第63話 再会
今日はアネモネの理事長着任の日だ。孤児院の院長のときとは違って、聖魔女の身分を明かしての就任だ。
朝、職員室に入ると、アネモネから早速呼び出しがかかっていた。
再会を楽しみにしていたが、やっぱり浄化されるんじゃないかという不安もあり、俺は緊張して理事長室の扉をノックした。
「どうぞ」
アネモネの声だ。俺は思い切ってドアを開けた。
「おはよう。ステーシア先生。よろしくね」
アネモネはいつもと同じ笑顔で、美しかった。
「理事長、御用でしょうか」
「ええ、そちらに座ってくれるかしら」
俺は勧められるままソファに腰を下ろしたが、浄化されるんじゃないかとビクビクしていた。
「そんなに固くならないで。もう浄化はしないわよ。それに、例のネックレスで逃げられるでしょう?」
学園長と教員との白々しい会話を早々に切り上げて、アネモネは俺の向かいに座った。いつもと同じシスターの格好だが、相変わらず、抜群の美貌と巨乳で色気たっぷりだ。
「ま、まあ、そうだが、イマイチ信用できん」
「あなたが勇者なら、メリットの方が大きいから、浄化はしないわよ」
「奴隷制度も非合法の性奴隷にだけ手を出しているんだ。アネモネの政策に敵対している訳ではないぞ」
アネモネは俺がそんな言い訳をするとは思っていなかったようだ。キョトンとした後、吹き出した。
「うふふ、よほどこの前の私が怖かったのかしら。そんなことを言うなんてね。でも、本当にそうだとしたら、そうね、全然私の邪魔はしていないわよ。ボーン、仲良くやりましょう」
ボーンか。初めてそう呼ばれたな。
「俺はずっと仲良くしたかったんだ。よろしく頼むよ」
「ええ。それで、前の理事長はあなたが殺したのね?」
「そうだ。性的嫌がらせが酷くてな。このステーシア先生が酷くストレスに感じていたので殺した。それと、トーマスという男性教員も殺した」
トーマスは留置場に抑留されていたところをデスで殺した。
「他に殺したいのはいる?」
「いや、いない。今のところはな」
「そう、学園内の殺しは王族以外は自由にしていいわ。プリシラは殺さないでね」
「リズとアリサの友人だぞ。殺しはしない」
「それはよかったわ。サーシャさんとは会っているの?」
「よく会うぞ。週の半分は聖女官邸に滞在しているからな」
「そうなのね。今度、子供たちと四人で私の家にも遊びに来てね。貴族街にあるのよ」
アネモネの家は知っていた。豪邸だと思っていたのだが、意外にも、貴族街の中心から離れたところにある可愛らしい感じのこじんまりとした家だった。
「それは願ってもないことだ。是非遊びに行かせてもらおう」
「楽しみだわ。ところで、今後もあなたはステーシア先生として暮らして行くのかしら」
「いや、実は男の器があって、そちらをメインにしたいのだ。ステーシアの精神も理事長がいなくなって落ち着いて来たので、元に戻してやりたい。それで、男の方を数学の教員として雇ってもらいたいのだが」
「男の器って?」
「ヴァンパイアだ。今、憑依していいか?」
ヴァインパイアが日光に弱いのは霊体の方だ。俺はもちろん日光は全く問題ない。ルカも封印状態の今は、霊体が封印膜に包まれていて、日光は大丈夫になっている。
「どうぞ」
俺はデュアルで分身を作り、レグナに憑依した。
「器用なことができるのね。二人に同時に憑依出来るなんて、初めて見たわ。それにしても、いい男を見つけたのね。いいわよ、歓迎するわ、ボーン先生。それで、数学はちゃんと教えられるの?」
「ああ、問題ない」
やった。アネモネと遂に出来ちゃうかも!?
