第51話 人材派遣会社

 学園登校初日を無事に済ませ、俺は帰宅した。新たに五人の少女を連れて。


「貴様、どうしてもロリコンが治らないようだな……」


 ばったりと玄関ホールで出会ってしまったクイーンが、こめかみをひくつかせている。


「違いますって。歓楽街でまた別の奴隷商人が少女を売っていたんですよ。俺、世の中に絶望した目の少女たちを見ていられないんです」


「で、いかがわしいスキルをつけたりはしていないだろうな」


「俺がつけたんじゃないですって。とりあえず、風呂に入ってもらって、客室の一つをシェアしてもらいましょう。しばらくメイド少女たちに世話を見てもらえばいいですよ」


「貴様、性癖を善行として覆い隠すのが上手いが、このままではキリがないぞ」


「性癖違いますって。心からの善行ですって。俺、いいアイデアがあるんですよ。人材派遣会社をやろうと思っているんです」


「何だ、それは?」


「こんなところでは何ですので、食事の時にお話しします」


***


 一時間後、俺はクイーンたちと一緒に夕食を取っていた。


「なんだと!? 貴様、何を考えている!? さっき言ったいいアイデアとはそれかっ」


 広いダイニングルームにクイーンの声がこだました。給仕中のメイド少女の五人がびくりとする。さっき連れて来た少女五人は、部屋で休憩中だ。


「いいえ、違います。人材派遣会社の話はこれからしますが、その前に、単に男に憑依したいな、と言っただけですよ。だって、俺は男ですから」


「貴様、人体への憑依が五感を共有できるからと、よからぬことを考えているのではないだろうな」


「ほんと、骸骨さんはそれしか考えてませんよね」


「ボーン様、精神年齢はおいくつなのですか? まるで思春期の盛りのついた男子のようですわよ」


 聖女とテレサの決めつけがすごい。彼女たちの中で、俺は変態キャラ確定だ。


「あの、『性同一性障害』って聞いたことあります? 心と体の性が一致しなくて、精神を病んでしまう病気です」


「元々貴様は病んでいるではないか」


「病んでないですよ。そうだ。フランソワさんも骸骨姿の自分が嫌ではなかったですか? それから、男性に憑依するのに抵抗はないですか?」


「む、貴様はいつもそれらしいことを言うな。だが、男性に憑依などしたら、貴様にはこの館から出て行ってもらう必要があるな」


「ここは俺の家では……?」


「ここの家の名義はレイモンドであろう」


 そうだった。それに支払った金は不動産屋から盗んだので、金を払ったともいえない。


「いずれイメルダは立ち直って、自分の人生を歩むと思うのです。器の代わりを見つけておく必要はありますよね」


「イメルダがそう望めばだが、あの娘はそれこそ病んでいるぞ」


 確かにイメルダは相当病んでいるし、元々少し変わっている。だが、記憶を共有出来ることで、俺の行動がイメルダにとっていい方向に影響すると俺は思っている。


「いずれにしろ、バックアップは用意しておいた方がいいですよね」


「バックアップ候補をお前が助けてしまったがな。ステーシアは理事長からの性的嫌がらせで参っていたうえに、Zクラス担任で、精神を病むのは時間の問題だったのだ」


「フランソワさん、学園のことよくご存知ですね」


「骸骨さん、あの学園を創立したのはフランソワ様なんだよっ。創立者は王様のお名前を取ってグランベル様になっているけど、実質は王妃様のフランソワ様よっ」


 聖女がドヤ顔で教えてくれた。


「そうなんですかっ!?」


「女性の社会的地位が低いのを見るに見かねてな。夫に働きかけたのだ」


 そうだった。クイーンは王妃だった。アネモネが王妃だったクイーンを殺したって言ってたっけ。


「どうですか、今の学園は?」


「まあ、ないよりはいいだろう。私がこの国の人間に働きかけたのは女学校の設立ぐらいだ。あとは彼らが自分たちで運営して行くのを見守るだけだ」


 とか言って、結構気にしてるんだな。


「今日、三年生のAクラスをシメて来ました。明日は親が何か言ってくるでしょうね」


「すぐには親に泣きつかないかもしれんぞ。いずれにせよ、私と私の大事な従者二人を害さない限り、お前が何をしようと構わない。好きにすると良い」


(クラウスが従者にカウントされていないじゃないか。可哀想に……)


