第26話 騎士団との遭遇

「これに入るんですか?」


 リズが嫌そうな顔をしている。


 案の定、なかなか「ドラキュラの棺桶」に入ってくれない。


「かなり快適だって陛下はおっしゃってたぞ」


「棺桶だよね? しかも、使用済みでしょ?」


 アリサも気が進まないようだ。


「嫁入り前の娘が、誰とも知れぬ殿方の使用した棺桶には入れませんわ」


 いつも大人しいサーシャまでこの調子だ。


「これに入っていれば、虫を見なくて済むぞ」


「でもねえ……」


「ちょっと待ってろ。まずは俺が確かめてみる」


 そう言って、俺は「ドラキュラの棺桶」に入ってみた。


(お、素晴らしい寝心地じゃないか。完全防音で安眠できる。そうだ、酸素カプセルだ。あの感じによく似ている。中も清潔だし、文句なしじゃないか)


 俺は棺桶から出て、感想を述べた。


「素晴らしいぞ。清潔だし。多分説明しても分からないだろうが、気圧と酸素濃度が最適で、安眠間違いなしだ」


 アリサが手を挙げた。


「パパ、アリサはパパが試したその棺桶に入るよ」


 何故かサーシャとリズがしまったという顔をしている。


「おお、アリサ、入ってくれるか。よし、入ってみてくれ」


 アリサが豪快に棺桶にダイブして、棺の蓋を閉めた。


「あのう、おじさま、私もおじさまが試してくれたら、考えますわ」


「今、試したじゃないか」


「私のこれを試してくださいまし。安心できませんわ」


「仕方ないなあ。どれ、ちょっと入ってみるぞ」


(何だってんだ、まったく。点検業者じゃないんだぞ、俺は。うん、清潔で機能も問題ないな)


「サーシャ、大丈夫だったぞ」


「ありがとうございます、おじさま。うんしょっ」


 サーシャが可愛い掛け声で棺桶に入った。


「あの、おじさん」


 リズがちょっと恥ずかしそうに残った棺桶を指差している。


「分かった分かった。俺が試せばいいんだろう? ちょっと待ってろよ」


(これもよしと。これ、棺桶ではなく、酸素カプセルとして売れないかなあ)


「リズ、大丈夫だったぞ。入って寝て休め」


「はい、ありがとうございます、おじさん」


「あ、ちょっと待て、こいつの召喚を解いてくれ」


 リズが堕天使の召喚を解いてから、棺桶の中に入った。


(なるほど、そういうことか。堕天使の兄ちゃんが使ったら喜んで入るなんて、俺は悲しいぞ、お前たち)


 三つの棺桶は連結されている。俺はリズの棺桶を引っ張った。


(軽い!)


 ドラキュラの棺桶は地面から浮いているため、滑るように動く。すごく操作性がよいうえに、非常に軽い。


 リズの棺桶、サーシャの棺桶、アリサの棺桶が数珠繋ぎになって、スイスイ運べる。


(よし、行くか。いざ、地上へ)


 俺は棺桶を引っぱりながら、猛スピードでダンジョンを駆け上がった。最短ルートもマップで確認出来たため、一時間弱で地下五階のベースキャンプに到着することが出来た。


 確認のため棺桶を開けると、全員可愛い寝顔で眠っていた。


(コイツら、命掛けで助けに来てくれたんだよな。精神的な疲れは相当なはずだ。もう少し寝かせておいてあげよう)


 俺は棺桶を閉めて、子供たちが自分で起きて来るまで待つことにしたのだが、非常にまずい事態が発生していた。地下五階に多数の人間が侵入してきたのだ。索敵マップに人間を表す青い点がどんどん増えて行く。


(恐らく騎士団だな。さて、どうしたものか)


 今の俺のレベルは2000、ブサメン組には楽勝だが、イケメン組だと分が悪い。


 青い点が二つ近づいてきている。よく見ると、フロアに散在している青点には、単独のものと二人組のものがあった。


(ふむ、恐らくブサメン騎士だな。ダンジョンということで、元冒険者を派遣したのだろう)


 俺は部屋から少しだけ霊体を出し、こちらに向かってくる二人組を鑑定した。鑑定は危険だが、しない方がもっと危険だと判断した。


 人間 レベル625

 魔法 ウォーター、アイス、スノウ、スチーム

 スキル 水筒


 人間 レベル1867

 魔法 ロック、ウォール、ビルド、マグマ

 スキル 槍術


(ブサメンとイケメンの組み合わせかっ。てことは、青点一つは俺よりも格上の騎士と組んでるってことか!)


 俺はデュアルを唱えた。全く同じ分身が現れ、俺は二体となる。


 このまま漆黒のスケルトンで、スティルスモードで戦うか、イリュージョンを使って戦うか迷ったが、相手が騎士ということで、女には甘いだろうと思い、イリュージョンをかけ、部屋から飛び出した。


「女性!? こんなところで、どうしたのです?」


 イケメンの方が話しかけてきた。ブサメンの方はじろじろと見ているだけだ。


(うーん、行動すらもイケメンとブサメンだなあ)


 イリュージョンの方を彼らの正面に立たせて、心配そうな表情にして、霊体の方は彼らのすぐ後ろに移動して、密着してのデスを放った。


(やべえ、デスが効かない)


 イケメンの方が気配を感じたのか、すぐにノールックで後ろに向けて何かを出してきた。


 (うおっ、短剣だ。だが、残念ながら刺さらないぜ)


 ブサメンの方は気づいていない。俺はブサメンの背中らか心臓に向けて、フレアを細く束ねて放出した。


 プスプスという音を立て、炎の針が背中から入って行き、心臓を抉る。ブサメンは口から煙を吐きながら倒れた。


『水筒のスキルを取得しました』


(なんだろう、このスキルは?)


 二体のイリュージョンと二体の霊体で、イケメンを四方八方から魔法や物理攻撃で攻撃する。イリュージョンは攻撃はできないが、イケメンはイリュージョンに翻弄され、霊体からの致命的な攻撃を何度も受け、遂に力尽きて倒れた。


『レベルが2120になりました。槍術のスキルを取得しました』


『従者リズのレベルが2120になりました』


『従者アリサのレベルが2120になりました』


『従者サーシャのレベルが2120になりました』


(まずい。青点が一斉にこっちに向かって来る)


 どういうわけか、騎士たちが仲間の死を感知したらしい。


 俺はすぐに部屋に戻って子供たちの棺桶を運び始めたが、前後左右を包囲される形となった。


(くそう、こいつらを連れまわすのは危険だ)


 そう思ったときだった。ぞわっとした感覚が背中に走った。


(うおっ、鑑定された)


 すぐに凄まじい数の魔法が飛んできた。


(こいつら、子供がいるんだぞっ)


「ドラキュラの棺桶」は魔法が当たっても、びくともしなかったが、念のため、近くの部屋に押し入れ、避難させた。


 俺は子供たちを棺桶ごといったん騎士団に預けることにした。人間の子供たちだから、騎士団が保護してくれるだろう。連れ回すよりも安全との判断だった。後で合流すれば良い。


 俺は魔法の集中砲火を浴びながら、天井に地下四階の落とし穴が空いているところまで俊足で移動し、天井に向かって跳躍した。

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