第37話 聖魔女
アネモネはあっさりと自分の正体を明らかにした。
「私は『聖魔女』と呼ばれているわ。聖女か魔女のどちらかに人格を切り替えられるの。シスターボーンと契約したときの私は『魔女』の私よ。憑依しても浄化されなかったでしょう? 今、『聖女』に切り替えたわ。特別に鑑定を許すわ」
俺はお言葉に甘えて、すぐに鑑定してみた。
人間 レベル 20602
魔法 治癒S、神聖S、守備S
鑑定、分裂、修復
レベルが二万! それに魔法の表記のされ方が今まで見て来たものと全然違う。
あ、消えた。
「魔女の私も見せてあげるわ」
アネモネが人格を聖女から魔女に切り替えたらしい。再度、鑑定し直してみた。
人間 レベル 1054
魔法 レセプト、フレア、チャーム
鑑定、分裂、修復
レベルが1000というのはシスターとしては異常だが、20000を見た後なので、普通に見えてしまう。
人格を切り替えてもスキルは同じなので、レベルと魔法は人格に紐づいていて、スキルは肉体に紐づいているようだ。
「私の生まれ持ったスキルは『流転』、『聖女』、『魔女』、『魅了』の四つよ。なんとなく分かるでしょう?」
(「流転」と「転生」の違いがイマイチよくわからないのだが、どう違うんだ?)
「魂は輪廻転生するから、誰もが『転生』を繰り返しているけど、『流転』のスキルは前世の人格を引き継いで転生するのよ。記憶だけではなく、性格や目標といったものすべてをね」
(アネモネはいつから「流転」しているんだ?)
「200年ぐらい前からよ。たぶん気づいていると思うけど、私の一番古い記憶は、ここではない世界なの。1800年代のイングランドという国で、私は26歳で病死したわ。その後はこちらの世界で流転を繰り返して、今は四回目の人生よ」
(すごいな。200年か。1800年代といえば、イギリスが世界最強だった時代だな)
「あなたも昔の私と同じ世界から来たのでしょう? 何という国かしら?」
(日本だ。英語だとJapanだ。極東と呼ばれる地域にある。インドよりももっと東だ)
「聞いたことないけど、インドは知っているわ。インドのさらに先なのね」
(でも、1800年代の知識で、なぜDNAのことを知っているんだ?)
「あなたに見せたあのメモは、1900年代後半のアメリカから流転して来た私の元カレが書いたものなの」
(まだ生きている?)
「私の前世のときに亡くなったわ」
(異世界からの流転者はほかにもいるのか?)
「私がこれまで出会ったのは、元カレのアメリカ人、あなた、そして、シャムという国の記憶を持つ女性よ」
(今のタイだな。その女性も亡くなっているのか?)
「ある意味、亡くなっているわね。あなたと一緒で、今はスケルトンなの。初めて会ったときは王国の王妃になったから、スケルトンになっていて驚いたわ」
(スケルトンクイーンか!?)
「そうよ。彼女とは因縁深くてね。私、彼女から恨まれているみたいなのよね」
(リズを通して話したことがあるが、確か彼女は「転生」とか「流転」とかいう言葉は使っていなかったな。そうだ、「乗り移り」って言っていた)
「王妃の彼女を殺したのは私なの。その直後に、スケルトンになったみたい」
(それは間違いなく恨まれるだろ)
「私は何とか彼女に歩み寄ろうとしているのよ。スケルトンになっていた彼女と初めて出会ったとき、ダンジョンから出られなくなっていた彼女を出してあげたのは前世の私なのよ。彼女は何だか急いでいて、私だとは気づかなかったみたいだけど」
(あの人、いつも急いでいるな。でも、何という奇遇だ)
「いいえ、奇遇ではなく、必然なのよ。異世界流転者の運命は絡み合うように出来ているみたい。私とあなたが会ったのも必然よ」
(アネモネはなぜ身分を隠して、リズの孤児院に来ていたんだ?)
