第49話 暴力教師
アネモネはどうやら聖女候補の訓練の見学に来たようだ。騎士を二人連れているらしい。目的は不明だ。俺はテレサに逐次報告を入れてもらうようお願いした。
ステーシア先生が先にA組の教室に入る。セミロングの美しい金髪とキュッとしまった腰と張りのあるお尻を見ながら、俺も後に続いて行く。エロオヤジ全開で、自分でもどうかしていると思わなくもないのだが、随分ご無沙汰なので許して欲しい。
(うーむ、俺は大人の優しくて綺麗な女に飢えているな。ああ、男に憑依したい)
教室を一望して、リズ、アリサとさきほど新入生の代表をした王女プリシラの顔を確認した。親バカの贔屓目でみて、リズとアリサが一番可愛いが、プリシラもなかなかの器量だ。
リズが俺を二度見して、その後、じっと俺を観察している。俺はまだ霊体を上手く重ねられないので、霊体が二つ見えるのだろう。
驚かそうとして、ずっと黙っていたが、そろそろ教えることにしよう。
(よう、リズ。俺だ。目の前にいるイメルダ先生に憑依している。俺たちの関係がバレないようにしてくれよ)
リズがびっくりした顔をして、その後、満面の笑顔になった。この笑顔には心がとろけてしまう。さっきまでのエロオヤジな俺が、すうっと消えて行く。
霊能者ではないアリサは、さすがに気づいていないようだ。
ステーシア先生が教壇に上がって、ホームルームを開始した。
「今日からA組の皆さんの担任を務めるステーシアです。担当教科は国語です。こちらは副担任のイメルダ先生です。担当教科は数学です。一年間よろしくね」
ステーシア先生が目で私に挨拶するように言っているので、私も壇上に上った。
「イメルダです。副担任として、ステーシア先生のサポートをします。悩みや困ったことがあったら、何でも相談して下さい」
恐らく上級生からイメルダの噂を聞いているものもいるのだろう。少し微妙な空気が流れた。
「それでは、ホームルームを始めます。初日の今日は、皆さんの自己紹介をお願いしたいと思います。では、こちら側の人から順番にお願いします」
ステーシア先生の呼びかけに応えて、教室の端から端まで順番に自己紹介が始まった。
王国の人口は四千万人で、うち、貴族が五千世帯ほどあるが、貴族の令嬢の多くがこのセントクレア学園に入学する。その他、自由市民の裕福な家庭のお嬢様も入学してくる。
貴族には名字があるが、自由市民には名字がないものもいる。学内では身分は平等との方針のため、教師も生徒も名字を名乗らないルールだ。だが、実際には、貴族の令嬢は学内で威張っているし、爵位による上下関係も存在する。
ちなみに、教師は生徒から舐められないよう全員貴族で、ステーシア先生は伯爵未亡人、イメルダは子爵令嬢だ。イメルダは二十六歳だが、婚約破棄を二回されていて、この歳になっても婚姻できていないのは非常に稀だった。
名前と出身地を紹介するだけの静かな自己紹介が終わった。教師はフルネームで爵位付きの生徒名簿を持っているため、生徒の親の爵位まで分かる。プリシラが王女で最上位で、次に公爵令嬢が二人、その次が侯爵令嬢の二人だ。
リズとアリサはレイモンド侯爵の妹二人の令嬢ということになっており、それぞれ伯爵家に嫁いでいるので、伯爵令嬢ということになっている。
クラスは二十名なので、リズたちの爵位は中の上といったところだが、Aクラスには貴族しかいないので、学年全体ではかなり上位の方だ。一学年は100名前後で、5クラスの構成となっており、貴族の令嬢は全体の三割ほどだ。
(皆んな上品な顔立ちだなあ)
リズもアリサも整った顔立ちなので、ちゃんとクラスに容姿的には溶け込んでいるが、これまでの十年間の教育の差を一朝一夕では埋められまい。
と思っていたのだが、一限目の俺の数学の授業をやってみて分かったのだが、リズはアネモネからしっかりと教育を受けて来たようで、全く問題はなかった。
アリサは、出生がよくわからないが、民間の孤児院での美人枠だったのは確かで、十分な教育を受けていたようで、これまた問題なかった。
(苦手な教科があったら、スキルを渡せばいいしな)
俺は子供たちを甘やかす悪い親なのかもしれない。
(リズ、昼休みにアリサと一緒にカフェで食事をしよう)
そう思念を残して、俺は教室をあとにした。
二時限目の授業は三年生のAクラスだ。
(さあて、いじめてくる奴を容赦なくぶちのめすぞ。ショータイムだ!)