「あなた、その男の妹も器にしたの?」
アネモネのこの質問には驚いた。「いい男」というのは外見ではなく、アネモネにとって都合がいいという意味か。前から感じていたのだが、アネモネは外見を全く気にしない。やたらと女の外見に振り回される俺とはえらい違いだ。
「こいつを知っているのか?」
「レグナは裏の世界では有名よ。封印して欲しいのは、レグナの血統の最上位のヴァンパイアの始祖よ。傭兵やマフィアに眷属を貸し出していて、手を焼いているのよ」
「浄化できないのか?」
「一度も姿を見たことがないの。浄化できるかもしれないけれど、逃げ足がとにかく速くて、なかなか捕まえられないのよ。リズとアリサさんと三人で対処できるでしょう?」
「サーシャは?」
「どうやらヴァンパイアの始祖は、聖女を感知できるみたいなの。それでいつも逃げられちゃうのよ。あなたたちなら、感知されても、逃げないと思うのよ」
索敵だろうか。マーガレットで分かったのだが、聖女は青白く見えるのだ。アネモネも青白く見える。今は聖女人格だな。
「なるほど。分かった。早速取り掛かろう。リズとアリサの学業優先で、週末に討伐でいいか?」
「もちろんOKよ。ただ、どこにいるのか分からないの」
「分かった。何とかする」
眷属は沢山いるだろうから、「
「うふふ、頼もしいわね。頼りにしているわよ。ボーン先生の受け入れ準備が出来たら知らせるわ。これから、毎朝、理事長室に寄ってくれるかしら」
「ああ、喜んで日参するぜ」
「ところで、ボーンさん、クイーンには会った?」
「ああ、会ったぞ」
この質問が来たら、変に隠し立てはしないつもりだった。
「そう。やっぱり私のことを恨んでいたかしら?」
「恨むというより、チャームをかけて彼女の子孫を操るのが嫌みたいだぞ。チャームを解けば仲直り出来るんじゃないか?」
「それは無理ね。私の信念ですもの」
「アネモネのその今の信念よりも、もっと大切なものが出来るといいな」
「……」
「無理なら仕方ないが、俺はクイーンのことは姉のように慕っているのでね。アネモネとクイーン、どちらの敵にも味方にもならないぞ」
「クイーンの居場所を知っているのね」
「ああ、居場所は教えられないが、仲良くしたいというのなら、伝言役にはいつでもなるぜ」
「私はいつも仲良くなりたいと思っているわよ」
「そうだったな。何度か俺からもそう言っているのだが、そもそも俺が信用されていないのでね。じゃあ、授業があるから、失礼するぜ」
俺はレグナを格納してから理事長室を出た。
(アネモネ、きれいだったなあ。あれ見ちゃった後で、俺、歓楽街を楽しめる自信がないぞ)
レイモンドから、大人の店とやらに今晩招待されているのだ。
***
夜、レイモンドから指定された店に入って行くと、セクシーなお姉さんが沢山いるバカ高そうなラウンジだった。
そうか。キャバクラはないけれども、ラウンジは昔からあるな。
「ボーン、よく来てくれた。座ってくれ」
「レイモンド、いい店知ってるじゃないか」
「アンドリーニの店だ。レグナの顔はこういった店では知られていないから、楽しむといい。だが、裏世界のヤバい連中には、お前さんの顔は知られている。気をつけた方がいい」
「だからか。因縁つけてきた奴らがいたので、ここに来るまでに三人殺してきた」
「そ、そうか。うちのファミリーではないと思うから問題ないが、念のためにもう一度、レグナとエリザには絶対に手を出さないように周知しておく」
「そうした方がいい」
(物騒なスキルがついちゃって嫌なんだよな。サーシャなんて、後で鑑定して「強姦」のスキルがついているのを見て、失神しかけたんだぞ。お嫁に行けないって、俺に責任取れって、大変だったのだ)
「ここはこの前、ボーンが言っていた店とは違うか?」
「いくつか違う点があるが、俺ぐらいのおっさんには、こっちの方が合っているかもしれない。気に入った。ここには自由に来て構わないのか?」
「ボーン、お前さん、おっさんなのか?」
「こう見えて四十五だ」
「驚いたな。俺は四十二だ。まさか年上だとは思わなかった。まあ同世代だな。これからもよろしく頼むぞ。もちろんこの店への出入りはいつでも自由だ。この部屋を使ってくれ。アードレーファミリーのボス全員が了承済みだ」
「ありがとう、遠慮なく使わせてもらう」
ここでいい女を侍らせながらグラスを傾けたら、悪の帝王って感じだな。映画でよく見るワンシーンだよなあ。
「礼を言うのはこっちだ。おかげで繁華街を手に入れた」
「敵対するファミリーや邪魔なファミリーがいたら教えてくれ。潰すぞ」
「ああ、今のところ大丈夫だ。我々も色々と助け合って、共存共栄して行かないとダメなんだ。イエローギャングのような話のできない奴らが出てきたら、また依頼する」
「そうか。遠慮なく頼んでくれ。ところで、レグナのようなヴァンパイアを雇っているファミリーは他にはないか?」
「王都の五大ファミリー全てが雇っている。うちにも二体いる」
「そうか。会わせてくれないか?」
「頼んでみるが、浄化はしないでくれよ」
「もちろんだ。ただ、会って挨拶するだけだ」
ちなみに、この日、ラウンジで俺の接待についた女たちには、まるで興味が湧かなかった。最近、よく人を殺しているので、欲求不満がすっかり解消されてしまっているし、何と言ってもアネモネを見たばかりだからだ。
俺って妙に贅沢なんだよな。このままずっと異世界童貞が続くんじゃないだろうな。
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