第15話 クイーンとの再会

 リズがクイーンと何やらやり取りしたのだろう。クイーンはリズに憑依しているようだ。リズはハウントの魔法で霊を自身に憑依させることが出来る。恐山のイタコのようなものだ。


 ちなみにクイーンの本体の骨格は、鎧を着た状態で地面に無造作に転がっていた。


(骨格に愛着ないのかな。あんな置き方しないぞ、普通……)


「そこのスケルトン、お前は何者だ?」


 クイーンがすぐに敵対して来なくて、とりあえず俺はホッとしたが、俺のグラドルイリュージョンは、クイーンには効いていないのだろうか。


(ダンジョンに入って最初の左側の部屋にいたスケルトンです)


 クイーンにはなぜか敬語で念話してしまう。


「それは知っている。これまでに二度会ったであろう。私が聞いているのは、なぜ知能があるのか、ということだ。通常、スケルトンに憑くのは動物霊だろう」


 俺と会ったことは覚えてるんだ。ってか、スケルトンには普通は動物霊が憑くのか。


(私にもよく分からないのですが、転生したらこうなってました)


「やはりな。スケルトンへの乗り移りだな。で、ここで何をしている? いたいけな少女をはべらして、お前はロリコンか?」


 ロ、ロリコン!?


(ロリコンではないです。前世の娘と同年代の女の子を悪の手から守っただけですよ。ロリコンは彼女たちをさらうよう指示しているどこかのアホのことです)


「どうかな。怪しいものだ。グラマラスな美女に化けて、そんな制服を着て、お前は変態か? しかも、こんな少女たちを従者にして、汚らわしい奴めっ」


 え? どういうこと? 酷い言われようだが、従者って汚らわしい行為なの?


 さっきからクイーンを代弁しているリズの声だけがアリサとサーシャには聞こえており、俺の反論は届いていない。変態だのロリコンだのと言われた後、心なしかアリサとサーシャが俺から距離をとったような気がする。


(変なこと言わないでもらえますか? 子供たちが気味悪がってるじゃないですか)


「ふん。見ず知らずの骨女から言われたぐらいで、ぐらつくような信頼関係ならば、最初から集うな。で、もう一度聞く。ここで何をしている?」


「骨女」か。何か言い回しが古くないか、この人。


(彼女たちが強くなりたいってことで、レベリングをしていて、ここで寝泊まりしています)


「寝泊まり? 生者を連れて、ここでか」


 クイーンが随分と考え込んでいる。そもそもここはどういった場所なのだろうか。


「うーむ、ダメという決まりはないし。ありなのかもな。では、さらばじゃ」


(え? 終わりですか? あなた様はいったいどのようなお方なのでしょうか)


「おじさん、もう出て行かれました」


 リズの人格が戻って来ていた。クイーンの本体が転がっていた場所を見ると、消えていた。リズが指差した方向を見ると、一番向こうの扉から出て行くところだった。


 本体が動くところが全く見えなかったのだが。


 自分も含めたこのダンジョンに住むアンデッドたちのことなど、教えて欲しいことが山ほどあったのに。


「おじさん、私、少し分かりました。クイーンさんのこと」


(本当か?)


「はい。クイーンさんはダンジョンから出られるみたいです」


(そうなのか。何をするつもりなのだろうか)


「愛する人を助けるためのようです。生前のときの旦那様かお子様だと思います」


(何だか漠然としているな)


「はい、はっきりとは分からないのですが、憑依されたとき、助けたいという気持ちがすごく伝わって来ました」


(この前、見たときはレベル1だったのに、もう1000を超えていたが、レベリングしにダンジョンに戻っていたのか。いや、やられて、ホームでレベル1復活したのかもな。聖女が追っているスケルトンって、俺じゃなくてクイーンなのか?)


「ちょっとあの扉、開けてみません?」


(そうだな。行ってみよう。その前にサーシャを紹介するぞ)


 俺は話せないし、一方的に変態ロリコンと言われ、さらにリズからおじさんと呼ばれていたため、サーシャは警戒心マックス状態になってしまっていた。


 だが、リズとアリサがサーシャに話しかけると、サーシャの警戒心が見る見る下がって行った。


 サーシャもまた孤児で、エロ貴族の奴隷に内定していたのだが、そのエロ貴族がサーシャが十五歳になるまで待てず、プロに誘拐を依頼したらしい。


「おじさま、助けて頂いて改めてお礼を申し上げますわ。図々しくて恐縮ですが、私にもレベルアップサポートをお願いいたしますわ」


 あっと思ったがもう遅かった。


『サーシャが従者になりました』


 従者ってのがあまりよろしくないようなニュアンスだったので、従者が何なのかが分かるまで、従者にするのはやめようと思っていたのに……。


(リズ、俺の弟子の募集はこれで終わりな)


「分かりました」


 アリサとサーシャが何が分かったのかをリズに聞いていた。


(よし、クイーンの出て行ったドアを調べてみよう)


 扉を開けたら、洞窟に繋がっていた。二メートルほどの高さと横幅のある洞窟を四人で二列になって歩いて行くと、山の崖の壁面に出た。上も下も断崖絶壁の山の岩肌のど真ん中にポツリと開いた空洞に俺たちはいたのだ。


「おじさん、地上ですよ、ここ。セイントクレア山の有名な絶壁です」


 クイーンも俺もスケルトンなので、飛び降りて、下でバラバラになっても、一分後に復活できるから、外には出られるが、ここに戻って来るのは、空を飛べない限りは無理そうだ。


 リズの話によるとクイーンは急いでいるようだったが、それでもレベル1000になるまで外に出なかったというのは何か理由があるのだろうか。


(外への出方は分かった。俺たちもレベル1000超えまでレベリングしてから、地上に出よう)


「レベル1000ですかっ。何だか、凄いですねっ」

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