第39話 スケルトンクイーン

 修道院で出迎えてくれたのは、シスタークレアという二十代と思われる美人だった。


(リズの孤児院とはえらい違いじゃないか。次々に美人が現れる。これぞ俺のイメージしていたシスターたちだ!)


 三人の美女に囲まれて、俺は院長室に通された。なんとシスターテレサは、この「ミント修道院」の院長だった。この修道院は特別な施設で、悪魔祓いエクソシストのシスターたちの拠点となっているらしい。


 院長室に入るなり、シスタークレアが話しかけて来た。


「スケルトン、また会うだろうと思っていたぞ」


(え? シスタークレアがクイーン?)


「サモン、ヴァンパイア、ハウント。ボーン様、バロン伯爵に憑依をお願いします」


(こいつ、バロン伯爵というのか)


 俺は再び色気漂うイケメン吸血鬼に憑依した。


「あの、人間になられたのですか?」


 俺は勧められたソファに座って、クイーンに話しかけた。


「これか? 人間に憑依しているのだ。もちろん本人の同意は取っているぞ」


 クイーンも対面のソファに腰掛けながら答えた。ミントの聖女とテレサはクイーンの後方に立って控えている。


「『魂の契約』ですか?」


「スケルトン、貴様……、愚か者め、聖魔女に騙されおって。ということは、あの女、不老化したのか?」


「ええ、しましたが、騙されたというのは?」


 クイーンは舌打ちした。


「『魂の契約』は、魔女がアンデッドと結ぶ契約だ。貴様は奴隷商を殺して追われていたのではなかったのか。『不老』のスキルを取らされるのに利用されて、用済みになったから浄化されそうになったのか?」


「仲間になるよう誘われたのですが、お互いの思想に溝がありまして、浄化されそうになったので逃げたのです」


 クイーンが俺をじっと見た。鑑定が来ると感じて、俺は抵抗した。


「むっ、鑑定を阻止できるようになったか。以前はまる見えだったが、進歩しているのだな。ちゃんと見せてみろ。そうだな、礼儀を示すか。先に私のを見ていいぞ」


 俺は遠慮なく鑑定した。


 スケルトンクイーン レベル 21289

 魔法 忍術S、死霊S

 技能スキル:無痛、復活、鑑定、索敵、迷彩、

    無音、跳躍、俊足、集音、変態、

    毒針、怪力、複眼、触覚、操糸、

    蛍光、営巣、蜜蝋、集蜜、王乳、

    人形、悪魔、剣術、拳闘、槍術、

    憑依、算術、契約、偽装、魅了、

    商才、格納、簿記、行商、馬術、

    語学、霊感、離脱、潜水、合成、

    裁縫、掃除、計算、洗濯、炊飯、

    授与、水泳、演奏、歌唱、営業、

    催眠、秘書、説得、霊視、投擲、

    読唇、霊聴


 最後に見たときはレベル1000だったはずだ。あれから一ヶ月足らずしか経っていないのに、アネモネを凌ぐレベルになっている。魔法はアネモネと同じ表記だ。レベルにも驚いたが、人間系のスキルが多いことに驚いた。


「人殺し?」


「物騒なことを申すな。私はまだ一人も殺してはいない。無論、必要があれば殺すがな。スキルはダンジョンの魔物と悪魔から取得したものだ。では、貴様のステータスも見るぞ」


「どうぞ」


 スケルトンナイト レベル 2153

 魔法:マップ、フレア、デス、ホラー、

    イリュージョン、デュアル、チャーム

 技能スキル:無痛、復活、剣技、拳闘、鑑定、

    迷彩、跳躍、俊足、無音、索敵、

    集音、投擲、解錠、裁縫、刀技、

    忍術、変態、触覚、毒針、怪力、

    複眼、操糸、蛍光、営巣、蜜蝋、

    集蜜、王乳、石人、水筒、槍術、

    算術、算盤、計算、記憶、簿記、

    睡眠、格納、交渉、行商、販売、

    仕入、説得、契約、商魂、授与


「むっ、『授与』を取得しているではないかっ!」


 クイーンの鼻息が荒い。


「はあ、これ、よくわからなかったのですが」


「貴様、聖魔女に鑑定されたか?」


「あ、はい。鑑定の抵抗の仕方を訓練したときに。でも、抵抗が上手だと言われました」


 クイーンがため息をついた。


「貴様、騙されまくりだな。あんな下手くそな抵抗ではほとんど丸見えだ。だが、運がいいな。恐らく最後の『授与』は見られていないのだろう。見られていたら、こんなにぬるい追跡では済まされないはずだ」