「分かりました。器のバックアップも自分で見つけるようにします。それで、さっきの人材派遣の話ですが、奴隷少女を解放して、スキルを身につけさせて、貴族や裕福な自由市民のメイドとして派遣するビジネスを始めたいのです」


 俺は派遣業の大まかな仕組みを説明した。人的リソースを確保する方法が現代とは違うが、スキルを上げて付加価値を付け、派遣するところは同じだ。


 ただ、スキルを上げるコストが不要で、かつ、一瞬で出来るところがすごい。学園を設立したクイーンなら、賛成してくれるはずだ。


「なるほど。だが、貴族たちにこき使われるのではないか?」


「そういうのをブラックな職場と呼ぶのですが、俺が許さないです。メイド少女の話を聞いて、事実であれば、雇い主をぶちのめします。場合によってはチャームもかけます」


「分かった。お手並み拝見としよう。さっき言ったとおり、好きなようにすればいい」


「それで、この館の裏側に、メイド少女たちの寮を建てたいのですが、それも問題ないですよね」


「貴様、何人の少女をさらってくるつもりだ」


「とりあえず二百人ほどを考えてますが」


「ロリコン寮か……」


「いや、そんな名前つけないで下さいよ」


「いいだろう。だが、ますます男への憑依は認められんな」


「分かりましたよ。それは別のところで考えます。ところで、マーガレットさん、アネモネは結局、何をしに来たのですか?」


 聖女がとても気味悪そうに俺を見ていた。


「骸骨さんはやはりロリコン王なのねっ。気持ち悪い……」


「ロリコン王って……。ちゃんと話聞いてました? 人助けでしょう?」


「男の子は一人も助けず、十五前後の女の子ばかり助けるのが人助けとは思えませんわ」


 テレサが相変わらず容赦ない。


「う、男は確かに助ける気が出ないです。でも、俺はロリコンじゃないですよ。大人の女が大好きなのです」


「ひっ。フランソワ様、もうボーン様には出て行ってもらいましょう。女が好きとか悪びれもせず、堂々と宣言するなんて、クラウス以下ですわっ」


 クラウス以下って、ものすごく傷つくんだが。


「まあ待て。言動はこの上なく気持ちの悪い男だが、結果だけ見れば、不幸な少女を救っている。勇者らしいと言えなくもない」


(茶巾事件はこの三人には話せそうにないな。この三人の耳に入らないようにしなければ……)


 とにかく話を変えよう。


「すいません。正常だと言いたかっただけなのです。言葉がストレートすぎました。それより、アネモネが今日サーシャのところに来た目的について話しましょうよ」


「それは私も同感だ。マーガレット、話してくれ」


 クイーンが聖女とテレサをなだめてくれて助かった。どうもこの二人は、俺のことを無類の女好きで、見境なく女集めをする変態だと誤解してしまっているようだ。


 クイーンがそのように二人に先入観を持たせてしまっていたのだと思う。


 彼女からすれば、初対面のときに腕を触られ、二回目に会ったときは、この世界ではあり得ないほど大胆に足を見せたセクシーな女性の姿で、未成年の女子を従者にしていた、というのが俺だ。


 そう説明されて来た聖女とテレサが、あの女好きで有名なレイモンド侯爵と知り合いで、次々に少女を屋敷に連れてくる俺を見てどう思うか。


(うーむ、確かに変態にしか見えんな、俺は。でも、一緒に何度も悪魔退治した仲なのになあ……)


 俺が少し悲しい気持ちになっていると、聖女が今日のアネモネのことを話し始めた。


「聖魔女は聖女候補たちの訓練の様子を見ていましたっ。サーシャちゃんとは何度も話してましたので、後でサーシャちゃんに何を話したのか聞いてみたら、今週末の聖女入れ替え戦に出てみないかと言われたみたいですっ」


「へ? 入学したばかりなのに」


 俺はあんぐりとしてしまった。


「サーシャちゃん、手加減下手なのよね。もう学ぶものがないって、聖魔女に見抜かれちゃったみたいよっ」


「もう卒業ってことですか?」


「聖魔女は教会の最高権威者だ。奴が決めたら、最終決定だ。しかし、お前たちは無茶苦茶だな」


 一週間もしないうちに卒業とは……。


 そして、もっと驚くべきことが、セントクレア学園寮で、まさに勃発していた。

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