俺はこの時間を実は楽しみにしていた。多少のおイタは理事長が揉み消してくれるはずだ。
俺は意気揚々と三年生のAクラスの教室の前に立った。授業の開始時刻が過ぎているというのに、教室の中が騒がしい。
俺はほくそ笑んだ。
(これは楽しくなりそうだ)
教室に入ると、生徒は着席しておらず、思い思いの席でお喋りしていた。
「おい、口を閉じて、自分の席に着席しろ」
俺は教室全体に響き渡る声で注意した。生徒たちは一瞬静かになり、俺の方を見た。イメルダの外見はすっかり変わっているが、中身は変わっていないと思ったのだろう。すぐにまた騒がしくなった。
俺はホワイトボードの横に立てかけてあった五十センチ長の木の定規を手に持って、近くでこちらに背中を向けてしゃべっている赤毛の髪の長い女子生徒のお尻を思いっきり引っ叩いた。
「痛いっ。何すんのよ!」
赤毛がものすごい形相で俺を睨んだ。髪が振り乱れていて夜叉のようだ。
「なんだ、綺麗な顔してるじゃないか。でも、そんなに睨んだら、美人が台無しだぞ」
俺はもう一発太ももを引っ叩いた。
「いったーいっ、ちょっと!」
「何すんのよ、じゃないだろう。何するんですか、だろう。年上への言葉遣いを直さないと何度でも叩くぞ」
「こ、こいつ、頭おかしくなったの!? イメルダのくせに!」
俺は肘、足、背中を叩きまくった。赤毛はたまらず俺に突進して来たので、俺は足にタックルをかまして、そのまま担ぎ上げ、足首を持って逆さに吊し上げた。スカートが捲れ上がって、下着が丸見えだ。
「おお、いい眺めだな。おい、そこのお前、こいつのスカートの裾を頭の上で結べ。茶巾という遊びだ」
俺は呆気に取られてこっちを見ている金髪縦ロールに命じた。
「い、いやだよっ」
俺は断った金髪を蹴り飛ばした。金髪が縦ロールをなびかせながら教室の中を吹っ飛んでいく。
「せ、先生、正気ですの? 今蹴ったのは、公爵様のご令嬢ですわよ」
ちゃんと自分の席で静かにしていたクラス委員長が席を立って発言した。
「正気だ。授業を妨害する奴は、誰であろうと蹴飛ばすぞ。お前は静かに自分の席に着席しているし、言葉遣いも問題ないから、蹴飛ばしはしないがな」
生徒たちは水を打ったように静かになっていた。俺は次に栗毛の可愛らしい顔をした女子生徒に視線を向けた。栗毛がビクビクしながら答えた。
「い、嫌です」
俺はまた蹴飛ばした。栗毛も数メートル飛ばされて、うーんと言いながらそのまま動かなくなった。
「先生の言うことはきけ。次、お前だ。どうする?」
「は、はい。結びますっ」
ポニーテールの女子生徒は震える手で吊るされている赤毛のスカートの裾を結び上げた。
「よし」
俺は茶巾状態の女子生徒を床に転がした。女子生徒はもがいているがどうにもできない。
「口を閉じて席につけ。できない奴は茶巾にするぞ」
生徒たちは急いで席についた。
「おい、キュアが出来る奴はいるか?」
数人が手を挙げた。
「蹴られて倒れている奴を手当てしてやれ。では、教科書を開いて下さい。今日から新しい教科書です。最初は微分のところからですね」
授業中、生徒たちは非常にお行儀が良かった。
(さて、明日は親が押しかけて来るだろうな。楽しみだ)
三時限目と四時限目は一年生の授業だったので、穏やかに授業を終わらせることができた。
そして、昼休み。
カフェに入ると、リズとアリサが駆け寄って来た。
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