第12話 従者

 リズがあまりにも顔面蒼白で、非常に気分が悪そうなので、俺はリズの小さな手を握って、念話を始めた。


(おい、リズ、大丈夫か?)


(すいません。あんなに血がたくさん出るのは、初めてでした)


(女の場合は胸よりも首の方が確実なんだ。デスが使えるといいんだが、リズに流れ弾が当たるのが怖いんだよ)


(すいません。頑張って慣れます)


 この子は素直でいい。前世の娘とは大違いだ。


(しかし、冒険者のほとんどが人さらいじゃないか?)


(そんなはずはないと思うのです。でも、私のような美形の女の子が一人だと、さらってくれと言っているようなものかもしれません)


 美形かどうかはさておき、確かに女の子一人ではさらってくれと言わんばかりだ。


 俺はイリュージョンを解除して、リズと一緒に地下三階に下りた。下りてすぐに索敵を開始して、冒険者の位置を確認した。


 冒険者はフロアに二十名ほどいるようだ。彼らの動きに注意しながら、キラーダックというビーストを探した。一人で食べるには大きさがちょうどよく、何よりも美味いらしい。


 すぐにキラーダックが見つかり、あっさり仕留めた。やはり、このあたりの敵では、俺のレベルはもう上がりそうもない。


 だが、リズのレベルはどうなのだろうか? 鑑定したところ、レベル9のまま変わっていなかった。


(人間はレベルアップの仕組みが違うのか? あるいは、戦闘に関わっていなかったからか?)


 考えてもわからないので、とりあえず疑問は棚上げにした。リズがナイフを使って、手慣れた感じで獲物の血抜きをしている。


 俺はリズの作業が終わるのを待って、念話を始めた。


(今日の獲物はこれで十分だろう?)


(野菜や香草も少し採って行きたいです。採取している間、背後を守ってもらってよろしいでしょうか)


(いいぞ。安心して採取するといい)


 リズが採取している間、暇だったので、俺はさっき取得したスキル「裁縫」で草籠が作れないか試してみた。


 すぐになかなか立派な籠が出来て、自分でもびっくりしたが、「骸骨の作った草籠」と鑑定に出た。


(悪意のあるネーミングだなあ)


 せっかくなのでリズに手渡すと、リズがちょっとびっくりしながらも素直に礼を言って受け取ってくれた。


(この子は優しくて素直でいいなあ)


 野菜や香草を見つけては嬉しそうに籠に入れているリズを見て、学校とか行かなくていいのかな、などと俺は考えていた。リズを預かった以上、教育のことを考えねばなるまい。


(スケルトンに育てられた少女か……。後でリズにどうしたいか聞いてみるか)


 前世の娘の教育には全くの無関心で、全て嫁任せだった俺が、まさかこんな異世界で偶然出会った娘の教育のことを考えるとは思いもしなかった。


「おじさん、終わったよ」


 俺たちはいったん吹き抜けの場所に戻った。


 リズはナイフで魔物を器用にさばいている。完全にサバイバル術を身につけているようで、俺はずいぶんと感心した。リズはかまどを作って、ダックを焼き上げ、美味しそうに食べている。


「おじさん、とても美味しいです」


 確かにいい匂いがするが、俺に食欲は皆無だ。


 リズが食べ終わるのを待って、将来どうしたいかを確認してみた。


(リズ、学校とかは行かなくていいのか?)


(学校ですか? 考えたこともないです)


(読み書きは出来るのか?)


(孤児院でシスターに習いました。計算も出来ます)


 リズは少し得意そうだ。学級委員みたいな優等生タイプだが、こういう子供らしいところもある。本当にいい子だ。


(これからどうしたい?)


(今日おじさんが戦うところを見て、私って足手まといだと思いました)


(まあ、正直、そうだな)


(私を弟子にしてもらえませんか?)


(弟子? 何の? 何を教えるんだ?)


(剣術を教えて欲しいです)


 リードがキャシーを教えているシーンが蘇って来た。俺の剣術スキルはリードのものだ。全くもって気が進まない。


(正直、気が進まないぞ。リズは魔法をまだ覚えていないようだが、人間はどうやって魔法を習得するんだ?)


(え? おじさん、鑑定出来るんですか!?)


(ああ、出来るぞ。リズはレベル9で「霊感」のスキル持ちだ。魔法はまだ使えない)


(すごいですっ! あ、すいません、魔法の覚え方ですね。経験を積んでレベルが上がると自然に覚えるって聞いてます。覚える魔法はスキルに影響を受けるらしいです)


(リズたちはどうやってレベルを上げているんだ?)


(魔物を倒すと経験値を得て、一定の経験値を超えるとレベルが上がります)


 俺と同じか。戦闘に加わっていないといけないのかもな。


(俺がリズのレベル上げの手伝いをしよう。パワーレベリングって言うんだ)


(はい、ありがとうございます! よろしくお願いします)


『リズが従者になりました』


(なに!?)


(どうしました?)


(いや、何でもない)


 俺はステータスを見た。


  名前:ボーン

  種族:スケルトンメイジ レベル86

  魔法:マップ、フレア、デス、ホラー、

     イリュージョン

  技能スキル:無痛、復活、剣技、拳闘、鑑定、

     迷彩、跳躍、俊足、無音、索敵、

     集音、投擲、解錠、裁縫

  経過日数:36

  従者:リズ


 何だ? この「従者」というのは。


 俺はこの後、「従者」の驚くべき特徴をすぐに知ることになる。

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