第68話 不死王との対談

 不死王が話し始めた。


「ボーンさんのお隣の方はどなたでしょうか?」


「フランソワだ、このすけべじじいっ!」


(フランソワさん、荒れているなあ)


「フランソワか。すけべじじいというのは誤解だ。ちょっと素直になってもらっただけだ」


 不死王を代弁するテアが冷静に返答した。この娘も見れば見るほどキレイだ。


「スケルトン、こいつと話しても碌なことはないぞ」


「そう言うな、フランソワ。過去のことは水に流して、未来を語ろう」


 テアがクイーンを逆撫でするようなことを言う。きっとわざと言っているに違いない。それにしても俺には丁寧語で、クイーンには上司口調なのは、何だか調子が狂う。


「不死王、貴様がそれを言うなっ」


 この二人は相当仲が悪い。俺が割って入ることにした。


「フランソワさん、ちょっと落ち着きましょうよ。エルフのみなさんがびびってますよ」


「ふん、そもそも何でエルフにこのような破廉恥な格好をさせているのだ?」


「ボーンさんの前世の記憶に、歌って踊る女性七人グループがいるのだ。それをさらにグレードアップさせて、エルフの娘たちのユニットをプロデュースしてみた。もちろん、ボーンさんに喜んでもらうためだ」


 これ、十年以上前に流行った韓国の何とか時代ってやつだ。美女が七人も出て来て、独特のダンスで美貌と美脚を見せまくるのが衝撃的だった。


「不死王さん、俺の記憶を?」


「ええ、じじいのたった一つの楽しみなんです。無断で覗いたことは許して下さい。ボーンさんのお国はエロ大国です。様々な快楽に溢れていて、感心しました」


「でも、俺の記憶は消えてませんが」


 記憶は盗まれるんじゃなかったのか?


「消えないですよ。ああ、あの事件ですね。前世の記憶なんて持っている方がおかしいでしょう? ですので、覗いたことがきっかけで、消えてしまったのです。それで人を死なせてしまいまして、その後、消えないやり方を見つけたのです」


 やっぱりアメリカ人は死んだのか。


「あれですか。憑依したときに記憶を共有するあの感じですか?」


「そうです。その通りです。記憶だけに憑依する『憶憑』というスキルです。難度は高いですよ。ここ数千年このスキルを持っているものを見ていませんので、今はもう絶滅したんじゃないですかね」


 すごいスキルだな。不死王は他にも伝説的なスキルをたくさん持っているんじゃないのか? そもそも霊体はどこにいるんだ?


「不死王さんは、今、どちらにいらっしゃるのです? 今朝、ミントのダンジョンにお会いしに行ったんですよ」


「エルフの国です。アンデッド軍団を雇ってくれるという話がまとまりましてね。ボーンさんにもお願いしていたアンデッド軍団の売り込みですよ。私の手下にも営業させてまして、このたび、無事成約となったのです」


 霊体はエルフの国にいるのに、王国の媒体経由でコミュニケーションできるのか。まるでテレビ電話だな。それはいいとして、手下って、そうか。


「ひょっとしてして、手下の方って、ヴァンパイアですか?」


「そうです。ご存知でしたか。取引先がエルフに決まりましたので、人間界に貸し出しているアンデッドは回収します。それで、今日ですが、ボーンさんをスカウトしに来ました」


「え? 俺をですか?」


「はい。ボーンさん、エルフ側につきませんか? こんな美少女が、それはもうたくさんいますよ」


「不死王さん、エルフに味方して、人間を攻めるのですか?」


「今はエルフの森林大陸にいる人間を排除するところまでの契約です。その後は、人間を攻める予定ですが、ボーンさんと私がやり合うと、私たち以外、全員死んでしまいますよ。それはさすがに面白くないでしょう」


「人間との協調路線はどうしたんです?」


「エルフが先に手を挙げたので、エルフとの協調路線で行きます。人間の封印からはエルフが守ってくれるはずです」


「俺も封印出来ますよ」


「『ダークシール』ですよね。それ、女性しか封印できません。魔法って、その人の性格がよく出るんですよ。ボーンさんが根っからのスケベで助かりました。男なんて封印したくないでしょう?」


 図星だ。男なんて、触りたくもない。


「まあ、そうですね。それで、俺と不死王さんは、アンデッド同士だから、決着がつかないってことですか?」


「ええ、そうです。でも、ボーンさんのお仲間は怖いです。特にサーシャさんにはオシッコちびりそうです。ですので、ボーンさんとは敵にはなりたくないですね。あんな怖い従者たちと戦いたくないですから」


