第二章 ミント編

第27話 ダンジョンからの脱出

 俺は地下四階に着地した。次は地下三階へのジャンプだ。天井に穴の開いているところまで、再び俊足で移動した。


 そして、跳躍しようと腰を屈めたとき、頭の上を物凄い勢いで何かが通り過ぎて行った。


 驚いて飛んできた方を見ると、騎士二人がこちらに向かって猛然と走って来る。


 いくら騎士に俺は倒されないとしても、首を切り飛ばされたら、一分間体を動かせなくなる。その間は魔法しか放てなくなるため、レジストされると非常にまずい。拘束されて聖女のところに連れて行かれたら……。 


 俺は嫌な想像を振り切って跳躍した。地下四階の天井を抜けて地下三階に着地し、すぐに俊足で移動を開始する。


 後ろを振り返ると、騎士が一人地下三階に登って来ている。天井までは五メートル以上あり、人間が跳んで届く距離ではない。仲間から何らかの助けがあったのだろう。


 俺は三度みたび跳躍して、地下二階に到達し、すぐに隠し空間に入り込んだ。


(ふう、これで一安心だ)


 一息ついて、隠し部屋から地下二階を索敵してみると、少しずつ青点が増えて行く。ここには入っては来られないはずだが、気が気でない。早いうちにダンジョンから出てしまおう。


 俺はセントクレア山の岸壁に続く洞窟へと向かった。


(リズ、セントクレア山の崖の下のところで合流しよう。いくらでも時間をかけていいから、安全を確認しながら、くれぐれも慎重に行動してくれよ)


 俺はリズに伝言を残してから、崖下へと飛び降りた。


***


 騎士団団長のランスロットは、奇妙な棺桶三つの前で腕を組んで立っていた。


「どう見ても棺桶だよな。中から鍵がかかっているのか?」


 先ほどから団員数名で開けようとしているのだが、全く開かない。


 すると、一番手前の棺桶が、突然ぱっかりと開いた。団員が警戒態勢に入るが、中から起き上がって出て来たのは人形のように美しい少女だった。


「お前たち、攻撃するなよ」


 ランスロットは部下たちを制した。


「お嬢さん、どうしてこんなところに? 黒いスケルトンに棺桶に入れられたのか?」


 美少女はランスロットには答えずに、辺りをキョロキョロ見回している。


 すると、残りの二つの棺桶も次々に開いた。健康的な美少女と大人しい感じの少女が起き上がって来た。


「ランスロット団長!?」


 健康美少女がランスロットを見て驚きの声をあげた。


「ああ、そうだ。私を知っているようだな。少し事情を聞かせてくれないか?」


「ランスロット団長、私から答えます。私はリズといいます。こちらはサーシャ、そして、アリサです」


 見た目が大人しいと思っていた少女がハキハキと答え出したので、ランスロットは少々面食らった。


 リズは冒険者カードをランスロットに差し出した。他の二人もそれにならった。


 ランスロットは三人の冒険者カードを確認した。教会から借りて来た審査官に鑑定を依頼する必要はなさそうだ。騎士として女性を鑑定に晒すことはしたくなかったので、身分証の提示はありがたかった。


「リズ、アリサ、サーシャ、よろしく。いったいどうしたんだ?」


「私たちは孤児で、奴隷商の冒険者にさらわれそうになったのですが、冒険者はスケルトンに殺され、私たちはこの棺桶に入れられていたのです」


 ランスロットはレベル10,000超の人外だ。どんなスキルを持っているか分からないため、リズは嘘をつかないように気をつけて話をした。


「なるほど。二週間ほど前のことか?」


 ランスロットは油断のない目でリズの表情を観察していた。


「はい、多分そうです」


 そのとき、部屋の中に男が飛び込んできた。騎士団の制服をセンスよく着崩していて、やんちゃな感じのするイケメンだ。


「ヒューイさんっ!?」


 リズは思わず叫んだ。リズのイチオシの元S級冒険者のヒューイだった。リズが小さい時から憧れていた冒険者だった。


「おっ、嬢ちゃん、俺のこと知ってるの? 嬉しいなあ。おっと、報告しなきゃ。団長、あのスケルトン、消えちまった」


「消えた?」


「地下二階で見失った。今、団員たちがしらみ潰しに探しているが、見つかる気がしねえ。また地下深くに潜ったかもしれねえ」


「仕方ないな。後で教会に知らせるか。ミントの聖女が追っていたスケルトンクイーンではないよな」


「クイーンって、聖魔女さんの宿敵だろ? あんな黒くて速いスケルトンじゃない。レベルも2000そこそこって言ってたよな。レベルが低すぎる」


「スケルトンでレベルが2000もあるのはおかしいだろう。クイーンの部下かもな」


「どっちにしろ、アンデッドは教会に任せようぜ。で、団長、この嬢ちゃんたちは?」


「スケルトンに捕まっていたらしい。お嬢さんたち、俺たちはまだ調査があるんだ。団員に出口まで送らせる。そこからは冒険者組合の管理員に送ってもらうといい。何人か詰めていたから。俺たちから頼んでおくから」


「はい、ありがとうございます」


 リズが深々とお辞儀をした。アリサとサーシャもお礼を言って頭を下げた。


「誰かお嬢さんたちを送っていってくれるか」


「団長、俺が行きます」


 棺桶を調べていた金髪碧眼の好青年そうな男が手を挙げた。


「キースか。きちんと送り届けるんだぞ、いいな」


「はい」


 キースと呼ばれた男が、少女三人を連れて、部屋を出て行った。


「団長、嬢ちゃんたちの後をつけた方がいいんじゃないか?」


「ああ、キースは分かっているはずだ。俺たちは調査を続けるぞ」


「やっぱりあの虫フロアに行くのかよ。犯人はあのスケルトンでいいじゃないか。あとは教会に任せようぜ」


「地下八階まで調査しろとの王命だ。ここにキャンプを張って、地下八階までは行くぞ」


「団長、真面目すぎるんだよ、あんたは」


「ぶつぶつ言ってないでお前も設営を手伝ってこい」


 ヒューイは肩をすくめて部屋を出て行った。ランスロットは、ほかの団員と一緒に棺桶の中を調べ始めた。

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