第47話 聖女教育の始業式
―― サーシャ視点
今日からいよいよ聖女教育が始まる。
朝9時から始業式で、主席合格の私が、二年生、三年生の先輩方に挨拶をすることになっている。
原稿を読むだけなので、これはどうってことはないのだが、来賓に王太子さまがおいでになるということで、気が重くなっている。
一昨日、クイーンのお姉さまから依頼を受けた王太子さまのチャームを解く件だが、一朝一夕には出来ないそうで、地道に少しずつ解除していく必要があるらしい。
その最初の第一歩が、今日の聖女候補の始業式で、王太子さまに私を印象付けて欲しい、というものであった。
(どうすればいいのかしら。新入生の挨拶だけでは足りないかしら)
もちろんお姉さまにも質問したのだが、普段通りにしていれば大丈夫、とのことだった。
こんなに気が重くなるのであれば、このような仕事は受けなければよかったのだが、お姉さまの過去を聞いてしまった後では、とても断れなかった。
(楽しいことを考えよう。昨日は楽しかったわ)
昨日、リズさんとアリサさんが宿舎に来てくれたのだ。
二人は先日からレイモンド侯爵家に滞在しているが、今日から学園の宿舎で生活を始めるらしい。二人が通う学校は貴族のお嬢様学校らしく、少し緊張していて可愛かった。
毎日おじさまから伝言はあるものの、まだ院長の手下の監視を警戒して、おじさまとは会えないとリズさんが嘆いていたので、おじさまがクイーンのお姉さまたちとこの近くに住んでいることを教えてあげたところ、すでに知っていた。
おじさまの最近の伝言は愚痴ばかりで、早く私たちに会いたいそうだ。リズさんは、おじさまからの伝言を全てメモしてくれていて、私は一つ一つ楽しく読ませてもらった。
私は新たに「鑑定」と「格納」が使えるようになっていた。「鑑定」の抵抗の仕方、「偽装」の詳細な使い方も細かく書いてあった。
一番驚いたのが、私たちがおじさまの「従者」なのだということ。今まで孤児で家族のいなかった私に、本当の家族以上の絆が出来きて、とても嬉しかった。リズさんとアリサさんもとても喜んでいた。
親子でもなく、恋人でもない説明が難しい関係だったが、関係に名前がつくことで、確かな絆としての実感が湧いて来て、とても温かい気持ちになった。
私からは、クイーンのお姉さまと院長との因縁を話した。二人は驚いていたが、リズさんは何となく分かると言っていた。
三人集まると話が尽きず、とても楽しかったが、私たちの話をいつもうるさそうに聞いているおじさまがいないのが、寂しかった。
さて、始業式だ。
支給された薄いピンクのローブに着替えて、宿舎から少し離れた講堂に入ると、在校生と新入生がほぼ揃っている感じで、来賓の方々が少しずつ来られているところだった。
座席表は事前に配られており、それに従って私は自分の席についた。隣のマリアンヌはまだ来ていない。
来賓席には現役の聖女様のうち何人かがすでに座っておられた。ミントの
聖女さまがウィンクしてくれたので会釈した。
講堂の入り口が騒がしくなった。王太子さまが王都の聖女さまとご一緒に入られるところだった。マリアンヌも王都の聖女さまの後ろに見えた。
(王太子さま、イケメンだわ。セフィロスに似ているわ)
私はおじさまと手を繋いだときのことを思い出した。
(ああ、早くおじさまに会いたいわ。今は女性に憑依しているとお姉さまは仰っていたけど、おじさまはやはりセフィロスがお似合いだわ)
少し王太子さまを見つめすぎていたようで、目が合ってしまった。慌てて目をそらしたが、それ以来、王太子さまが私をよくご覧になっているような気がするのは気のせいだろうか。
「まあ、王太子様ったら、私の方を見ていらっしゃるわ」
いつの間にかマリアンヌが座っていて、彼女の隣の子にそんなことを話していた。
「マリアンヌ、王太子さまとお知り合いなの?」
私が話しかけると、マリアンヌが待ってましたとばかりに話してきた。
「そうよ。あなた、この間はよくも私を殴ったわね」
「あなたが先に殴ったのでしょう? 殴られたら殴り返す。それだけですわ」
「ふん。いつまでもいい気になっていられると思わないでよ。王太子殿下は私の従兄弟なの。私のお母様のお姉様が王太子殿下のお母様ですのよ。どう? お前とは住む世界が違うのよ」
「本当ですこと。それで、また、私にそんな憎まれ口をきいて、私に殴って欲しいのかしら」
「な、なんでそうなるのよ。高貴な私に手を出したら、ただでは済まないわよ」
「関係ございませんわ。気に入らないものは徹底的に殴りますのよ。私には世界最強の義父がおりますの。怖いものなどございませんわ」
「そんなこと言っていられるのも今のうちよ」
「うるさいですわね。一発殴って黙らせますわ」
私は高速でマリアンヌの顎を掠めるようなパンチを出し、脳をゆらして失神させた。
「隣のあなた、マリアンヌさんが眠ってしまわれたわ。キュアをかけて介抱して差し上げて」
「あ、は、はい」
マリアンヌの隣のショートボブの子が一生懸命介抱している。
(あら、この子、この間のマリアンヌの手下の一人ですわ)
私がニコリと彼女に微笑むと、彼女は引き攣りながらも、一生懸命私に笑顔を向けてきた。
(そう、それでよくてよ)
私はマリアンヌは彼女に任せて、チラリと辺りをうかがうと、教師席の教師たちには気づかれていなかった。ミントの聖女さまは大ウケしている。王都の聖女様は単純に妹を心配しているみたいだ。
(あ、王太子さま、やはり私を見ているわ。院長から私を見張るように言われているのかしら)
どうやら開始の時間になったようで、在校生の中の一人が正面舞台の右下の司会者席に入り、開会を宣言した。
私は新入生代表として、壇上まで進んで、今後三年間の抱負を朗読した。王太子さまの視線が気になったが、よく考えると、朗読している間は、会場のほぼ全員が私に注目しており、そんなに思ったほど不自然ではなかった。
(私が気にし過ぎかしら)
無事、私が役目を終え、席に着こうとしたとき、会場がざわついた。
人々の視線の先に目を向けると、アネモネが騎士を引き連れて会場に入って来るところだった。
(院長っ!?)
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