幕間 不死王の目標

 不死王は五千年以上前に魔界から人間に憑依した悪魔が、そのままの状態でアンデッドになったという非常に珍しいハイブリッド種だ。


 不死王はボーンの前世の記憶の「日本」に魅せられていた。


(何と言っても女の子がエッチで可愛いのがいい!)


 妃のベラには人間には興味がない素ぶりを見せているが、実際は人間の女が大好きだった。そういった点で、ボーンとは気が合いすぎるほどに合ったのである。


 スキル「日本」を作り出し、エルフの国にリトル日本を作る


 それが、不死王の目下の目標であった。不死王は「創生」という激レアスキルを持っており、「合成」、「修練」、「技能」のスキルと組み合わせて、新たなスキルを生成する能力を持っていた。


 不死王はエルフ王から広大な土地を譲り受け、ここに日本の娯楽の全てを詰め込もうと考えた。


 まずは自身の邸宅を高級温泉旅館を模して建設することにした。


 スキル「大工」を持つアンデッドを召集し、建築に当たらせた。設計は不死王自身が行い、図面も書き起こした。ボーンが生前に訪れた数々の高級旅館を参考にしつつ、オリジナリティを随所に入れたこだわりの宿に仕立てた。


 日本の技術力は高く、不死王の知識では日本の旅館の完全なコピーは難しかったが、建築途中で何度かボーンにも監修をしてもらい、完成した本邸は満足の行くものだった。


 不死王はボーンに本邸が完成したことを報告した。


「ボーンさん、本邸を『妖精花壇』という名前で呼ぼうと思います」


「不死王さん、それはまた淫靡いんびな名前ですね」


「そんなことはないです。ほら、箱根に有名な高級旅館があったでしょう。そこに負けないサービスを受けたいのですよ。ここはエルフの国ですから、エルフの別名の『妖精』を冠したのです」


「何だか妖精を栽培しているようで、綺麗な女を選び放題なイメージしか湧いてきません」


「ボーンさん、あなた、一度、頭をキュアしてもらった方がいいかもしれません」


「そんなことしたら、頭が蒸発しちゃいますよ」


「ははは、冗談はさておき、料理人の手配はお任せしていてよろしいのでしょうか」


「はい、『エルフ時代』のイブをこっちに連れて来ています。彼女の選定したエルフたちに私がすでにスキルを授与してまして、全員の訓練が先日終わりました。あとは彼女が全て仕切ってくれますよ」


「楽しみです。いずれは離れと別邸も作ろうと思いますが、まずは街づくりですね。早くスキル『日本』を創生して、住民にスキルを授与しないとリトル日本は作れませんから」


「日本のスキルを持った住人が日本を作りあげて行くという仕組みですか。なるほど、面白い発想です」


 邸宅の北側に、宿舎や病院、学校といった施設の建設を始めていて、住民の受け入れの準備を進めている。住民にはスキル「日本」の取得を義務付けるが、魅力的な優遇措置があるため、初回募集の千人はあっという間に埋まった。


 今後、商店街、飲食店街を整備したり、ショッピングセンターやアミューズメント施設などの建設も予定しているが、それらは住民に任せるとして、不死王とボーンは、これぞ日本ともいうべき「ザ・日本」の建設計画に着手していた。


 本邸から少し離れたところに、地下五階まである地下施設を秘密裏に建設し、そこに数々のアイデアを盛り込んだ風俗店を開業させるのだ。


「メイド喫茶いれますか?」

「ブルセラ店とか大人のおもちゃとかのグッズ販売店も必要ですかね」

「俺はイメクラって、重要だと思います」

「回春マッサージって何ですか?」


 不死王とボーンは、日々けんけんがくがくの議論を行い、一つの結論に達した。


 どうせすぐに飽きるから、それぞれの階のインフラだけをきちんと整備して、次々にサービスを入れ替えて行こう。そう考えて、必要なインフラの観点から業種分けをして、各階にオープンさせる業種を以下のように決めた。


 地下一階 ショップ系:大人のおもちゃなど、カフェ系:メイド喫茶など

 地下二階 飲み屋系:ガールズ居酒屋、ガールズバーなど

 地下三階 ラウンジ系:ラウンジ、クラブ、キャバクラなど

 地下四階 ベッド、シャワーなどのレンタルルーム

 地下五階 ヘルス系:詳細割愛、ソープ系:詳細割愛


「よし、これで行きます」


「地下五階は見つかるとまずいですね。セキュリティは万全にすべきです」


「心得てます」


「完成が楽しみです」


 そして、何日か経ったある日、待ちに待ったスキルが生まれたが、スキルの名前を見て、不死王は愕然とした。


(スキル「佐藤」って何なのだ!? これは日本なんかではなく、ボーンの煩悩でしかないのかっ……)


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