第67話 不死王の使者

 不死王との会合が空振りに終わって、アネモネとはダンジョンで別れた。アネモネはミントで所用があるらしい。


 ミントから一人寂しく館に戻ると、額に青筋を浮かべたクイーンが俺を待ち受けていた。


(すごく機嫌が悪そうだが、アネモネとミントに行くことは納得してくれていたはずだ。いったいどうしたんだ?)


「貴様に面会だ。エルフの美少女七人だ。貴様はミントに行ったのではなかったのか? いったい貴様は何を考えているのだ?」


「いや、全然思い当たる節が……」


「私も同席するぞ。貴様が良からぬことをしないよう見張らないとな」


「はあ、それは構わないですが、私にも何が何だか。エルフに知り合いはいないですよ」


 エルフたちが応接室で待っているというので、すぐにクイーンといっしょに応接室に向かった。ちなみに俺はエリザに憑依している。


 応接室に入ると、七人の高校生か大学生ぐらいの美少女が、太もも丸出しのミニスカートにパンプス姿で整列していた。しかも、全員が恥ずかしそうに頬を赤らめている。絶景過ぎる。


「お前たちっ! 足を隠せっ。この館で破廉恥な真似は許さんぞ」


 クイーンがものすごい剣幕で大声を出した。突然の大音量に俺はびっくりしたが、美少女たちは落ち着いていた。


「私たちは不死王陛下からの使者です。ボーン様のお国では、この姿が正装とお聞きしております。ボーン様に礼を尽くすことをお許しください」


(不死王の使者!?)


 七人の真ん中の女性が、はっきりとした口調で自己紹介をした後、カーテシーのような礼をすると、他の六人も一斉に同様の礼をした。


 エルフ式の礼は、宣誓するときのように右手のひらをこちらに向けて肩の高さに上げ、左足を少し後ろにずらして左膝を少し曲げた後、上半身を真っ直ぐにしたまま、両膝をちょこんと曲げてから元に戻すというものだった。


 この可愛い動きを美少女七人に綺麗に揃えてやられると、世のオヤジの100人中100人が、目じりが緩み、鼻の下を伸ばすに違いない。当然、俺も思わず一緒に挨拶しそうになるほどで、心は完全にとろけてしまっていた。


(顔がキレイすぎるし、スタイルがよすぎるし、何と言っても美脚すぎる!)


「貴様の国はジープンだろう。アジアで売り出し中の国だったはずだが、こんな破廉恥な正装なのかっ」


 やばい、クイーンがマジギレしている。クイーンの前世の出生国であるタイは、敬虔な仏教徒の国で、女性の肌の露出にはかなり厳しかったはずだ。しかも、百年以上前なので、こっちの世界と変わらないレベルに違いない。


「いや、何かの誤解です。正装はあれです、シスターボーンの格好が正装ですっ。足はほとんど隠れています。エルフの皆さん、すいませんが、足を隠してくれますか」


 俺は真ん中のエルフに懇願した。


「ボーン様がそうおっしゃるなら……。みんな、裾を延ばして」


 変わったスカートだった。真ん中の女性の掛け声で、スカートの中からシースルーのレースのような布が出て来て、太ももの膝上まで隠したようで……。いや、全く隠していない! 逆にエロさが増してしまっている!


「き、貴様、おちょくっているのか! もっと破廉恥になったではないか」


「いや、俺の演出ではないですよっ。ねえ、エルフさん、すいませんが、きっちりと隠して頂けますか」


 エルフたちは戸惑い顔だが、全員から頑張って足を出している覚悟が伝わってくる。恥ずかしいけど無理しているのだろう。


(こ、これはたまらん……。理性がぶっ飛びそうだ)


「そうですか……。ボーン様がお悦びになると、不死王陛下からのお心付けでございました。では、みなさん、腰布を着用しましょう」


 ようやく全員が落ち着いた感じになった。俺も何とか落ち着いた。


「エルフのみなさん、お座りになってください。でも、俺がボーンだとよく分かりましたね」


「美しい女性の姿をされていると伺っておりましたので。あ、申し遅れました。私はイブと申します。今回のセンターを務めさせております。王国語が話せるのは私だけです。他の六人には私から思念で同時通訳をしております」


(「センター」っていうんだ……。まるでアイドルグループみたいだな)


 イブしか話せないのに、何で七人で来たのかよくわからないが、全員、揃いも揃って、サーシャ並みの美貌だ。長いと聞いていた耳も、完全に髪の毛に隠れていて、人間とほとんど変わりない。


「それで、不死王さんからの使者の方々とのことですが、どのような御用でしょうか」


「少々お待ちください。不死王陛下がテア経由でお話させていただくそうです」


 レセプトで不死王から念話を受信したのだろうか。イブが右隣の女性の方を指してそう答えた。しばらくして、テアと呼ばれたこれまた美しい娘が話し始めた。


「ボーンさん、不死王です。ご無沙汰ですね。イリュージョンではなく、憑依されているのですか?」


 声はかわいい少女の声だったが、話しているのは不死王のようだった。

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