第41話 大悪魔級の力

 クラウス司教を聖女が嫌そうに治療している。俺も行きの馬車の中で残念従者があのクラウスだと知って、馬車のシートからずり落ちそうになった。


 クラウスが目を覚ましたので、デクスター子爵家の対応をクラウスに任せて、俺たちは修道院に戻った。


 俺は帰りの馬車の中で、シスターテレサに自分がアバドン級の強さになってしまったと思念したのだが、彼女はすぐには信じなかった。


 それで、俺は修道院の院長室に入り、ヴァンパイアに憑依して、自分のレベルアップの内容をクイーンに直接説明したが、クイーンもすぐには信じなかった。


「アバドンはステータスを偽装しているが、レベルは五万以上と言われている。貴様のレベルは五万もないだろう?」


「はい。レベルは今回アップして8600ちょっとにはなりました。ただ、レベルはそんなに重要ではないと思います。スキルが凄いんです。お見せしたいのですが、まだ上手に出来なくて、勝手に『偽装』がかかってしまいます」


「なるほど。貴様、人間のレベル45で魔法もスキルもないように見えるぞ。ちょっと待てよ。この前の話だと、従者もレベル8600超になったということか!?」


「はい。サーシャはホーリーを覚えました。来週、聖女試験ですが、いまさら聖女試験に行く必要ありますかね?」


「あるぞ。聖女の入れ替え戦で、首都の聖女と入れ替われば、聖女の脅威がかなり下がる。ただ、サーシャの今のレベルがバレるのはまずいな」


「では、サーシャに『偽装』を授与します。……、出来ました」


「貴様、貴様にとっても重要なスキルをあっさりと従者に授与するとは驚いたな」


「子供に一番いいものを与えるのは当たり前ですよ」


「ふむ。少し貴様を誤解していたかもしれないな。骨の髄までロリコンだったのか。スケルトンだけに!」


 クイーンなりにウィットを利かせたつもりなのだろうが、慣れないことを言ったせいか、クイーンの顔が少し赤い。照れるなら言わなければいいのに。


「いや、違うでしょ……。俺がロリコンでないことは、おいおいきっちりと証明していきますが、それより、これで鑑定できるようになったはずです。見て頂けますか」


 スケルトンロード レベル 8673

 魔法:マップ、フレア、デス、ホラー、

    イリュージョン、デュアル、チャーム、

    シャドウ

 技能スキル:無痛、復活、剣技、拳闘、鑑定、

    迷彩、跳躍、俊足、無音、索敵、

    集音、投擲、解錠、裁縫、刀技、

    忍術、変態、触覚、毒針、怪力、

    複眼、操糸、蛍光、営巣、蜜蝋、

    集蜜、王乳、石人、水筒、槍術、

    算術、算盤、計算、記憶、簿記、

    睡眠、格納、交渉、行商、販売、

    仕入、説得、契約、商魂、授与、

    天使、魔王、魔典、予知、支配、

    憑依、使徒、蟲使、魅惑、傀儡、

    変装、流転、霊感、霊視、舞踊、

    演奏、離脱、語学、分裂、修復、

    複製、死霊


「貴様、アバドンのスキルをごっそり入手したのかっ!? なぜそんなことができるのだ?」


 質問の意味がよく理解できなかったが、とりあえず答えた。


「全部ではないです。恐らく、難易度の高いもの上位20ぐらいです」


「レベル8000台で難易度の高そうなスキルを新たに20も取得できるというのが腑に落ちんのだ」


 スキルの取得に必要なレベルがあるということをクイーンは言っているようだ。


「後で調べておきます。実は『魔典』というスキルで、『悪魔事典』という魔界の百科事典の閲覧がいつでも可能になったのです。このスキルが一番凄いです。フランソワさん、魔界で超有名人ですよ。『デーモンリング』の略奪者として」


「自覚はある。だが、悪魔でレベルアップするのは私だけではない。聖魔女も同じ手を使うぞ。貴族階級の悪魔の場合、聖魔女が出張るからな」


 クイーンは「デーモンリング」で悪魔を探して、ミントの聖女と組んで悪魔退治することで、レベルアップしている。受肉している悪魔を次々に浄化するため、クイーンとマーガレットは魔界のお尋ね者だ。


 一方、アネモネは教会に依頼される悪魔払いに参加してレベルアップしているが、数が少ないし、素行の悪い悪魔ということで、悪魔からのお咎めはない。


 というような話をクイーンがしている最中に、俺は全く別のことを考えていた。


(そういえばスケルトンロードに進化したってことは、イリュージョンのレパートリーが増えたはずだ。怖いがちょっとイメージしてみるか)


 ブレザーにチェックのスカートという組み合わせがレパートリーに増えていた。


(これ、女子高生の制服だよな。アウトか? いや、セーラー服じゃないからギリギリセーフか。何とか坂46はこんな格好をしていたような記憶が……。いずれにしろ封印だ。絶対に誰にも見せてはいけないし、知られてはいけない)


「貴様、何を考えている?」


「あ、すいません。ちょっと悪魔事典を見ていました。スキルの研究が進んでいて、スキルの解説が興味深いです」


 俺は何とか誤魔化した。


「『天使』と『魔王』の解説はあるか?」


「あります。聖魔女と同じように人格の切り替えが出来るようです。『死霊』の人格がついたのは、そのためですね。『天使』、『魔王』、『死霊』の切り替えが出来るようになったのですが、使えませんね」


「なぜだ?」


「人格を変えるとアンデッドではなくなり、従者の契約が解除されるからです」


「そうか。だが、浄化されそうになったとき、人格を切り替えるという切り札が一枚加わったということか」


「そうですね。人格を『天使』に切り替えれば、浄化はされないです。あと『魔王』になると配下の悪魔を統率できますが、最上位の悪魔の三柱の配下になってしまいますので、これも使うことはないですね。切り札としてアリサにあげようかな」


「人間も使えるのか?」


「『天使』はエネルギーがありすぎて無理ですが、『魔王』は大丈夫です」


「恐ろしいチームだな。貴様のチームは」


 俺は「憑依」のスキルを得たおかげで、ハウントがかかっていない肉体にも憑依することができるようになった。霊体を「離脱」させるスキルも得たため、本体の骸骨をいちいち背負う必要もなくなった。


(憑依の器を早く見つけて、イリュージョンは封印しよう)


 俺は密かにそう誓うのであった。

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