第13話 経験値特典

 俺はリズと交信しながらも、索敵を行っていた。この吹き抜け空間からは地下二階と地下一階を索敵の対象範囲にできる。


 マップの魔法と組み合わせると、マップ上に人間は青い点、アンデッドは黒い点が示されるのだが、青い点に奇妙な動きを見つけた。冒険者五人に冒険者二人が接触し、二人の方が三人になって、急速に離れ始めたのだ。


 俺はお茶を飲んで休息していたリズの両手を握った。


(リズ、恐らく人さらいだ。たった今、さらったと思う。行ってみよう)


(わかりました)


 リズはすぐに立ち上がって、俺の後に続いた。


 俺は冒険者に一番近い場所の扉まで進み、扉を開けた。


 俺たちが開いた扉の部屋の前の廊下をちょうど冒険者二人が通過する姿が見えた。三十前後の男二人組で、一人がずた袋を肩にかついでいた。袋の中は人間で間違いない。


(ビンゴだな)


 二人ともそこそこレベルが高く、75と78で、スキルは剣術と拳闘だ。魔法は片方がスリープを使う。


 俺はリズに部屋で待機するように言って、イリュージョンで女に化けてから、冒険者の後ろから近づいた。そして、袋を担いでいないロン毛の男に追いついて、肩をとんとんとたたいた。


 ロン毛がびくりとして振り返り、ランタンを俺の顔に近づけた。


「ふう、びっくりさせんなよ。お、すごい美人じゃないの!」


(冒険者ってのは、下品なのが多いな)


 俺はロン毛の胸をナイフで刺した。


 ロン毛は俺に抱きつくようにして死んだ。ランタンがロン毛の手から落ち、大きな音を立てた。その音で、前を歩いていたマッシュルーム頭の男が振り向いた。


(男ってのは、若いきれいな女に対して、警戒心なさすぎだ)


『レベルが90になりました』


『従者リズのレベルが35になりました。レセプトの魔法を覚えました。ハウントの魔法を覚えました』


(え? リズのレベルもあがるの? 何もしていないのに?)


「お前、いきなり抱きついちゃって、俺にもやらせろよ」


 マッシュルーム頭は担いでいた袋をそっと下ろして、俺に近づいて来た。俺はロン毛の遺体を右側の部屋に放り投げ、向かってくる男においでおいでをした。


 何をどう考えたのか、マッシュルーム頭が俺に抱きついて来たので、そのままナイフを男の胸に刺して殺した。


『レベルが92になりました』


『従者リズのレベルが55になりました。サモンの魔法を覚えました』


(またリズがレベルアップした。従者って何なの。それにしても、こいつらアホだな)


 俺はマッシュルーム頭の遺体もスケルトン部屋に放り込んで、地面に置かれていた袋を担いで、リズの待っている部屋に入った。


「おじさん、その袋は?」


 俺はリズの両手を握って、念話を始めた。


(たぶんさらわれた子供だ。それよりも先に話しておきたい。リズのレベルが55まで上がった)


「え? そうなんですか? 私、ここにいただけですが」


(そうなんだよ。多分、リズは俺と同じだけ経験値をもらえるっぽい。それで、魔法も三つ覚えた。レセプト、ハウント、サモンだ。どういう魔法かわかるか?)


「知ってます。霊能者が使う魔法です。『レセプト』は霊の思念を距離に関係なく受け取ることが出来る魔法です。『ハウント』は霊を自分に憑依させることができます。『サモン』はアンデッドを召喚できます」


(ということは『レセプト』を使えば、普通に会話できるということか?)


「はい、早速、使ってみますね、レセプト」


 俺はリズから手を放して、念じてみた。


(聞こえるか?)


「はい、聞こえます」


 すごいじゃないか! 霊能者ってたくさんいるのか?


 しまった。念じないとダメだった。


(霊能者ってたくさんいるのか? って、いうか、霊能者って何者?)


「霊感、霊視、霊聴の三スキルのどれかを持っている人を霊能者といいます。でも、そんなには多くないはずです。それに、あまり役に立たないので、外れスキルって言われてます」


 確かに人間の実生活では何の役にも立たんな。むしろ、霊とかに絡まれて、鬱陶しいだけかも。


(おっと、この続きは後にしよう。この子をどうするかだが、まずは袋から出してやるか。悪い子だったらまずいから、ここで出すぞ。説明はリズから頼む)


 俺が袋を開けてみると、中学生ぐらいの女の子が縛られていた。さるぐつわをはめられて、眠らされているようだ。すぐに縄とさるぐつわを解いてやったところ、目を覚ました。


「ここは? ……お姉さん、助けてくれたの?」


 活発で気の強そうな美少女だ。


 俺はゆっくりと頷いた。


「ありがとう」


 少女はリズにも気づいて、俺たちに深々と頭を下げた。俺は気にしなくていいというように手をひらひらさせて、リズに対応を任せた。


 リズがなぜか女の子を俺から離れた部屋の隅の方に連れていって、話を始めた。二人でたまに俺の方をちらちら見ているが、俺には集音のスキルがあるため、彼女たちの会話は丸聞こえだ。


 俺は実は女装癖のあるおかまで、リズは俺のことを「おじさん」と呼んでいると説明している。女の子は「あんな綺麗な人が!?」と驚いている。


 無茶苦茶な説明じゃないか。


 女の子の名前はアリサだ。リズの一つ上で14歳らしいが、どうやら孤児院の仲間に嵌められて、人さらいに売られたところだったらしい。それで孤児院には帰りたくないということのようなのだ。


 おい、また一人増えるのか!?


 リズが言いにくそうな顔をして俺に近づいてくる。


 わかったよ。一人も二人も同じだからいいよ、もう。

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