第19話 将来の夢
(帰ったぞ。リズ、ちょっと召喚魔法を試してくれるか)
俺はベースキャンプに戻るなり、すぐにリズに念波を送った。
「あ、おじさん、着替え中なんですけど」
(お前たちは一体いつまでやってるんだ。あれからもう半日以上経っているぞ)
「三人のバランスも考えてコーディネートしないといけないので、なかなか決められないのですよ。あ、召喚ですね。でも、もうふざけるのはナシですからね。少し待ってください」
リズは巫女の衣装、アリサは魔法使いの衣装、サーシャが聖女の衣装を何種類もせしめて来たが、三人の組み合わせと個々の好みがうまくマッチしないという。
正直、どうでもいい。
「おじさん、召喚出来る霊体が増えてます」
(レベルが上がったんだ。臭くないのあるか?)
「『堕天使』ってのがあります。サモン、堕天使。ハウント」
黒髪黒目で、少し気だるい感じのする超イケメンが現れた。男のくせに色白で、唇が妙に赤く妖艶で、長めの髪をかき上げている。
(チッ、何だか無性に腹の立つ奴だ)
堕天使がなんか言い出す前に、俺はすぐに憑依した。
「どうだ、臭くないか?」
「おじさん、めちゃくちゃ格好いいですっ!」
「パパ、ずっとそれでいてっ!」
「おじさま、素敵ですわっ」
何だかちっとも嬉しくないな。
「パパ、ほんと、格好いい……」
アリサが特にこの男を気に入っているようで、目がハートになっている。これでは変な男に引っかかる可能性大だ。アリサから目を離してはダメ、と俺は心の中でメモった。
「重大発表だ。心して聞けよ。お前たちのレベルは350だ。俺と同じレベルになった」
三人が顔を見合わせて驚いている。
「魔法も増えたぞ。リズがオーラ、アリサがメテオ、サーシャがオラクルだ。イメージ出来るか?」
魔法は使えるのと実際に使うのとでは大きく違う。まず、使えることが分かっていないと絶対に使えない。人間は俺みたいにステータスを自分では見られないため、鑑定持ちに高いお金を払って、適時どんな魔法が使えるかを診てもらうらしい。
「イメージ出来ました。オーラは霊を可視化させる魔法です。おじさんの場所を敵に教えるのに便利です」
「……リズ、今朝のことまだ怒っているのか?」
「そんなことないです。おじさんの気のせいです」
「パパ、メテオはこっちの空間と宇宙空間を繋げて、隕石を引き落とす魔法だよ。レベルが低いうちは小石しか落とせないかな。あと、繋がった宇宙空間に敵を送ることもできるよ。パパ、宇宙空間に行っちゃったら、戻って来るの大変だよ?」
「……アリサ、俺を宇宙空間に飛ばしてどうする?」
「アリサはまだパパのこと許してないからね。気持ち悪かったんだから。何度洗っても臭いが取れる気がしないよ」
これは少なくともアリサにはきちんと謝った方がいいな。
「アリサ、悪かったよ。もうアリサの嫌がることはしないからさ」
「その顔と声で言われると、許しちゃいそう……」
アリサ、こんなにチョロくてやって行けるのか? 本当に変な男に引っかからないでくれよ。
俺はサーシャに視線を移した。
「オラクルは、今朝、言ってたやつか」
「はい。神の声をアンデッドに聞かせる魔法ですわ。おじさま、お聞きになられます?」
「……いや、遠慮しておく」
まさかサーシャもまだ怒っているとは。
「ところで、レベル350って、人間ではどれくらいなんだ? 聖女はレベル2500だったが、あんなのが何人もいるのか? 今度調査に来る騎士団のレベルも気になる」
「おじさま、聖女のことは私が詳しいですわ。聖女になるのが夢でしたの」
サーシャによると聖女は十三人いて、レベルは2500から3000ぐらいだが、聖女の強さはレベル通りではなく、「ミントの聖女」は「王都の聖女」の次に強いらしい。
「あんなのが十三人もいるのか……」
俺はいまだに聖女が怖くてたまらない。
「騎士のことはアリサが詳しいんだよ。貴族出身のイケメンと冒険者のS級上りのブサメンが半々だよ」
「いや、顔のことではなく、強さを知りたいんだが……」
アリサが口を尖らせた。
「これから言うところだったのにっ。レベルはイケメンたちが1000以上で、最高は1万超えのランスロット様だよ。アリサの推しだよっ」
「一万超え!? 凄いのがいるなっ」
「あ、でも、パパは大丈夫。パパは騎士には絶対に倒せないから」
「アンデッドは聖女にしか倒せませんわ。強さはレベルではなく、相性ですの」
「なるほどね。で、ブサメンの方のレベルは?」
この質問にはリズが答えた。
「500から1000ってところです。冒険者のA級のレベルが100から300で、300以上がS級なのですが、500を超えると騎士団からスカウトされるのです。でも、元冒険者でもヒューイさんは、レベルが8000もあって、騎士団の第三席次ですっ」
「あの人は冒険者出身なのにイケメンだよねっ」
アリサはイケメン好きだな。
「なぜクイーンは1000までレベルを上げてから、地上に出たのだろうな」
今度はサーシャが答えた。
「それは私も考えておりましたの。恐らくオラクル対策だと思いますわ。ホーリーはレジストできませんが、オラクルはあるレベル以上になるとレジスト可能で、それが1000だと思いますわ。やっぱりちょっとお試しになられます?」
「いや、だから、試さないって。試して浄化されちゃったら、終わりだろうが。でも、そうだとしたら、お前達はもっとレベル上げした方がいいのか?」
「私はおじさんと一緒でいいです」
「アリサもパパと一緒でいいよ」
「私はもっと低くてもよろしいですわ。聖女修行でレベル上げ致しますから」
「そうか、サーシャは聖女になる夢に向かって行くんだな。リズとアリサは将来どうしたいんだ?」
先にアリサが答えた。
「アリサはそんなこと考えたことなかったよ。奴隷になるか、誰かの嫁になって、子供を産まさせられて、死ぬまでこき使われる、そういう運命から、逃げたいだけだよ」
「逃れたいというのも、将来したいことだと思うぞ。リズはどうだ? 冒険者になりたかったみたいだが、その夢はもう達成したよな」
「私は奴隷にならないために、冒険者で成功したかったのです。ただ、もう少し頑張って、他の孤児院の子たちにもチャンスを与えられる存在になりたいです」
「うむ、結構、結構、頑張ってくれ」
「え? それだけ?」
アリサが驚いているが、こいつらは俺に何を期待しているのだろうか。
「それだけって、なんだよ。お前たちの人生だろう。俺はレベリングは協力するが、最終的には自分の道は自分で切り開くものだ」
「それは、そうですけど」
リズもしぶしぶ了承した感じだが、本当に何を期待していたんだ?
「とりあえず、早く着替えろ。どうせレベリングするなら、サーシャの将来ためにリッチーを倒す訓練をしたらどうだ? 俺はもう一度昆虫採集してくる」
俺はスケルトンの本体に戻って、再び地下六階へと進んだ。
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