第14話 侍と忍者

 アリサを吹き抜け空間に招待した。


「すごい、何なのここ!?」


「小川の水が飲めるのです。トイレもあります。窯も作りました」


 子供二人で騒がしくやっている。娘の友達が家に来たときのようだ。リズが得意になって調子に乗っていて面白い。


 アリサのレベルは13だ。特技も魔法もない。自分で自分の身を守れるようにアリサも従者にしておくか。従者ってのがイマイチよく分からんが。


(リズ、アリサもパワーレベリングに参加したいかどうか聞いてみてくれ)


「アリサ、私、おじさんにレベル上げを手伝ってもらっているんです。こう見えて、私、レベル55なのです。アリサもやりたいですか?」


 アリサが目をキラキラさせて俺を見た。


「パパ、ぜ、ぜひ、お願いしますっ」


 誰がパパだっ!


『アリサが従者になりました』


 ほんと、どういう仕組みだ、これ?


(リズ、サモンでアンデッドを召喚できるだろう。いざとなったら、アンデッドを召喚すれば、ここから出られるよな。俺が昼ごはんを狩って来るから、二人でここで待っていてくれ。アリサはまだ疲れているだろうからな)


「分かりました。お願いします、おじさん」


 俺は地下三階へと向かった。地下三階に着くと、すぐに目的のジャイアントラビットを見つけて、デスで仕留めた。


『従者リズのレベルが57になりました』


『従者アリサのレベルが25になりました。ライトの魔法を覚えました』


 従者の経験値取得の仕組みは分かったんだが、苦労しないで、レベルが上がって、子供たちの教育的にはどうなんだ?


 ちなみに念じると、リズに聞こえてしまうので、気をつけないといけない。


(リズ、アリサがライトの魔法を覚えた。今から適当に敵を倒しながら帰るから)


 留守電みたいな感覚だな。


 俺は索敵を繰り返しながら、地下二階への階段へと向かっていた。しかし、その途中に、なんとばったりと冒険者の二人組と鉢合わせしてしまった。いや、正確には三人組だ。人形のように美しい少女が一緒だった。


(おかしい、索敵にかからなかった。ということは、俺よりもレベルが上っ!?)


 危険を覚悟で鑑定をした。


 人間 レベル100

 魔法 スピード、サンダー、レイン、トルネード

 スキル 刀技


 人間 レベル102

 魔法 フレア、クエイク、メルト、ボム

 スキル 忍術


(まずい、格上だ。侍っぽいのと忍者っぽいの、両方とも強ええっ)


「助けてくださいましっ」


 人形美少女が叫んだ。


(こいつらも人さらいか? だが、そんなお下劣な雰囲気ではないぞ)


「サーシャ殿、危険ゆえ、そちらのお部屋で待機していて下され。こちらのご婦人はただものではないゆえ、我々と同業者でござろう」


 サーシャと呼ばれた美少女は、侍の言葉に顔色を変え、言われたとおりに部屋に隠れた。


 こいつらはただの人さらいではないはずだ。普通の冒険者とはまるで雰囲気が違う。 


 俺は俊足で侍に近づき、侍の胸に剣を刺そうとしたが、刀ではじかれ、距離を取られた。忍者もサイドステップした。


「女、いきなり何をする!」


 侍が叫んだ。


 忍者が何かを投げてきた。俺の腕の辺りにナイフのようなものが数本当たり、地面に落ちた。クナイのようだ。


 忍者は地面に落ちたクナイを見て驚いている。


 俺は驚いている忍者まで瞬時に間合いを詰め、剣を忍者の右手辺りに突き出した。剣道で言うところの小手狙いだが、忍者はバックラーのようなものでガードした。


 俺は連続して忍者に向かって、フレアとホラーを同時に放った。忍者は半身を捻って、魔法を避けた。


(やるな、こいつら)


 忍者が魔法を避けて返す刀で俺の右腕を斬り捨てた。右腕の骨がとんでいくが、イリュージョンの魔法で女の姿はそのままだ。俺はステップバックして間合いをとった。


 忍者は俺の体がどうなっているのか、一生懸命考えているに違いない。


 俺はふと閃いた。イリュージョンの位置を本体よりもかなり前にしてみた。侍と忍者の視線は俺ではなく、イリュージョンの女の方を捉えている。


 俺はアンデッドであるため、呼吸もしないし、気配もしない。彼らは視覚に頼るしかないため、よく見えるイリュージョンの方を見てしまうのだろう。


 俺はイリュージョンを彼らの後ろまで移動させた。侍も忍者も反転して、イリュージョンに対して次々に魔法攻撃や物理攻撃を開始している。


 俺は侍の背中まで移動して、デスを直接背中に放った。侍が糸が切れたようにがくりと膝をつき、前のめりに倒れた。


『レベルが95になりました。刀技のスキルを取得しました』


『従者リズのレベルが72になりました』


『従者アリサのレベルが63になりました。プラズマの魔法を覚えました。グラヴィティの魔法を覚えました』


 同じように忍者の背中に密着してデスを放った。忍者がゆっくりと倒れて行く。


『レベルが98になりました。デュアルの魔法を覚えました。忍術のスキルを取得しました』


『従者リズのレベルが82になりました』


『従者アリサのレベルが76になりました』


  名前:ボーン

  種族:スケルトンメイジ レベル98

  魔法:マップ、フレア、デス、ホラー、

     イリュージョン、デュアル

  技能スキル:無痛、復活、剣技、拳闘、鑑定、

     迷彩、跳躍、俊足、無音、索敵、

     集音、投擲、解錠、裁縫、刀技、

     忍術

  経過日数:37

  従者:リズ、アリサ


(ふう、勝てた。アンデッドだとバレてなかったから助かった。俺って普通の方法じゃ倒せないんじゃないかな)


 一分が経過したようで、右腕が戻って来た。


 俺は取得した魔法とスキルを確かめたかったが、グッと我慢して、サーシャのいる部屋に入った。このまま置いて行くとビーストに食われるか、冒険者にさらわれてしまう。さすがに放っておくことは出来なかった。


 サーシャという少女は、背筋をぴんと伸ばして、綺麗な姿勢で立っていた。リズとアリサと同じぐらいの歳に見える。色白で目がパッチリとして、本当に人形のようだ。


 まずい、この少女、キュアを使える。レベルが40もあるし、放っておいてもいいかも……。


 俺がそのまま回れ右して出て行こうかどうか迷っていると、少女の方から話しかけて来た。


「お姉様、助けて下さったのかしら?」


 俺は頷いた。サーシャの大きな縋るような目に俺は抵抗できなかった。俺は話せないことをゼスチャーで説明した後、地面に素早く文字を書いた。


 仲間の子供がいる。一緒に来るか?


 サーシャは少し考えていたようだが、決心したようだ。


「はい、お願いいたしますわ」


(リズ、女の子を保護した。今からそちらに向かう)


 俺は索敵を使って、冒険者と出会わないようにしながら、サーシャを連れて、地下二階まで戻り、適当な部屋から吹き抜けに入った。


 サーシャは俺の骨の手に握られて、ギョッとしたようだが、吹き抜け空間に驚いて、手のことは忘れたようだ。地面や小川を見て、そして天井を見上げて、感嘆の声を上げている。


 俺はサーシャと反対側の方を見た。


 そして、絶句した。


(スケルトンクイーン!)


 リズとアリサのすぐ近くにスケルトンクイーンがいたのだ。

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