 リズも聖魔法が使えることは知らないんだな。黙っておこう。


「不死王さんが人間に手を出さなければ、お互い戦う必要はないですよ」


「人間よりもエルフの方が見目麗しく、美しい状態の時間も人間より遥かに長いです。エルフの方に来ませんか?」


「おい、スケルトン、人間を裏切るなよ」


 クイーンが介入して来たので、不死王がすかさずクイーンを牽制した。


「フランソワは黙っていろ。我々にとっては、人間でもエルフでも、どっちでもいいではないか」


 クイーンはすぐに反論した。


「私もスケルトンも元人間だ。人間の方に愛着がある」


「それはフランソワの考えだ。ボーンさんは美しいものに愛着がある。エルフの方が人間よりも圧倒的に美しいぞ。この七人に勝る美女は人間界では数えるほどだろうが、エルフのなかでは彼女たちが平均だ」


(マジか。こんなのがゴロゴロいるってこと?)


「不死王さん、俺の従者やフランソワさんの従者など、人間にはすでに愛着のある人たちがいるんですが、そういう人たちの待遇はどうなります?」


「人間を全滅させるつもりはないです。ちょうど今と反対で、エルフが人間の大陸を植民地化しますので、ボーンさんの関係者の方々は、名誉エルフとして、人間界に君臨すると良いです」


「フランソワさん、これって、いい条件ですかね?」


 俺は一応クイーンに意見を聞いてみた。


「貴様の想い人に話してみろ。一瞬で嫌われるぞ」


 クイーンがアネモネの名前は出さないようにしてくれているが、クイーンの記憶は不死王にはダダ漏れのような気がする。俺の記憶は大丈夫そうだ。


「俺もそう思います。不死王さん、俺、人間側につかないとダメなんですよ」


「あちゃあ、そうなりますか。じゃあ、殺すとボーンさんが怒る人を教えてくれますか? その人は殺さないようにします」


「スケルトン、教えるなよ。不死王は真っ先にそいつらを殺すぞ」


「フランソワ、相変わらず視野が狭いな。そんなことして、いったい私に何のメリットがあるのだ。ボーンさんと私が戦っても、誰のメリットにもならない。お互いにできるだけ矛を交えないようにすべきなのだ」


 それはそのとおりだ。俺、不死王とは何だか馬が合うんだよな。そうだ、もう一つだけ聞いておこう。


「不死王さん、一つ聞きたいのですが、『人魚のネックレス』って、持っていると不死王さんの家来になるようになっているんですか?」


「そんな効果はないです。人を数分間魅了する効果があると説明したと思いますが、それ以外の効果はないですよ」


「あれを持っていると不死王陛下と呼びたくなるんですよ」


「それはボーンさんが、私に恩を感じたからではないですか? 勇者は恩に敏感だと聞いてます。結構役に立っているのではありませんか? このまま持っていて頂いて結構ですよ」


「不死王さん、とりあえず、エルフの独立までということですよね。出来るだけ私は手を出さないようにしますが、手を出したら、どうなるんですか?」


「私がボーンさんのお相手をすることになります。従者の方は参加させないでください。真っ先に狙わないといけないので。我々だけであれば、決め手がないまま引き分けです」


 アンデッド軍団にとって、最も恐ろしいのは聖女だ。アネモネ、サーシャ、マーガレットが標的になるということか。


「結論は急がずに、少し考えてみて下さい。この七人は置いていきます。好きに使って下さい。私と連絡を取りたいときには、彼女たちに言ってください。グループ名は『エルフ時代』です。では、またお話ししましょう」


 不死王はテアから離れたようだ。


 やはり韓国のあのグループがベースだったか。俺の性癖を知り尽くして、接待攻撃をしてくるつもりか。アネモネに恋してなかったら、簡単に落ちていたところだ。不死王、手強いな。俺の急所を熟知している。


「おい、スケルトン、まさか奴に手を貸すのではないだろうなっ」


 クイーンは不死王が関係すると感情的になるようだ。「人魚のネックレス」を使われたことが、よほど腹に据えかねているんだろう。旦那命の人だから。


「エルフたちの前では、あまりシリアスな話はしない方がいいですよ」


「む、その通りだ。貴様、冷静だな。で、この娘たちはどうする?」


「放り出すわけにもいかないでしょう。メイド棟で生活してもらいましょう」


 俺の役に立てと言われているみたいだから、語学、料理、経営のスキルを付与して、日本料理レストランとタイ料理レストランのオーナーにでもしてみるか。美人だと仕入交渉を有利に進められるかもしれないからな。

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