えたつもりだった。


 助けに来てくれたことは素直に嬉しかったが、下手すればこいつらは死んでしまっていた。俺は不死身だからいいが、人間は少しでも間違ったら死んでしまうのだ。


 さっきはつい喜んでしまったが、やはりここは心を鬼にして叱るべきか……。


「パパ、辛いのか甘いのかよく分からない顔をしないでよ」


 アリサは石の巨人を相手にしながらも、俺と話をする余裕があるようだ。


「助けに来てくれたのは、その、素直に嬉しいのだが……」


「分かってるよ。ちゃんと皆んなで作戦を練って、勝算があってここまで来てるんだから。パパを心配させるようなことはしてないから」


 こいつら……。俺が人間だったら号泣してるぞ。前世では涙もろくて、よく嫁や娘に馬鹿にされたのだ。


 リズ、アリサ、サーシャ、本当にいい子たちだ。この子たちを危険な目に合わせないよう俺がもっとしっかりしなければ。


 感激していたら、いつの間にか戦闘が終わって静かになっていた。リズが笑顔で振り向いた。


「おじさん、石の巨人はもう出てこないみたいです」


「おう、お前たち、強いな。助かったぞ」


 リズもアリサもサーシャも照れているが嬉しそうだ。


「おじさん、レベルどれぐらい上がってますか?」


「凄いことになっているぞ」


  名前:ボーン

  種族:スケルトンナイト レベル2048

  魔法:マップ、フレア、デス、ホラー、

     イリュージョン、デュアル、チャーム

  技能スキル:無痛、復活、剣技、拳闘、鑑定、

     迷彩、跳躍、俊足、無音、索敵、

     集音、投擲、解錠、裁縫、刀技、

     忍術、変態、触覚、毒針、怪力、

     複眼、操糸、蛍光、営巣、蜜蝋、

     集蜜、王乳、石人

  経過日数:48

  従者:リズ、アリサ、サーシャ


  リズ   従者レベル2048

       レセプト、ハウント、サモン、

       オーラ、スティール

       霊感

  アリサ  従者レベル2048

       ライト、プラズマ、グラビティ、

       メテオ、ストップ

       算術

  サーシャ 従者レベル2048

       キュア、クリーン、デトクス、

       オラクル、ガード


「レベル2000ですか!? あの石の巨人、すごい経験値なんですね」


「そうらしい。あれを操っている術士のレベルが高いのだろう。だが、逃げ回っている間に一通り見て回ったのだが、術士の居そうな場所はなかったんだ」


「おじさん、石の巨人の霊力をスティールしているうちに霊力がたくさん溜まりましたので、フロア全体にオーラをかけてみます」


 リズはそう言って、一気にオーラを噴出した。リズの髪の毛が逆立ち、フロア全体に霧のような白いモヤが立ち込め始めた。


「おじさま、あそこに何かありますわっ」


 サーシャが指差した数十メートル先に、ピラミッドのような形の建物が白く輝いていた。


「お前たちはここで待っていろ。俺がまずは様子を見に行ってくる」


 不満が出るかと思ったが、子供たちはすんなり了承した。


「パパ、私たちは休憩しているから。何かあったら、リズに念話してね」


 俺はアリサに頷いて、憑依を解いてスケルトンに戻った。ピラミッドまで俊足で近づくと、入り口と思われる扉が開いた。


 中に入ると、十メートル四方のキューブ状の空間の真ん中に、王冠を被りぼろぼろのローブを纏ったミイラが、豪華な椅子に座っていた。


『よく来てくれました、ボーンさん』


 ミイラは全く動いていない。恐らく霊体は別のところにいて、俺に思念で話しかけているのだろう。鑑定は効かなかった。


(レセプトなしで思念を?)


『この部屋の中は常時レセプトが発動しています。誰でも思念による会話が可能なのです』


 しかし、えらい腰の低いミイラだな。


(あの、どなた様で?)


『「不死王」と呼ばれていますが、ただのミイラです』


 五千年ほど前、勇者に殺された当時の魔王が、アンデッド化したのが不死王だという。不死王はアンデッド軍団を率いて、すぐに勇者に復讐戦を挑んだが、返り討ちにあって、ここに封印されたらしい。


(二度負けた、ということですか)


『はは、手厳しいですね。その通りです』


 俺は腰の低いヤツはあまり信用しない。それで、少し挑発してみたのだが、ミイラの表情はさっぱり読めない。


(で、ここで何をしているのです?)


『よく聞いてくれました。勇者に封印されて、五千年もここから出られないんです』


(一度も出ていないのですか!?)


『はい……。もう、私、三千年ぐらい前にぽっきりと心が折れてしまって。助けてくださいよぉ』


 不死王という偉そうな名前の割には、必死に縋り付いてくるが、ミイラなので気味が悪いだけだ。


(助けると言っても……。あの石の巨人で、このピラミッドを破壊するってのは?)


『それ一番最初にやりました。ビクともしません』


(俺、石の巨人にぶっ叩かれましたけど……)


『すいません。ここまでお連れしようとしただけなんです。一日中逃げ回るなんて、ボーンさん、あなた、どうかしてますよ……』


 いや、そんな感じじゃなかったぞ。


(ちゃんと話したいって言ってくれれば、素直に来てましたよ。問答無用でいきなりぶっ飛ばして捕まえようとするから、逃げるんです。ところで、不死王さん、スケルトンクイーンともお話しされましたか?)


『あの冷たい女ですね。何度か話しましたよ。でも、私の頼みを全く聞いてくれないのです。ボーンさんは違いますよね』


(いや、俺、不死王さんのことあまり知らないので、頼みを聞いていいかどうかわからないです)


『ボーンさんもフランソワさんも私の部下ですよ。知らないだなんてそんな……』


(え? クイーンってフランソワさんってお名前なんですね。っていうか、俺、不死王さんの部下なんですか?)


『スケルトンは「アンデッド軍団」の歩兵です。あ、でも、ここから出してくれたら、幹部にします。一つ上の階に眠っている連中が幹部ですが、ボーンさんも幹部になりたいですよね』


(いや、別に……)


『そんな……。では、どうしたら、頼みを聞いてくれるんです?』


(フランソワさんが不死王さんの頼みを聞かないのは、それなりに理由があるのかと)


『理由なんかないですよ。あの女は自分の話ばかりして、人の話を聞かないんです。まあ、あんな過去があれば、あういう性格になってしまうのも無理はないですが』


「え? どんな過去なんです?」


『それは彼女のプライバシーに関わることですから、話せませんよ』


(……)


 この人、本当に五千年前の人? プラバシーとか、日本でもまだまだ平気で侵害する上司だらけだぞ。


(……そうですね。機会があれば本人から聞くことにします。じゃあ、俺はこれで)


 俺が部屋を立ち去ろうとすると、不死王がしがみついて来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る