第81話 懐かしの我が家

 念のため、アネモネにも思念を送ったが、アネモネはリズと違って、レセプトを常時発動している可能性は少ない。人格を魔女に変える必要があるためだ。


 ルカにはすぐに連絡がついて、クイーンともルカを経由して話が出来たが、アネモネは、三カ月ほど前に学園長を辞めた後、行方をくらましているらしい。サーシャたち聖女隊にもずっと連絡がない状態のようだ。


 リズ、アリサは随分と俺のことを心配していたらしいが、二人の状態が従者ではなくなっても、勇者の使者ではあったため、何処かにいるだろうということで、クイーンが学業を続けるようにと説得してくれたようだ。


 次にシルビアに連絡をとり、シルビア経由でカレン王妃と話をしたところ、アネモネが、もし、俺が現れたら、渡して欲しいと書き残した手紙があるそうだ。


 いつか連絡しようと思いつつ、延ばし延ばしにしていたのだが、思った以上に心配をかけてしまっていたようだ。


 アネモネの手紙を早く読みたいので、王宮のカレン王妃のところに行きたいところだが、クイーンがまずは館に戻って来い、と相当お怒りのようで、先に館に行くことにした。


 館に帰ると、ルカが玄関前で待っていた。


「お兄ちゃん、お帰りなさい」


「ただいま」


 玄関を開けたところで、リズ、アリサ、サーシャが抱きついて来た。


 疎遠になってしまったのではないかと思っていたのだが、杞憂だったようだ。


「おじさん、従者の再契約をして下さい」

「パパ、従者契約!」

「おじさま、従者契約をお願いします!」


 三人三様で口々に従者契約したいと言って来たが、ちょっと待って欲しい。たった半年なのに、三人とも随分と感じが変わってしまっているのだ。


 一番激変していたのが、リズだ。ゴボウのように痩せ細っていたのが、見違えるようになっている。色もびっくりするほど白くなり、清楚なのにエッチなボディになってしまっている。


(とてもリズとは思えないな。ああ、リズはずっと子供のままでいて欲しかったなあ。第二性徴期の威力、半端ねえな)


 アリサは怖いほど妖艶になっているし、サーシャはすっかり大人の女性の顔になって、完璧な美人になってしまった。


「おお、もちろん再契約するが、ボーイフレンドとか大丈夫なのか?」


「あんなの気にしなくていいです。大丈夫です」

「そうだよ。パパが帰って来たらお終いって言ってあるし」

「聖女は男子禁制ですわ。私はずっとおじさま一筋でしてよ」


(リズとアリサにはボーイフレンドがいるのか……。いないと心配だが、いると腹立つなあ)


「スケルトン、ルカ様から事情は聞いたが、誰かに連絡をさせるとか、出来ただろうが。レストラン経営やら人材派遣やら、全部放り投げて行きおって」


 クイーンもホールに出て来た。事業のことは、クイーンが随分と面倒を見てくれたとルカから聞いていた。


「フランソワさん、色々とありがとうございました」


「片手間にやっておいただけだ。気にするな」


「骸骨さん、フランソワ様は二十四時間仕事漬けだったのよっ。気にしてねっ」


 マーガレットもホールに顔を出した。


「はい、ルカから聞いてます。テレサさんは?」


「ここにおりますわ、ボーン様。ご無沙汰ですわ」


 イメルダとステーシア先生もリビングから顔を出して、手を振ってくれている。


 メイド少女たちも俺の顔を見に来ては、会釈して去って行く。


 皆が俺を歓迎してくれている。俺は感無量だった。


(しかし、本当にこの館には女しかいないな。今日の夜はいまだに枢機卿になれないクラウスをラウンジに連れて行ってやって、レイモンドたちとぱあっとやるかな)


 と思ったが、レグナのボディがないと面白くない。というか、俺はアネモネに会いに来たんだ。すぐに快楽に流される癖は本当に何とかしよう。


「スケルトン、聖魔女だが、王太子のチャームを解いたぞ」


「え? そうなのですか?」


「カレンのところに行くのであろう。詳細はカレンに聞くのだな。これから、また我々とは毎日会えるのであろう? 早くカレンに会って来い」


「ええ、またレグナ先生やるつもりですから。それでは、ちょっと行って来ます」


***


 カレン王妃との面会はすぐに許可が下りて、王妃の住まいである鳳凰殿へと案内された。


 応接室に通されて少し待っていると、カレンとシルビアが現れた。


「カレン王妃、ご無沙汰しております。シルビアも久しぶり」


「ボーンさん、本当にご無沙汰ね。突然、霊体が消えて、連絡が取れなくなって、たいそう心配したのよ」


「お兄様、いろいろな方々にご迷惑をおかけしてましてよ」


「すいません。天使の人格は俗世のことがどうでもよくなるようでして……」


「プリシラから、リズさん、アリサさんが勇者の使徒のままでいると聞いて、安心はしていたのだけれどね」


「そうでしたか。アネモネも知っていたのでしょうか」

 

「ええ、サーシャさんから聞いていたみたいよ。預かっていた手紙を渡すわね」


「ありがとうございます」


 俺は手紙を開けて苦笑した。


「どうしたの? 面白いこと書いてあった?」


「ええ、まあ。待っているそうですので、会ってきます。ところで、王太子殿下のチャームを解いたとか」


「ええ、うちの王子ね、サーシャさんに惚れてしまって、どのみちチャームが解けるのは時間の問題だったのだけれどもね。何とあの聖魔女が私に謝ったのよ。最初は何かの作戦かと思ったわ」


「サーシャに?」


「ええ。太王太后様の差し金よ。息子の好みにぴったりの女の子だから、サーシャさんは。ただ、聖魔女はそれとは関係なくチャームを解いて、自分の政策が誤っていたと認めたわ。植民地政策が最悪だったとね」


「ドワーフの独立が簡単だったのはそれが理由だったのですね」


 アンデッドでなくなっても、不死王と俺は、二人でドワーフの解放は行っていたのだが、エルフのときとは違って、人間はあっさりと撤退して行った。


「王と法王はこのままチャームしたままで、後始末をさせると言っていたわ。不明点は私に聞くようにと命令していったの。いい迷惑よ」


 そう言いながらもカレン王妃は嬉しそうだった。


(この人、笑うとこんなに可愛らしいんだっ)


「お兄様、さあ、アネモネ様のところに行ってあげて下さいな」


「そうだな。それでは失礼します。また、学園に戻るつもりです」


 俺はアネモネの待つミントのダンジョンへと向かった。アネモネの手紙にはこう書いてあった。


「レグナは預かった。返して欲しければ、ミントのダンジョンまで来い」

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