第16話 パワーレベリング
やはり思った通りだ。どこの世界の子供も同じだ。子供は楽しいことしかやりたがらない。
地下五階にベースキャンプを張って、一つ上の地下四階でパワーレベリングを始めたが、こいつら、俺の戦いを見学すらしなくなった。俺が戦っている最中に三人でずっとおしゃべりしている。
女ってのは、本当によく喋る。俺の前世の娘も、一日中ずっと喋っていたし、嫁も本当によく喋った。
(おい、喋ってばかりいないで、魔物の動きとか、ちゃんと観察しておけよ)
「おじさんがすぐに仕留めちゃうから、動きとかよく分からないです」
そして、この屁理屈だ。俺はちゃんと動きを見せてから仕留めているのだ。前世の娘も何だかんだ理由をつけて、やりたくないことは、ずるずると先延ばししていた。
まあ、そうは言っても、一応悪いとは思っているようで、仕留めた獲物の持ち運びは彼女たちが率先してやっている。
それと獲物をさばいたり、料理したりも頑張っている。だが、考えてみれば当たり前だ。俺は食べないのだから。
本当に子供の躾は面倒くさい。
(おい、食べっぱなしはやめろ。ちゃんと食べた後は片付けろよ)
「今、片付けようとしてたところですっ」
ものをきちんと片付けろと何度言っても直らない。こんなんで、いい女になれるのか?
そして、夜はこいつら持参の寝袋で寝るのだが、いつまでも三人で話し込んでいて、なかなか寝ようとしない。
孤児院の男の子の話とか、どうでもいいだろう。
(おい、いい加減に寝ろよ。明日の朝、早く起きないと、一日が台無しだぞ)
これを何回も繰り返し注意して、ようやく寝る。
はあ、疲れる。これ、前世では嫁がやってたんだよなあ。毎日毎日ガミガミ言ってたっけ。
要するに、子供たちのエネルギーが有り余っているから、こうなるんだ。俺は決めた。こいつらのために今のやり方はよくない。
俺は子供たちの寝顔を見ながら、ステータスを改めて確認した。
リズ 従者レベル87
レセプト、ハウント、サモン
霊感
アリサ 従者レベル85
ライト、プラズマ、グラビティ
サーシャ 従者レベル79
キュア、クリーン、デトクス
リズが死霊系、アリサが時空系、サーシャが神聖系ということらしい。
俺のも確認してみる。
名前:ボーン
種族:スケルトンメイジ レベル98
魔法:マップ、フレア、デス、ホラー、
イリュージョン、デュアル
迷彩、跳躍、俊足、無音、索敵、
集音、投擲、解錠、裁縫、刀技、
忍術
経過日数:45
従者:リズ、アリサ、サーシャ
地下四階は地下三階と同じビーストフロアだが、レベルが100前後と高い。だが、子供たち三人がかりであれば、大丈夫だろう。いざとなったら、助ければよい。
俺は翌朝、子供たちに宣言した。
(お前たち、今日から自分たちで魔物を倒せ。サーシャがキュアを使えるから、死にはしないだろう。俺は一応見ているが、助けないから、そのつもりで行けよ)
「え? そんな……」
(え? そんな、じゃないっ。強くなりたいって言ったのは、お前たちだぞ。自分たちの力で成長しろ)
そうは言ったが、いざこいつらがマッドボアと対峙しているのを見ると、胃が痛くなるような気分になる。胃はないのに、おかしな感覚だ。
先頭はリズだ。どこから持ってきたのか、大きな盾を両手で持って構えている。要するに攻撃する気はなく、守りに徹する戦法らしい。
リズの真後ろから少しズレたところにアリサがいて、いつでも魔法を放てるようにしている。
最後方は治癒役のサーシャで、ずっと前衛の動きを目で追っていた。
マッドボアにはまだアリサの魔法は命中していない。リズはすでに三回マッドボアの突進をいなしている。
マッドボアの位置に合わせて、三人がいそいそと隊形を保っている。何だか見ていて可愛くて仕方ないのだが、こいつらのレベルは高いので、身体能力が高く、今のところは意外にも危なげない。
だが、四回目のマッドボアの突進は、リズではなくアリサに狙いを変えていた。リズは少し慣れが出てしまったようだ。完全に逆を突かれて、マッドボアをノータッチで後ろに行かせてしまう。
マッドボアがリズの右を通り過ぎて、アリサに激突する。
(まずいっ)
もちろんデスは使えない。俺は瞬時に判断して、俊足でマッドボアの前まで詰めたが、マッドボアにホラーを当てる前に、マッドボアと俺にエリサが放ったプラズマが直撃した。
骨中がビリビリして、俺は全く動けない状態になった。マッドボアも同じだと思うが、生きている分、俺よりもダメージが大きかったようだ。焦げ臭い匂いを放ちながら、ゆっくりと倒れていった。
『レベルが99になりました』
『従者リズのレベルが93になりました』
『従者アリサのレベルが92になりました』
『従者サーシャのレベルが90になりました』
こいつら、まともにプラズマをくらった俺のことを全く気遣うことなく、三人で手を取り合って喜んでいる。
従者の経験値も俺に還元されるのか。まるで一心同体だな。
「あれ? おじさん、何してるんですか?」
(……いや、よくやった。おめでとう。初勝利だな)
その日、子供たちはすぐに眠りについた。
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