第78話 お尻天国

 エルフ大陸にはいくつかの国があるが、エルフ族しか住んでおらず、エルフ族は基本的に争いを好まないため、大陸内での争いはない。だが、人間やドワーフ、そして海を隔てた島国に住む異民族ダークエルフに対抗する必要があった。


 そのため、エルフ族全体の族長を決め、各国が兵を出し合い、エルフ自衛軍を組成し、族長を最高司令官とした。その族長がエルフ王であり、世襲制となっている。


 エルフ王は大陸各地に広大な領地を保有し、そこからの税収と各国からの軍事費で軍を運営しているが、ダンジョンの管理も軍の管轄であった。


 マミーが拠点としているナスクのダンジョンは、アンデッドの大量発生のため、現在は軍によって立入禁止となっていた。


「わがまま隊」のイチがエルフ王に発行してもらった立入許可証をゲートの門兵に渡している。「わがまま隊」の三人はイチ、ニイ、サンという芸名を不死王から与えられていた。


「隊形の確認をします。私が先頭で、イチが私の真後ろ、ニイとサンがイチの右後方と左後方、その後ろにエルフ姫、そしてボーンさんでお願いします」


 そうなのだ。エルフ姫がどうしてもついて行きたいということで、連れて来てしまったのだ。不死王は少し驚いていたが、すぐに適応してくれた。


「分かりました。それでどういう作戦ですか?」


 俺は不死王に視線を向けながら、「わがまま隊」を観察した。思った以上にわがままな体つきを白いニットのワンピースで包んでいる。


 グッドチョイスだ、不死王。さすがによく分かっている。


 俺は不死王のユニフォームセンスに拍手喝采した。


「サキュバスを召喚して、私の左右を固めてもらいますので、アンデッドが出現したら、サキュバスに任せます。エクスタシーという魔法で、アンデッドを昇天させることができます」


 サキュバス、怖えな。


「生者の分布ですが、地下一階はゴブリン、オーク、オーガなど人型、地下二階はトレント、エルダートレント、フェアリーなどの森系の魔物、地下三階はフェンリル、ベヒーモスなど強力なビーストです。マミーはどこにいるか分からないです」


「それって、いきなり遭遇することもあるってことですか?」


「あります。その場合は一目散に逃げましょう。サモン、サキュバス、マルチプル、ツー。さあ、行きましょう」


 門兵がゲートを開けてくれた。不死王とサキュバスから先に入っていく。サキュバスがティーバックの丸出しお尻をぷりぷりさせていて、目のやり場に困る。


「わがまま隊」の三人が続いた。ニットのワンピースは、体の線がよく分かる。お尻がキュッと上がっていて、どうしてもヒップラインに目が行ってしまう。


 しかし、よくこんなエルフを見つけてくるな……。


 最後に俺とシルフィが続いた。シルフィはとても可愛い。いつもは黄緑系のゆったりとした服装が多いため、白の聖女服姿がとても新鮮だ。王族だけに許されている赤の刺繍が入っていて、非常に上品な感じがする。


