第17話 換金屋

 ダンジョンの地下五階はアンデッドフロアだが、倒しても倒してもリッチーが現れる「暗黒の部屋」と呼ばれる部屋以外にアンデッドは出現しない。


 そのため、ここをベースにする冒険者は多いと聞いていたのだが、なぜか閑散としていた。


 このフロアには換金屋がある。ダンジョンを出ることなく換金でき、便利な分、地上よりも買い取りレートは安い。


 俺たちはつい最近客になったばかりだが、俺のグラドルパワーだと思うのだが、店のオヤジが俺に異様に優しい。武器や防具の注文も受け付けてくれるというので、女子用の防具を取り揃えて見せて欲しいと依頼しておいた。


 オヤジはマッチョで元気なバカだが、格納というスキルを持っており、防具店の店頭の品を丸ごと持って来られると豪語していた。非常に魅力的なスキルだが、オヤジがいなくなると何かと不便なので、殺したりはしない。


 俺は別に殺人が楽しい訳ではない。俺を攻撃して来た人間か、人さらいをするような悪人しか殺していないつもりだ。


 オヤジが俺たちに気づいて、声を掛けてきた。


「お、いらっしゃい、お姉さん。今日は皆さんお揃いだね。ダンジョンへの立ち入りが禁止されたのを知っているかい?」


「そうなの? どうして?」


 アリサは俺に気のある素振りをするここのオヤジのことが、あまり好きではないようだ。俺とオヤジの間に割って入った。


「ここのところ冒険者が殺される事件が相次いでいるんだ。騎士団が調査して、安全が確認できるまで禁止だそうだ。ここもいったん閉店だ。先日、依頼された女物の防具をたくさん用意して来ているが、そういうことなので、お安くするよ」


 オヤジは部屋いっぱいに防具を展示してくれていた。俺は店に入ってすぐのところに飾られている銀の鎧を一眼で気に入った。リズに俺の分としては、これを買うように伝えた。


 リズたちは案の定あれやこれやと迷っている。女物はあまりないと思っていたのだが、魔法使いや聖職者用の防具はかなり種類が多いらしい。


 いつまで待っていても決まりそうもないので、俺はオヤジに勧められて、別の部屋に展示してあるという武器部屋に案内された。


 クナイや手裏剣に興味を持った。忍術で扱えるはずで、いくつか購入することに決めた。商人が購入した武器を包んでくれている間に、俺は防具部屋に戻った。索敵で二人の冒険者が防具部屋に入ったことを確認したからだ。


 防具部屋に戻ると、リズたちがスキンヘッドの強面の冒険者二人に絡まれていた。リズが非常に不機嫌な顔をしている。


(あ、おじさん、こいつら、アリサとサーシャばかりにちょっかいかけて、私を邪魔者扱いするのよ。私、腹が立って)


 そっちで怒っているのか。


(リズはあと二年もすれば、二人に負けない美人になるから大丈夫だ。気にするな)


(おじさん、こいつら、どうしますか?)


 俺が入って行っても、冒険者の二人がアリサとサーシャに付き纏っている。俺は気配がなさすぎて、すぐには気づかれないのだ。


(どうしたもんかな)


(こういう輩は、この先もずっとこういうことを繰り返すと思うのです)


(じゃあ、始末するか)


 だが、俺が攻撃しようとする前に、アリサが二人にプラズマをかけて黒焦げにしてしまった。


『従者リズのレベルが95になりました』


『従者アリサのレベルが94になりました。算術のスキルを取得しました』


『従者サーシャのレベルが93になりました』


 なに!? こいつら、人間のスキルを奪えるのか!?


 アリサが俺の方を向いて、必死に言い訳をして来た。


「サーシャの胸を触ろうとしたの。もう限界だった。パパ、許してね」


 俺は絶句したが、日本の常識を当てはめてはいけないと思った。この世界は弱肉強食で、彼女たちは男たちにさらわれた経験もあるのだ。殺しはダメだと教育すると、自分の身を守れなくなってしまう。


 そもそも俺自身が人を殺しまくっているので、人を殺すなと言っても説得力がないだろう。


「アリサ、おじさんが、限界までよく我慢したな、と褒めているよ」


 アリサはにっこりと笑い、俺たちは遺体を隣の部屋に放り込んだ。


 店のオヤジが帰って来たが、何か様子がおかしい。


「どうしたの、オヤジさん?」


 アリサもオヤジの雰囲気に違和感を感じたようだ。


「おかしいな、もうそろそろ仲間が迎えに来るはずなんだが。さっき来たような気がしたんだ」


「あれ、オヤジさんの仲間!? サーシャの胸を触ろうとしたから殺しちゃったよ」


「殺した!? 胸を触ろうとしただけでっ!?」


「は? オヤジさん、胸を触ろうとしただけって、あなたも死にたいの?」


 アリサが氷のような目をしてオヤジを睨んだ。強烈な殺意がほとばしっている。


 オヤジは真っ青になって震え上がった。見た目はゴツいし、レベルが75もあるのに、子供相手に情けない姿をさらしているが、自分よりもレベルが上の仲間を二人、あっさりと殺されたうえに、この殺意だ。ビビるのは仕方ない。


「いや、その、すまなかった。一応仲間だったので。失言を許して欲しい……」


「ふん、まあ、いいよ。ここがなくなると私たちも困るから。でも、決めるのはサーシャだよ。どうする?」


「私たちの気に入った防具を全て没収で許してあげますわっ」


「え? そ、そんなっ」


 オヤジが俺の方を見て助けを求めるが、自業自得だ。殺されないだけ、ありがたいと思うべきだ。


 アリサとサーシャが店のリヤカーを勝手に持ち出して来て、気になった防具を次々にリヤカーに乗せて、運び始めた。オヤジは涙目だ。


「買い取った獲物は返さなくていいからね、オヤジさん」


 リズの言葉にオヤジはようやくホッとした表情を見せた。


 俺たちはリヤカーを引いて、キャンプ部屋まで戻った。

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