第18話 悪ふざけ
俺たちはベースキャンプ部屋の中で、今後のレベリングの方針について、朝から話し合っていた。
俺がアンデッドであることは、アリサとサーシャにはすでに告白したのだが、驚いたことに割と簡単に受け入れられた。
こんな簡単でいいのかな。従者だから?
ちなみに、リズがサモンで「霊媒師」というアンデッドを召喚してからハウントをかけ、俺が霊媒師に憑依することで、四人でスムーズに会話出来ているのだが、実に評判が悪い。
「パパ、臭いなあ」
アリサは容赦なかった。
「いや、俺は無臭だ。この『霊媒師』が臭いんだ」
「何度クリーンをかけても、効果がございませんわ」
サーシャがハンカチで鼻と口元を押さえて、眉をひそめている。
「体が腐ってるから、仕方がないじゃないか」
俺はそう言うしかないが、サーシャのような超絶美少女に避けられると、思った以上に傷つく。
「みんな、ほんのしばらくだけ我慢してね。おじさん、出来るだけ離れて下さい」
リズは召喚した責任を感じているのか、申し訳なさそうだ。
俺は頭に来たので、アリサの手を握ってやった。
「ぎゃあっ。ぢょっどぉ!!」
「どわっ」
シャレにならん。こんな部屋の中で、アリサが俺に向けてプラズマをぶっ放しやがった。腐敗臭に加えて、タンパク質が燃える
「サーシャ、クリーンお願い、クリーン」
アリサが俺に触られたあたりを指差して、サーシャに頼み込んでいる。
「すぐにきれいにしますわっ」
ちょっとしたイタズラだったのに、アリサは半泣きだ。
「おじさん、酷いです。アリサに謝ってください」
「いや、アリサが臭いって言うから……」
俺は悪くないと思った。
「おじさん、アリサ泣いちゃってますよっ」
「ああ、分かったよ。アリサ、ごめんな」
そう言って、俺はアリサの肩をポンポンと叩いてやった。
「ヒィイイィっ、こんのぉっ」
「ぐぎゃっ。ギブ、ギブ、ふべっ」
アリサが放った強烈なグラヴィティの重力魔法で、俺の憑依していた霊媒師はペチャンコにされた。
(アンデッドすげえ。こんなにされても、痛くも痒くもないし、まだ動ける)
だが、凄まじい腐敗臭が部屋に充満して行く。
サーシャが狂ったようにクリーンをかけているが、焼け石に水状態だ。
「アンサモン!」
リズが召喚を解除した。霊媒師は
や、やばい!
危なかった。危機一髪で骨の本体に戻ることが出来た。
(おい、リズ! 俺が憑依した状態のまま召喚解くなよっ)
「……」
まずい……。リズ、アリサ、サーシャの三人が完全に怒っている。
(……リズ、すまなかった。ちょっと悪ふざけが過ぎたようだ。話を元に戻すぞ。地下六階からは虫だらけということだが、どうする?)
「……」
(なあ、リズ、機嫌直してくれよ)
「……インセクトですよね。めちゃくちゃ強くて、気持ち悪いんでしょう。私たちは地下四階で実戦訓練を続けて、おじさんだけ行くってのはどうですか?」
(リッチーは倒せないのか?)
「サーシャ、この悪のりオヤジが、リッチーを倒せないかって聞いてます」
「まだ無理ですわ。キュアでは弱らせるだけです。オラクルかホーリーで浄化する必要がありますわ」
ホーリーはあの青白い光線の魔法だ。スケルトンは元いた部屋で復活していたが、骨格が同じというだけで、魂は別物だったのか?
(サーシャはホーリーを覚えられるのか?)
「サーシャ、ホーリーは覚えられるのかって、クソオヤジが聞いてます」
リズ、怒ってるなあ……
「適性はございますが、覚えられるのはレベル2000を超えてからです。オラクルはレベル100から120で覚えられますから、もうすぐですわ」
「覚えたら、さっそくパパで試すといいね」
アリサ、冗談キツいなあ。しかし、サーシャは俺の天敵だな。こいつとだけは喧嘩しないようにしなければ。
ということで、しばらく子供たちは地下四階、俺が地下六階でレベリングをすることになった。
「私たちはこれから新しい防具に着替えますから、おじさんはさっさと先に行ってもらえますか?」
(はい、そうさせてもらいます)
俺は逃げるように部屋を出て、一人でダンジョンの地下六階まで進んだ。地下六階にはもちろん初めて来たが、フロア全体が白っぽく光っていて、湿度が高く生温かい。
(人間ならジトっとして不快かもな。アイツら、仮にここまで来ても、ここは通過するだけだな、きっと)
一歩前に出ようとした瞬間、突然、前から二メートル以上の巨大なカマキリが現れた。気持ち悪いことこの上ない。鑑定が敵の情報を教えてくれる。
ジャイアントマンティス レベル290
スキル 変態
(あっ)
と思ったときには、鎌で首を斬られていた。
頭蓋骨が湿地にびちゃりと落ちた。
(速えっ)
頭蓋骨をとばされたのは久々だった。カマキリがキチキチいいながら、俺の体に噛み付いている。どうやら、食べようとしているらしい。
俺はこの状態からでも魔法が撃てる。何となくフレアがいいような気がした。俺は無防備なカマキリの背中にフレアをぶち込んだ。
キィィィィ、キチキチ
カマキリが奇妙な鳴き声を上げ、真っ赤に燃え上がりながら、あちこち暴れ回っている。
俺は復活して、刀技の居合い斬りでカマキリの頭を斬り飛ばした。
『レベルが170になりました。スケルトンナイトに進化しました。チャームの魔法を覚えました。変態のスキルを取得しました』
『従者リズのレベルが168になりました。オーラの魔法を覚えました』
『従者アリサのレベルが168になりました。メテオの魔法を覚えました』
『従者サーシャのレベルが168になりました。オラクルの魔法を覚えました)
(めちゃくちゃレベルが上がったぞ。「変態」って昆虫の「変態」だよな。カマキリは不完全変態だけど、こいつは違うのか? いずれにしろ、鑑定されたら、誤解されそうで嫌だな。ひょっとして、俺、成虫になれたりするのかな)
昆虫たちは強いのだがバカで、このあと、蜂、トンボ、コガネムシ、カミキリムシ、カメムシ、バッタ、クワガタムシ、カブトムシ、ホタルなどさまざまな虫に遭遇したが、みんな同じ手に引っかかった。
俺は夢中になってレベルアップを繰り返し、レベルは一気に350まで増えた。また、昆虫特有の様々なスキルを取得した。
大仕事した気分になり、俺は意気揚々とベースキャンプに戻ったのだが、信じられないことに、子供たちは何を着て行くかで、まだ揉めていた。
ーー データ ーー
名前:ボーン
種族:スケルトンナイト レベル350
魔法:マップ、フレア、デス、ホラー、
イリュージョン、デュアル、チャーム
迷彩、跳躍、俊足、無音、索敵、
集音、投擲、解錠、裁縫、刀技、
忍術、変態、触覚、毒針、怪力、
複眼、操糸、蛍光
経過日数:48
従者:リズ、アリサ、サーシャ
リズ 従者レベル350
レセプト、ハウント、サモン、
オーラ
霊感
アリサ 従者レベル350
ライト、プラズマ、グラビティ、
メテオ
算術
サーシャ 従者レベル350
キュア、クリーン、デトクス、
オラクル
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