「あの『授与』って?」


「貴様が取得したスキルを他者に与えることができるスキルだ」


「え? マジっすか!?」


「相手が受領可能なスキルしか授与できないがな。授与したスキルは貴様からはなくなるが、再取得すればよい。『授与』のスキルは激レアだ。うーむ、アンデッドのスキルを奪えるなら、今、この場で貴様を浄化するのだがな」


 アンデッドのスキルは奪えないのか。「授与」ってすげえな。でも、他人にスキルを与えても仕方ないから、与えるとしたら従者だろう。従者をもっと増やそうかな。クイーンの従者は何人いるんだろうか。


「聖女さんもテレサさんもフランソワさんの従者ってお聞きましたが、他にもいらっしゃるのですか?」


 あれ? 変なこと聞いたのか? なんか気まずいぞ。


「……あと一人、不肖の残念従者がいる。まさか、ああなるとは。ちょっと失敗したのだ。貴重な従者三人枠をあのような者に与えてしまうとは……」


 従者は三人までなのね。でも、誰なんだろう。


「そ、そうなんですか。でも、全員、レベルが二万超えって、すごいチームですね」


「? 何を言っている。二万越えは私だけだ」


「え? 経験値はチーム間でお互いにコピーされますよね」


「コピーではなく、シェアだろう。従者の経験値は主人が吸い上げることが出来るだろう? 私は従者たちが人間界で目立たぬように、従者たちの経験値を吸い上げて調整しているぞ」


「いいえ。コピーです。経験値は全部私に集まって、それが三人にコピーされます。私が子供たちと別れて、一人だけで戦って得た経験値も子供たちにコピーされますし、逆に子供たちだけで戦って得た経験値は私にコピーされます」


「何だそれは。まるで伝説に出てくる勇者のパーティと同じではないか。貴様、まさか……!?」


「フランソワ様、この方、ひょっとして、教会が召喚に失敗したという勇者様では?」


 シスターテレサの指摘にクイーンが頷いている。事情がよくわからないが、俺って、勇者召喚されたのか?


「召喚自体は出来ていたのかもな。貴様、いつからこの世界にいる?」


「二カ月ほど前です」


「間違いないな。皮肉なものだ。アンデッドの天敵がアンデッドに降りるとは」


 ミントの聖女が俺とクイーンの間に割り込んできた。


「フランソワ様、今のうちに浄化した方がいいのでは? この骸骨、危険すぎますっ」


 ミントの聖女が今にもホーリーを唱えそうな勢いで、俺は思わず胸の「人魚のネックレス」を握りしめた。模造品だが……。


「まあ、待て。確かに危険だが、味方にできればこの上なく頼もしいぞ。それに、少なくとも聖魔女とは敵対しているのだからな。聖魔女の敵を我々が葬ってどうする?」


「それも、そうですね。失礼しましたっ」


 ミントの聖女は引き下がってくれた。


「それに、こやつ、おぞましいものを持っておるしな」 


 クイーンが「人魚のネックレス」をちらっと見た。


「エッチアイテムですねっ」


 聖女はさっきもそんな言い方していたな。このまま黙っていたら、大人のおもちゃになってしまう。ここは否定しておくべきだろう。


「エッチアイテムって……。そんな目的で使わないですよ」


「私は不死王にそれを使われて、封印の解き方をしゃべらされたのだ。あんな不埒な男に恋心を持たせられ、おぞましいったらなかったぞ。だが、あの男は浄化不能で、封印するしかないのだ。忌々しい男だ」


 クイーンは嫌悪感を隠さず、吐き捨てるように話した。


(不死王陛下、無茶するなぁ。ちょっと待てよ、アネモネも怒ってるんじゃ……。セフィロス、グラドル、スケルトンで三回も使っているぞ)


 あまりホイホイ使うのは控えよう。


「俺を浄化しようとさえしなければ、使いませんよ。不死王陛下からお守りとして頂いたんです」


「貴様、あのような男と手を組むとは。さすがロリコンの変態だけあるな」


「フランソワ様、私も見ましたっ。シスター風の奇妙な服を着たちょっとエッチな女に化けるのですよ、この骸骨はっ。気持ちが悪いっ」


 何で俺は美女三人から汚物を見るような目で見られなきゃならないんだ。


「ふん。貴様の性癖はさておき、能力は超優秀だ。聖魔女に簡単にやられないように、私たちが鍛えてやる。従者も守ってやるぞ。しばらく我々と行動を共にしろ」


「……はい、分かりました。よろしくお願いします」


 俺に断わるという選択肢はなかった。俺はリズに思念を残した。


(リズ、俺はスケルトンクイーンに保護されたので安心してくれ。王都に着いたら、お前たちは予定通り、まずはレイモンド侯爵家に行ってくれ)

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