第79話 シルフィの覚醒

 この世界の魔法は本人の願望が色濃く反映される。後にボーンの魔法は「色欲系魔法」と呼ばれるようになるが、シルフィの「女神魔法」は、神と崇められた男に恋する乙女が、神のお嫁さんになりたいと願ったゆえに得た魔法だった。


 さっきからシルフィに触られるとビリビリするんだが……。


 俺が違和感に気づいたのは、討伐対象のマミーがなかなか出現せず、ベヒーモスやらフェンリルやらをガンガン倒して、遂には俺のレベルも上がり始めてきたときだった。


 シルフィから思念が届いた。


(ボーン様、神のご加護を頂きました。ありがとうございます)


(え? ちょっと本当のステータスを教えてくれるか)


(では、念じます)


  名前:シルフィ・エルフ

  種族:エルフヒロイン レベル 20012

     闇勇者の使徒

  魔法:神聖S、女神S

     オラクル、キス、ティア、

     ホーリー、ブレス、パニッシュ、

     ゴッダム、シール

  技能スキル:女神、森人、全知、全能

  加護:神の祝福 ゴッドレベル900000

  主神:ボーン


 なんじゃ、こりゃ……。


「わがまま隊」はまだレベルが5000ぐらいなのに、シルフィはいつの間にか20000超えしていて、スキルもすっきりしちゃって、とんでもない物体になってしまっている。


(えっと、シルフィの今の人格は何?)


(森人です。女神に変わると、ボーン様が消滅してしまいますから……)


 やべえ、これはかなりやばい……。


 不死王も何かを感じたようだ。俺たちの方を見ている。


「どうかしましたか?」


 これはもう隠してはおけないと思った。


「や、やばいです。不死王さん。シルフィが女神になっちゃいました……」


 それを聞いてからの不死王の反応は早かった。すぐにアイテムを取り出し、笛を鳴らそうとした。やっぱり「人魚のネックレス」をもう一個持っているじゃないか。


「不死王、動くなっ」


 何とあの優しいシルフィが不死王を一喝した。同時に切羽詰まった感じの思念も伝わって来た。


(ボーン様、天使に人格変更して下さいっ)


 不死王が構わず笛を鳴らそうとすると、シルフィから銀のオーラが爆発的に放出された。一瞬で辺り一面が白銀の霧に覆われていく。


 俺は間一髪、天使に人格変更した。不死王も人格を変えたようだ。


「いやあ、ボーンさん、何てことをしてくれたんです。お互い危うく浄化されてしまうところでしたよ。神の力は浄化不可とか関係ないですから。ボーンさんは天使に人格変更されたのですか?」


 エリザの肉体は天使でも問題なく動いているが、人間の大陸に配置していた分身はこっちに集まって来てしまった。レグナの肉体が心配だが、アネモネが保管しておいてくれるだろう。


「はい、ギリギリで……。いや、俺のせいではなく、不死王さんがシルフィの言うことを聞かなかったからでしょう? 不死王さんも人格を?」


 シルフィは遠慮なく俺にぺたりとくっついている。天使だと全くビリビリしない。


「ええ、人間になりました。五千年ぶりですが、従者との契約が切れちゃいましたよ」


 俺も慌ててステータスを見た。従者の欄そのものが消えていたが、勇者の使徒は変わらなかった。その代わり「従神」という欄が追加されていて、シルフィの名前があった。


  名前:ボーン

  種族:ダークエンジェル レベル 1

  魔法:ダークオラクル

  スキル省略

  加護:死神の祝福 ダークレベル30000

  経過日数:198

  使徒:リズ、アリサ、サーシャ、シルフィ

  従神:シルフィ


 リズたち、怒るかなあ。それはさておき、俺、レベル1じゃんか……。レベル1なのにいきなりオラクル使えるのか。ダークオラクルだけど。さすが天使! ダークがつくけど。


「えっと、不死王さん、どうしますか?」


「ちょっとエルフ姫と話をさせてください。シルフィさん、私をどうするつもりですか?」


「愛するボーン様の大切なご友人であり、エルフ独立の父のあなたを害する気はございません。ただし、私たちに先ほどのように害意を向けた場合は別です」


「すいません。あれは防衛本能です。許して下さい。でも、アンデッドのままですと、浄化されてしまいますので、このまま人間で行動します。勇者に負けたときのレベルになっちゃいました」


 そうは言っているが、スキルはそのままのはずなので、かなり強いはずだ。


「じゃあ、行きますか。一番奥に見える黒点ですよね?」


「ええ、行きましょう。隊形は変えずに行きますが、トドメはシルフィさんにお願いしましょう」


 また、尻を眺めるだけの戦闘が始まったが、今度は俺の天使レベルがガンガン上がって行く。最奥にいたマミーに出会ったときには、レベルが8000になっていた。


  名前:ボーン

  種族:ダークエンジェルコマンダー レベル 8124

  魔法:ダークオラクル、ダークホーリー、

     ダークパニッシュ、フェイト

  以下省略


 マミーは女だったが、ミイラなのでどうでもよかった。シルフィがゴッダムを唱えると、洞窟の天井があるにもかかわらず、天から陽の光が洞窟内に差し込んできて、数十もの天使が舞い降りて来て、マミーを無理矢理天界に連れて行った。


 俺も不死王も複雑な表情で、マミーが天に召されて行くのを眺めていた。


『レベルが11098になりました。ダークエンジェルジェネラルに進化しました。デスペナルティの魔法を覚えました』



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