「『不老』のためのスキルを取得できるアンデッドを探すためよ。クイーンと同じような現象がミントのダンジョンで発生するかもしれないと思ったの。それで、『霊感』持ちのリズを何度もダンジョンに派遣していたのよ」
(そうだったのか。でも、地下八階にも知性のあるアンデッドがいるだろう)
「不死王の配下でしょう。万一、誤ってあれの封印が解けちゃうのはまずいわ」
(不死王陛下は、人間と協調してやっていきたいとおっしゃっていたぞ。もう封印されたくないそうで、アンデッド軍団を雇ってくれないか交渉してきてくれと頼まれた)
「不死王に会ったの!? ……協調ねえ、考えておくわ」
(ところで、リズは奴隷として売るつもりだったのか?)
「リズには話していなかったけど、リズには孤児院付きの冒険者として、アンデッド探しを続けてもらうつもりだったわ。護衛もつけていたのだけど、あなたに殺されちゃったわよ」
(ひょっとして、あの二人か。リズとチェキを襲うのかと思ったぞ)
「チェキは私が送ったリズの見張りなのよ。あの二人はチェキに私からの伝言を届けに行ったのよ」
(そうだったのか。リズに俺に接触するようにと、指示を出そうとしたのか?)
「いいえ。リズに直接指示は出さないわ。子供だから何か指示を出すと、動きが不審になるでしょう。目的があって近づいたとすぐにばれるわ。だから、リズには自由に好きなように行動させたの。まさかあなたと駆け落ちするとは思わなかったけど」
(駆け落ちね。リズは奴隷になるのが相当嫌だったんだ。俺はリズに脅されて仲間にしたんだぞ。そういえば、俺が会いに来るのは、可能性の一つだったみたいなことを言ってたな)
「そうよ。リズは数ある手のうちの一つよ。それ以外にも本当にいろいろやったわよ」
(何度も転生できるのに、なぜそこまでして「不老」を身につけたかったんだ?)
「毎回生まれ変わるたびに、レベル上げしないといけないからよ。赤ん坊時代は辛いし、前世なんかレベル上げの最中に死んじゃったのよ。それに、次も流転できるかどうか不安だしね」
(なるほど。で、不老の取得に成功した今、俺をどうするつもりだ?)
「できれば仲間にしたいのだけど、あなたは私と少し考え方が違うかもね」
(奴隷制度か?)
「奴隷制度はなくしてもかまわないわ。この世界に対する考え方が違うかもしれないと思ったのよ。私がスケルトンクイーンと敵対しているのは、まさに考え方の違いなの」
(どういった違いだ?)
「私はイングランドの方が豊かで幸せだったと思っているから、この世界の政治や軍事に積極的に介入して、私の理想とする世界にしようとしているわ。でも、彼女はこの世界はこの世界の人たちが自分たちで考えて統治していくべきと考えているの」
(なるほどね。2020年でも同じような考えの違いで対立していたよ)
自分たちの理想とする主義主張を他国にも当てはめようとする西欧諸国と、それに反発するロシアや中国の図だな。
「あなたはどっちなの?」
(そうだな。多分、どっちでもないと思う。俺のいた日本という国もそんな感じだ。人道的な部分ではアネモネ派かな。それ以外はクイーン派だ)
「私の邪魔になる可能性はあるかしら?」
(わからない。例えば、奴隷制は子供たちが不幸になるから潰す。アネモネが、これを邪魔だと思うなら邪魔になるだろう)
「どうしようかしら……」
(俺のこと、浄化するか? その場合、一つだけお願いがあるんだが、子供たちの面倒を見てほしい)
「あの三人のことなら、手を出さないから大丈夫よ。私は善人だと自分では思っているのよ」
(じゃあ、俺のことは好きにしてくれ)
「残念だわ。シスターボーン、嫌いではなかったのよ。仲間になるとはっきり言ってくれればよかったのに。アンデッドは手強いから、少しでも邪魔になるというなら無視できないわ。ここで浄化しておきましょう。浄化不能だったら、また会えるわ。そのときは封印するけど」
そう言った後、アネモネがホーリーを唱え始めた。
そう来たか。やはり女は怖い。
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