 シルフィ、落ち着くぜ。だが、シルフィも細い割には、なかなかにけしからん尻をしている……。


 ゲートを潜って、ダンジョンの中に入ると、鍾乳洞のような感じのかなり広い洞窟だった。


「では、隊形を組んでください。ここからは油断しないようにお願いします」


 不死王の号令でパーティが隊形を組んだ。俺は最後方に移動した。そこには絶景が広がっていた。


 この隊形、尻が見放題じゃないかっ。


 タンク役の俺は、いつも先頭で戦っていたので、最後方で戦うのは初めてだった。


 そうか、これを不死王は知っていたのだな。接待ゴルフならぬ接待ダンジョンかっ。不死王の接待術、恐るべし。


 ゴルフコンペで優勝したときのお決まりの「今日はパーティに恵まれまして」のフレーズを俺は思い出していた。


 魔物が次々と襲いかかって来るが、最前衛の不死王とサキュバス二柱が瞬殺して行く。俺がぷりぷり動く尻を見ているだけで、エルフたちのレベルは爆上がりだ。


「さて、レベルを見てみますか」


 不死王の言葉に、俺もシルフィに許可をもらって鑑定してみた。


  エルフ レベル398


 魔法もスキルも何もない。シルフィ、可愛すぎる。


「さすが勇者のパーティですね。レベルアップが異常です。500まで上げたら、地下二階に行きましょう」


 不死王はそう言って、また歩き始めた。俺も不死王もこんなレベルの魔物ではレベルは上がらないが、スキルが入ってこないのは寂しい。すでに持っているスキルばかりなのだ。


 だが、エルダートレントが持っている「合成」を手に入れれば、「合成」、「技能」、「格納」の合わせ技で、スキルを格納できるようになる。「合成」のスキルは絶対に取っておきたい。


 地下二階に入っても、不死王たちによる瞬殺劇は続いていた。俺は無事に「合成」をゲットして、スキルの格納を始めていた。俺には難易度の合計値がレベル値を超えてはいけないルールが適用されないので、スキルを貯め放題だ。


 サキュバスとエルフの尻を眺めているうちに、不老効果のある「分裂」と「修復」をトレントから何度もゲットしたし、フェアリーからは「鑑定」と「偽装」を貯めることができた。


 このスキル、無茶苦茶高く売れるんじゃないか?


と思ったのだが、すでに人材派遣とレストランの収益で、金には困っていなかった。それにこれらのスキルは、難易度がかなり高いので、そんなに簡単には付けられないことにも気づいた。


 などと考えているうちにエルフたちのレベルが1000を超えたようだ。不死王が「わがまま隊」のステータスを確認している。俺もシルフィを見てみた。


  エルフ レベル1081

  魔法  オラクル、キス

  

 キス? 変な魔法だな。悪魔事典にも載っていないが。


(シルフィ、『オラクル』と『キス』という魔法を覚えたが、イメージ出来るか?)


 俺はシルフィに思念で聞いてみた。パーティを組んだときに、シルフィは勇者の使徒になっていたのだ。勇者の使徒になる基準は分からないが、アネモネが使徒にならなかったことに気付いてしまい、かなりショックだった。


(はい、ボーン様……)


 シルフィが真っ赤になっている。どういう魔法か気になるが、聞くのはセクハラになるような気がした。俺はすぐにシルフィに貯めてあった「偽装」を与えた。「鑑定」も与えたいが、シルフィのレベルが足りない。


「ボーンさん、『わがまま隊』は全員神聖系でした」


 鑑定してみると、確かに三人とも「オラクル」を覚えていた。


 人間の聖女の場合、サーシャのように治癒系、神聖系、守備系の三点セットで魔法を覚えるパターンが多いが、エルフは違うようだ。ちなみにマーガレットは、聖女の中で最も使える魔法が多く、六系統使える。


「シルフィも神聖系でした」


 嘘ではないので、大丈夫だ。恐らく不死王は鑑定は使わないはずだ。使われたら、偽装しているのがバレるが、そのときはそのときで、女の子だから隠した、とでも言うつもりだ。


「そうですか。この階で2000まで上げましょう。マミーは地下二階にもいないようですね」


 再びレベリングが始まった。レベルが1500を超えたときに、シルフィに「鑑定」を授与して、偽装の仕方を簡単にレクチャーした。一番簡単な他人の鑑定結果を見せる方法だ。シルフィにイチを適当な間隔で鑑定するようにさせた。


 そして、遂にレベル2000になり、エルフの四人全員がホーリーを取得したが、シルフィの魔法は、何が何だかますます分からなくなっていた。


  エルフ レベル2012

  魔法  オラクル、キス、ティア、

      ホーリー、ブレス


 後で分かるが、悪魔事典にも掲載がないこれらの魔法は、悪魔の記憶に残らない魔法だった。「女神魔法」という「女神系」ではなく、「女神」そのものが使う魔法で、悪魔とアンデッドにとっては、最も恐ろしい魔法だった。


「さて、準備は出来ました。地下三階に行きましょう」


 そうとは知らず、不死王に促され、俺たちは地下三階へと降りていった。

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