第45話 郊外の館

 無事に下宿を引き払った俺は、郊外の館に引っ越した。


 貴族の別荘だっただけあって、かなり大きい。


 一階の玄関を入ったところは大きなホールで、その奥にアホかと思うほど広いリビングがある。玄関から見て、リビングの左がこれまたバカでかいダイニングで、その奥に厨房がある。右はよく分からないのだが、恐らくダンスホールだ。


(いったい誰が踊るんだよ……)


 玄関ホール横の階段を上った二階にメインの寝室が一つとサブの寝室が三つ、客室が三つの合計七つも寝室がある。バスルームが全ての寝室に併設されていた。そのほか、書斎、会議室、使用人の詰所などがある。


(どこが丁度いい物件だよ。独身女が住むには広すぎだろ。七億もしたんだぞ。まさか、クイーンたちも住むとか言うんじゃないだろうな)


 家具も生活用品も備え付けのものでしばらく大丈夫そうだ。足りないものはおいおい揃えて行くとして、今日は奴隷商人のところに行く必要がある。奴隷少女五人を引き取るためだ。


 殺して奪うと目立つので、普通に購入して、しばらくしてから、物取りを装って、奴隷商人を殺して金を奪い返すつもりだ。


(ここの代金も早く奪わないとな)


 王都までは走って行く。毎日ウェイトトレーニングも行って体づくりをしているため、たった二日ではあるが、かなり体つきが変わってきた。「変身」のスキルの恩恵だ。


 奴隷商人の店に入ると、店主は俺だと気づくのに少し時間がかかったようだ。


「レイモンド侯爵様のお使いのお嬢さんですよね? 先日お会いしたばかりですが、随分と痩せましたね」


「ちょっとした魔法です。では、こちらが代金です」


 俺は胸から2400万円を取り出した。奴隷商人は特に表情を変えることなく、現金を受け取った。


「はい、確かに。商品はどのようにお渡しすればよろしいですか」


(少女たちを完全に商品として扱っているな)


「馬車をお借りしたいのですが」


「ああ、では、サービスで差し上げますよ」


 俺は奴隷の少女たちを檻付き馬車ごと手に入れた。檻にフードをかければ、体裁も悪くない。


「また、よろしくお願いします」


(お前に「また」はないさ)


 奴隷商人の声に送られて、俺は馬車を動かした。俺には「乗馬」、「御者」のスキルがあるので、余裕で馬車を扱えるが、いいことを思いついた。「御者」のスキルを少女にも授与して、御者をして貰えばいいのだ。


(そうだ。掃除、洗濯、料理も、スキルを与えて、やって貰えばいい。手に職をつければ、外でもメイドとしてやっていける。性奴隷よりはマシだろう)


 俺は王都を出たところで、馬車を停めて、少女たちに説明した。


「お前たちは私が買ったが、奴隷としてではなく、自由市民として、館で働いてもらう。エッチなことはしなくていい。奴隷解放の手続きもする。一年間は無給で、身請け代分働いてもらうが、一年後からは給金を渡す」


 少女たちは信じられないという表情だったが、目に希望の光を灯していた。


「それで、全員に御者、掃除、洗濯、料理のスキルを覚えてもらう。いいな?」


 これらのスキルは難易度が低く、四つ合計しても10のため、無事、全員に授与することができた。


(よかったあ。これであの広い屋敷の家事を彼女たちに任せることができる)


 一緒に暮らすことになるが、女同士だし、間違いはないだろう。


(まるで職業訓練校だな。人材育成して派遣したら、儲かるんじゃないかな)


***


 数日後、突然、クイーンたち三人が館にやって来た。


 出迎えた五人のメイド少女たちを見て、クイーンが目を見開いて叫んだ。


「だ、誰がロリコン館にしろと言った!」


「フランソワ様、やはりこの骸骨は浄化すべきですっ」


「フランソワ様、本当にこんな変態と一緒に住んで、大丈夫なのでしょうか!?」


 何なんだ、この人たちは。いきなり人の家に押しかけてきて、罵詈雑言の嵐を浴びせるとは。


「少女たちを助けただけですよ。それと、こんな広い屋敷、メイドがいないとメンテできないですっ。それより、一緒に住むって何ですか。聞いてないですよっ」


「貴様、放っておくと、すぐに未成年女子を集めるのだな。習性か何かなのか? いずれにしろ、とんでもない奴だっ」


「彼女たち、十五ですよ。成人ですよ」


「私のルールでは十八歳が成人だ。こんな子供のような少女たちのどこが成人かっ」


「そのまだ子供のような少女が、王都の歓楽街で性奴隷として陳列されていたんです。それで、見るに見かねて、買い取って来たんですよ。売ってた奴隷商人はこれから殺しに行くつもりですがね」


「む、それらしいことを言うではないか」


「いや、それしかないですって。それで、今後、彼女たちが独り立ち出来るようにと、メイドスキルも授与したんですよ」


 どうやら分かってくれたようだが、それでホッとして気を緩めたのがいけなかった。


「どれどれ、鑑定して……、き、貴様、何というスキルを授与しておるのだっ」


「ひっ、人でなしっ」


「は、破廉恥です」


 Aの札のスキルとSの札のスキルを見られてしまった。


「ち、違いますっ。それは奴隷商人が覚えさせたスキルですっ。俺じゃないですよっ」


 俺は少女たちに証言してもらい、ようやく三人の疑いを解いたのであった。


 誤解を解いたにも関わらず、俺はメインの寝室を追い出された。クイーンがメインの寝室を、マーガレットとテレサがその両脇のサブの寝室を使い、残りのサブの寝室をメイド少女が五人でシェアすることになった。


 俺は二階への立ち入りを禁止され、格納に放り込んであった汚い下宿から持ってきた生活用品を一階のダンスホールにぶちまけ、そこで生活することになった。


(まあ、ここも悪くはないか。さて、奴隷商を殺しに行くか)

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